オフィス回帰を促すために企業が留意すべき「健康志向」
オフィス回帰が本格化するなか、オフィスで働く従業員が求めているのは「健康志向」といえそうだ。社食や屋外スペース、ストレス防止となる防音対策など、ウェルビーイングを重視したオフィス戦略が注目を浴びている。
オフィス回帰を促すために“健康”は避けては通れない
オフィス回帰を提唱する企業が増えるなか、従業員は“健康”に関して経営層が目標を見失っているというサインを送っているようだ。
JLLのグローバルベンチマーキングサービスチームによる調査では、食事から柔軟性まで、オフィスにおける 12 のウェルビーイング要素のうち 8 つが従業員の期待を満たしていないことがわかった。さらに、従業員の3 人に 2 人が“通勤”がオフィス勤務の最大の障害と回答しており、オフィス内部に至る以前から大きな課題が存在している。
JLL グローバルベンチマーキングサービスの責任者を務めるビクトリア・メジェビッチは「企業がオフィス出勤を義務付ける傾向が強まるにつれ、オフィスに対する従業員の感情は過去 12 カ月間で否定的に変化している。通勤にかかるコストと時間に加え、オフィス内の温度や騒音、ソロワーク可能な集中スペースの不足、食事の選択肢が少ないなど、従業員満足度に直結する基本的なエクスペリエンス(体験)要素が満たされておらず、様々な問題を引き起こしている」と指摘する。
とはいえ繰り返しになるが、世界的にみても確実にオフィスでの就労時間を増やす方向にシフトしている。JLLのグローバル調査レポート「The Future of Work Survey 2024」(英語版)によると、10社中4社が従業員の週5日勤務を望んでおり、ハイブリッドワーク制度の採用企業でも43%が2030年までにオフィス勤務日数が増加すると予想している。
しかし、オフィス回帰を強いることで従業員の肯定的な感情が低下することを鑑みると、オフィスが従業員の心身の健康をどのようにサポートするのか、企業は再考する必要がある。先進的な企業が重視している取り組みを以下にまとめた。
食の重要性がさらに増している
社員食堂とカフェは、現在のオフィスの中でも最も重要な2つの機能となっている。一方で、食に関する満足度は決して高くはない
従業員の幸福と生産性向上のため、従業員の心をつかむには胃袋をつかむことが最も効果的だと考えられるようになっている。JLLのグローバル調査によると、社員食堂とカフェは、現在のオフィスの中でも最も重要な2つの機能となっている。一方で、食に関する満足度は決して高くはない。
メジェビッチは「在宅勤務中の従業員は自身の食生活をコントロールしやすかったため、オフィスで過ごす時間が長くなるにつれ、食事の質と豊富な選択肢が重要になってきている。特に、節約のために昼食を持参することが多い若手はそう考えている」と指摘する。
同僚同士のコミュニケーションの多くは、共に昼食をとったり、コーヒーを飲むなど、飲食から発生することが多く、メジェビッチは「従業員割引のある社食やスナックの品揃えを充実させることで、従業員の満足度に大きな影響を与えることができる」と述べている。
オンライン会議の普及で音漏れがストレス要因に
JLLのグローバル調査によると多くの企業がオフィスに従業員を呼び戻すための主な理由としてコミュニケーション活性化などのコラボレーションを挙げている。そのため固定デスクなどの占有型スペースをコラボレーションのための共有型スペースへと積極的に転換するケースが増えているのだが、予想外の課題も顕在化している。
メジェビッチによると「従業員は1日のうちオフィスで多くの時間を過ごし、特に集中力を要する業務に費やしているが、予約可能な集中スペースが不足しているため、気が散ることに苦労している」という。さらに、オンライン会議が定着したことで、会議の実施回数が増加。対面とオンライン双方の参加者が混在することになり、デスクからオンライン会議の参加する際の音漏れが他の従業員のストレスの原因になる可能性も指摘されている。
屋外スペースは従業員のリフレッシュに役立つ
屋外スペースが充実しているオフィスは人気が高く、米国では賃料水準が5%以上高くなることも頻繁にみられる
高い集中力が求められる業務や長時間の会議によって疲弊した心身をリフレッシュさせるためのオフィス機能としてリフレッシュスペースを整備するケースは少なくない。最適な場所は「屋外」とされる。中庭や屋上庭園、緑地、テラスは需要が高く、心身の健康と生産性向上の観点から高く評価されている。
実際、屋外スペースが充実しているオフィスは人気が高く、米国では賃料水準が5%以上高くなることも頻繁にみられるという。
「オフィスでの過ごし方を考えると、勤務時間内に1時間ほどヨガ教室に参加するのは非現実的だ。会議や電話の合間のわずか数分間程度、緑や新鮮な空気に触れることで、リラックスできるような場所を好んでいる」(メジェビッチ)
また、ハイブリッドワーク時代においてフィットネス施設が多くの従業員の日常生活の中心となっているにもかかわらず、企業は社内ジムや瞑想ルーム、トレーニングルームなどが十分に活用されていないことに気付きつつある。
メジェビッチは「従業員が仕事とプライベートを切り離したいと考えていることが一因」だとし「勤務時間内に同僚の前で汗を流すことに気まずい思いをする人もいる。自分のペースで健康を維持したい人にとって、ジムの会員費用などを企業が負担することのほうが喜ばれる可能性がある」との見解を示す。
健康志向の高まりを受けオフィス市場に変化の兆し
セカンドマーケットとみなされていた都市が生活の質の高さや通勤時間の短さから、グローバルな金融サービス企業やテクノロジー企業の誘致に成功
こうした健康志向がオフィスライフに取り入れられることで、メジェビッチは「将来的には都心のビジネス街とは異なる、より居住地からの利便性が高いエリアに企業がオフィスを整備する可能性がある」と指摘する。
例えば、米国のダラスやマイアミ、スペインのマラガなどのセカンドマーケットとみなされていた都市が生活の質の高さや通勤時間の短さから、グローバルな金融サービス企業やテクノロジー企業の誘致に成功している。
そして、メジェビッチは従業員が求める新たなオフィスサービスとして、医療機関や医療サービスを容易に利用できる体制づくりを挙げる。通院や検査のためにわざわざ休暇を取る必要がなくなるが、こうした潜在的な従業員のニーズをいかに支援していくか、今後のオフィス戦略に求められそうだ。
※本稿はJLLグローバルの記事「Workplace wellbeing still missing the mark」をもとに作成しました。