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アフターコロナに適応するサステナブルなオフィスビル-100%再エネ活用の波

国際的な環境イニシアティブ「RE100」参画企業がオフィスビルのサステナブル化を牽引している。米国ではオール電化ビルの開発が進み、日本の大手不動産会社は再生可能エネルギー由来の電力供給に舵を切る。コロナ禍で社会環境が大きく変化する中、サステナビリティが不動産の価値を左右する時代が到来しそうだ。

2021年 04月 28日

オフィスビルに求められるサステナビリティの観点

コロナ禍がオフィス市場にパラダイムシフトをもたらした。JLL日本 リサーチ事業部長 赤城 威志は「コロナ禍によって在宅勤務が定着し、働き方が大きく変化した。オフィス市場にも影響が及び、健全な淘汰が進む」と推測する。

社会環境の変化を受けて、これまでもオフィスビルは変革を繰り返してきた。コロナ禍に直面したオフィス市場も同様に、立地を含めてウィズ・アフターコロナに即応したオフィスビルが選ばれることになりそうだ。

今後必要とされるオフィスビルの要件として「ウェルネス」、「DX化」、そして「サステナビリティ」が挙げられる。赤城は「この3つのファクターはコロナ禍に適応した次代の社会態勢において必要不可欠な視点だ。以前から議論されてはいたものの、コロナ禍で重要度が一気に高まった」と指摘。中でも「サステナビリティ」に注力する機運がオフィス市場で顕著になっている。

米国ではサステナブルなオール電化オフィスが開発

化石燃料を動力源とする送電網で稼動する空調システム。天然ガスボイラーによる暖房。バックアップ電源として使用されるディーゼル発電機。これらはビルに必要不可欠な設備機器としておなじみだが、二酸化炭素排出量の削減という世界的な課題を解決する上で大きな障害となっている。

そうした中、太陽光や風力などによる再生可能エネルギーだけでオフィスビルなどの事業用不動産を稼働させる取り組みが広がりを見せている。

ソフトウェア大手のAdobeは、米カリフォルニア州で初となるオール電化のオフィスビル「アドビノースタワー」を建設中だ。同社は、企業が自らの事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な環境イニシアティブ「RE100」に参画している。「2035年までに100%再生可能エネルギーで業務を行うこと」を最終目標に掲げ、今回の開発プロジェクトはその一環と位置付ける。

日本は大手不動産会社がオフィスビルのサステナブル化を推進

RE100には世界各国の大手企業を中心に297社、そのうち日本企業からは51社が参画(2021年3月末時点)している。三菱地所や三井不動産、東急、東急不動産、ヒューリックなど、事業用不動産を多数保有・運営する大手不動産会社が名を連ね、すでに日本でも100%再生可能エネルギーによるビル運営を目指す動きが顕在化している。

三菱地所は再エネ電力比率を2030年までに25%、2050年までに100%と定め、その一環として2021年度より丸の内エリアで同社が保有・運営するオフィスビル18棟と横浜ランドマークタワーの計19棟において、全電力を再生可能エネルギー由来とするという。

三井不動産は東京電力エナジーパートナーとオフィスビル等を対象とした「使用電力のグリーン化に関する包括協定」を締結。2021年4月から東京電力エナジーパートナーから電力供給を受けている保有・転貸オフィスビルのテナント等に対して、使用電力に卒FIT(固定買取価格制度)住宅用太陽光発電等の再生可能エネルギーを順次提供するという。

また、ヒューリックもFIT対象外となる自社保有の太陽光発電による100%再生可能エネルギー化を目指している。2020年10月に1号物件となる太陽光発電設備が完成し、稼働開始した。2025年のRE100達成に向けて今後も太陽光発電の開発を進めていくという。

赤城は「100%再生可能エネルギー供給でビルの消費電力を賄うことは、テナント企業に求められるカーボンエミッション達成に寄与し、ひいてはビルの魅力向上に寄与する。より高いオフィス賃料が見込めるようになれば、投資家が食指を伸ばし、さらに不動産価値が向上する可能性がある」と指摘する。

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不動産投資家も不動産のサステナブル化を重視

事実、不動産投資家は環境対策の重要性に反応している。不動産会社やファンドを対象にESG(環境・社会・ガバナンス)配慮を測るベンチマーク評価として、2009年に創設されたGRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark)には2020年の参加数が22%増加したと報告している。

「サステナビリティ」は不動産投資市場の透明度向上に寄与

「世界の不動産市場に対する投資のしやすさ」を測る資料として世界各国の政府関係者や国内外投資家に活用されてきたJLLの「グローバル不動産透明度インデックス」でも環境対策を主軸とする「サステナビリティ」項目の重要性はますます高まっている。ESGを重視する潮流はこれまで以上に拡大していくことが予測される。

赤城は「サステナビリティは企業としての社会的責任のみならず、今後は事業活動における実益に直結する重要項目になるだろう」と予測する。環境対策が不動産の価値を左右する時代が到来しそうだ。

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連絡先 赤城 威志

JLL日本 リサーチ事業部長

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