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GRESBの評価を向上させる効果的な施策とは?

不動産等の実物資産を保有・運用する企業やファンドのESG配慮を測る国際的ベンチマーク「GRESB」。GRESBの評価によって投資判断が下される中、スコア改善に向けた施策について考察した。

2021年 09月 03日
ESGが不動産投資の重要指標に

持続可能な社会の実現に向けて、ESG(環境・社会・企業統治)に配慮して事業活動を展開する企業に対して重点的に投資する「ESG投資」が注目を集めている。

ESGとは社会に対して企業が負うべき責任を表しており 二酸化炭素排出削減や再生可能エネルギーの活用といったサステナビリティに対する取り組み(Environment)をはじめ、労働環境の改善や女性の積極的活用といった社会的貢献に対する取り組み(Social)、 不正・不祥事を起こさない事業活動への取り組み(Governance)の3要素で構成される。

これまで投資先(企業、不動産等)の価値を測る判断基準として利益率等の財務情報が重視されてきたが、サステナビリティに基づく非財務的要素であるESGに着目し、長期的な視点で成長性やリスクファクターを評価する潮流が定着しつつある。ESG投資は長期的な資産運用に適しているとされ、巨額の資金を運用する公的年金や投資ファンド等がESG投資を実践。不動産投資市場に多大な影響を及ぼしているのだ。

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ESGパフォーマンスを測るGRESBとは?

これまではGRESBに参画していることが『ESGに積極的に取り組んでいる』ことを示す1つの差別化要因になっていたが、現在はGRESBへの参加がスタンダードになっており、いかに評価を上げていくかが差別化戦略として求められている

不動産投資市場でESG投資の機運が高まる中、存在感を高めているのがGRESBだ。一般的に「グレスビー」または「グレスブ」と呼ばれ、2009年に欧州年金基金が中心となって創設。不動産やインフラストラクチャ―を保有・運用する企業やファンドのESG配慮を測る国際的なベンチマーク評価(年次)を指す。実物資産のESGパフォーマンスを評価し、その情報を投資家側と企業側で共有するプラットフォームとして機能している。企業側は当該不動産におけるESGに関連する現状の取り組みを評価し、改善点を導き出すことができる。一方、投資家は参画企業のESG評価を投資判断材料として活用する。

GRESBの参加企業は年々増加しており、2020年度の参加企業数は世界全体で1,229社を数え、日本からは85社が参加。アジア圏で見ると日本からの参加企業数が際立って多い。不動産のサステナブル化を多数サポートしてきたJLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部長 奥田 知康によると「これまではGRESBに参画していることが『ESGに積極的に取り組んでいる』ことを示す1つの差別化要因になっていたが、現在はGRESBへの参加がスタンダードになっており、いかに評価を上げていくかが差別化戦略として求められている」と指摘する。

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GRESBの評価を高めるポイント

では、GRESBの評価を向上させるためには、どのような点に注力すればいいのだろうか。奥田は「パフォーマンスをいかに向上させていくかが重要」との認識を示す。

GRESBの評価項目は「マネジメント」と「パフォーマンス」に分かれ、前者は企業の経営管理においてサステナビリティに関する規定等を導入しているかが問われる。ESGに関する体制・目標・ポリシーの整備状況、ESGに関する情報開示、管理システムの有無等で評価される。

一方、後者はエネルギーや温室効果ガス、水、廃棄物等、ESGに関するデータ管理状況やアセスメントの実施状況、グリーン認証の取得状況等が評価され、ESGに関する不動産単体の環境性能が重視される。

GRESBでは評価方法は複数存在するが、不動産分野においてはこの2つの評価指標を点数化し、すべての参加企業の上位20%を「星5」、以下20%区切りで「星4-1」にランク付けする相対評価が主体となる。参加企業の全体傾向としてマネジメントは各項目で達成度が高い半面、パフォーマンスでは達成度が50%以下の項目が多い。改善余地が多分に残されており、パフォーマンス項目の改善がGRESB評価を向上させるための鍵となる。

GRESBの評価項目
マネジメント リーダーシップ ESGに関する体制、目標の整備状況
ポリシー ESGに関するポリシーの整備
報告 ESGに関する情報開示、違反の有無、
リスクマネジメント ESGの管理システムの有無、リスクアセスメントの実施状況(移行/物理リスク)
ステークホルダーエンゲージメント 従業員満足度、健康管理、ダイバーシティ、サプライヤのESG管理
パフォーマンス リスクアセスメント リスクアセスメントの実施、省エネ/水削減/廃棄物アセスメントと改善施策の実施
目標設定 エネルギー、CO2排出量、水、廃棄物、ビル認証、データ把握の目標設定、SBTiの参加
テナント&コミュニティ テナント満足度、ESG関連の内装工事規定、賃貸借契約、Well-Being、周辺地域
エネルギー エネルギーデータ管理状況
温室効果ガス 温室効果ガス排出量データ管理状況
水使用 水使用データ管理状況
廃棄物 廃棄物データ管理状況
データ管理&レビュー データ管理のレベル(第三者による確認、検証機関によるデータ検証)
ビルディング認証 グリーンビル認証、エネルギー性能評価
GRESB評価を向上させる3つのプロセス

相対評価を採用するGRESBの評価を高めるためには、競合となる他の参画企業を上回るスコアを取る必要がある。そのポイントとなるのがパフォーマンスに関連する各項目において省エネ等の具体的な改善施策を実施することだ。具体的な改善施策を効果的に策定・実施するためには3つのプロセスが存在する。

1. 現状把握

サステナビリティ向上の第一歩となるのが、データ管理・データ検証による「現状把握」だ。電力使用量、CO2排出量、水使用量、廃棄物量といったデータ管理を徹底し、改善余地を検証することが重要だ。奥田によると「データ管理・検証に関する評価項目はパフォーマンスの4割程度を占め、これらの項目を改善することが重要」との認識を示す。

2. 改善実施

電力、水、廃棄物の削減に直結するテクニカル・ビルディングアセスメントが主な改善ポイントになる。特に最も大きな比重を占めるエネルギー使用量をいかに削減するかが鍵となる。JLL日本では情報収集、現地調査、データ分析を行い、エネルギー削減施策と各施策の効果試算を報告書にまとめるエネルギー診断サービスとその削減施策の実施を支援するサービスを提供している。

3. 継続管理

GRESBでは参画企業に継続的なスコア改善を求めているため、データ管理を行い、改善したパフォーマンスを継続評価していく必要がある。不動産のサステナビリティ性能を継続管理する新たなベンチマークとして開発されたArcを活用するのも一考に値する。

エネルギー診断はGRESB評価向上に必要不可欠

GRESB評価向上の第一歩となる「現状把握」、その次のステップとなる「改善実施」を行うためには定期的なエネルギー診断は必要不可欠となる。奥田によると「GRESBでも3年に1度、エネルギー診断を実施することを推奨しており、それによってスコア向上のポイントになっている」と説明する。

例えば、省エネシステムを導入したものの設定値が最適化されていないケースだ。設置時の調整不足、メンテナンス担当者が代わった際の引継ぎ不足、管理マニュアルの不備といった諸問題が考えられる。こうした単純でありながらエネルギー診断を行わないと認識できない「無駄使い」は意外にも多い。

また、既存設備の老朽化に伴い、前例を踏襲して同じ機器に更新するケースも少なくないが、10年、20年前に旧設備を設置した当時から建物の用途や設備の使用頻度等が大きく変化している場合、単純に設備更新しても最適運用は実現できない。JLLが実施したエネルギー診断によって現状の電気使用量を把握し、最適な設備とすることで過大な設備投資を回避できた事例がある。

さらに、BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)に代表される、いわゆる「エネルギー見える化システム」を導入するのは建物内のエネルギー使用量を最適化する土台として非常に重要だが、「見える化」の目的に合致したシステムを選定するのは難しい。システムを導入したものの、使い勝手が悪く、最も知りたかったデータが計測されていない等、多数の見える化システムが存在する中で、導入側は主体的にシステムのスペックを決めるためにエネルギー診断を活用するべきだろう。

奥田は「注意したいのは『何をやればGRESBスコアが伸ばせるか』といった点に着目されがちなことだ。ただの点取りゲームではなく、現状把握・改善実施・継続管理を愚直に回していくことでサステナビリティを改善していくことが本質的な目的であることを忘れてはならない」と締めくくった。

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連絡先 奥田 知康

JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部長

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