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フレキシブルオフィスとは?多様な働き方に対応できる新しいオフィス形態

アフターコロナに適応する柔軟な働き方を実現するため、フレキシブルオフィスが注目を浴びている。本稿ではコアオフィスと在宅勤務の欠点を解消する「第3の働く場」であるフレキシブルオフィスの基本的な概念や導入メリット、注目される理由、利用形態について解説する。

2022年 07月 27日
フレキシブルオフィスとは?

フレキシブルオフィスとは従来のような賃貸借契約を締結して利用する固定的なオフィスではなく、流動的かつスポット的に柔軟に利用できるオフィスの総称である。英語で「柔軟な」を意味する「フレキシブル」は、その名の通り、契約スタイルが非常に柔軟であるため、フレキシブルオフィスと呼ぶ。
 

急拡大するフレキシブルオフィス市場

出所:JLL日本

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2021年における東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のフレキシブルオフィス市場(サービスオフィス、コワーキングスペース)は面積ベースで404,000㎡、前年比10%増となった。大型コワーキングスペースの新規開設が続いたほか、新規参入のフレキシブルオフィス運営事業者が積極的に出店。また、コロナ禍以降、フレキシブルオフィスに本社機能を移転させる事例も増え、施設利用者も大型化しており、フレキシブル市場の拡大に寄与しているという。

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フレキシブルオフィスが注目を集める理由

フレキシブルオフィスが注目を集める理由は、コロナ禍を受けて企業が多様な働き方を推進する必要に迫られているからだろう。コロナ禍でテレワークが急速に普及したのは記憶に新しいところ。この事象が日本企業のオフィスの概念を一変させたともいえる。

コロナ禍以前に働き方改革関連法が施行され、テレワークが普及し始めたころは情報セキュリティなどの面で否定的な見解も多かったが、ウイルス感染防止の観点からテレワークを導入する企業が増えるにつれ、拠点となるコアオフィスに一極集中して勤務させなくても業務遂行が可能であることが明らかになってきた。

しかし、当初は「テレワーク=在宅勤務」と捉える企業が多かったものの、狭小な住宅事情やITネットワークの脆弱さ、生活音、同居人との軋轢などがネックとなり、自宅は快適な執務環境とは程遠い。さらにオンとオフの切り替えが難しく、長時間労働に陥ったり、同僚とのコミュニケーションが失われ、孤独感や心理的負担を覚える従業員が現れるなど、様々な問題が浮上した。そうしたなか、コアオフィスと在宅勤務の欠点を補う「第3の働く場所」として、フレキシブルオフィスが注目されるようになったのである。
 

フレキシブルオフィスの特徴とメリット

フレキシブルオフィスは、短期間での利用契約、内装造作が用意されており、かつ利用状況に合わせて床面積(座席数)を柔軟に調整できる。コロナ禍によってテレワークの導入が進み、オフィスの出社人数が流動的になった企業などがフレキシブルオフィスを活用するケースが増えている

フレキシブルオフィスの特徴とメリットは、まさに「契約スタイルが柔軟である」点に集約される。具体的なメリットは以下の通り。
 
  • 契約期間は最短で1カ月から。スポット利用の場合は1時間単位で利用できる
  • 内装設備やデスク、事務用品、OA機器、ドリンク、フードなどの各種設備・サービスをオフィス側で用意していることが多い
  • 問い合わせから数日程度で施設を利用できる
  • 個人利用から企業・部署単位の利用まで、幅広い使用形態に対応
  • オフィスによっては事務代行サービスがオプションで付いている


従来のオフィスは不動産所有者と数年単位に及ぶ賃貸借契約を結び、専有部の内装や設備などは自前で用意しなければならず、退去時には原状回復工事が義務付けられていた。そのため、景気などの外部環境の影響を受けてもオフィス床を簡単に調整することができなかった。

一方、フレキシブルオフィスは、短期間での利用契約、内装造作が用意されており、かつ利用状況に合わせて床面積(座席数)を柔軟に調整できる。コロナ禍によってテレワークの導入が進み、オフィスの出社人数が流動的になった企業がフレキシブルオフィスを活用するケースが増えているのだ。

また、フレキシブルオフィスの国内大手、日本リージャスホールディングスによると、オフィスマーケットが落ち着くまでの一時避難場所、働きながら旅行を楽しめるワーケーションニーズへの対応、そして分散型オフィス戦略の実現などを目的に、コロナ禍以降もフレキシブルオフィスの需要は衰えていないとしている。

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フレキシブルオフィスの利用形態

フレキシブルオフィスには主に5つの利用形態がある。

サービスオフィス

ビジネスに必要な通信環境や事務機器などは全て備え付けられており、受付やサポートをしてくれるコンシェルジェも常駐。ラグジュアリー感のある演出、設えがなされている個室型のフレキシブルオフィス。オフィスによる企業イメージやブランディングの向上、快適な執務環境、好立地を得るのに適している。

レンタルオフィス

ビジネスに必要な通信環境や事務機器が始めから一通り用意される個室型のフレキシブルオフィス。サービスオフィスと同様の形態といえるが、その違いは明確に定められていない。しかし、レンタルオフィスとする場合、シンプルかつ実質的なオフィス機能のみが提供され、内装デザインなども簡素なケースが多い。一方、サービスオフィスはコンシェルジュが常駐していたり、内装にラグジュアリー感があったりなど、情緒的な体験価値でレンタルオフィスと差別化している場合が多い。

シェアオフィス

複数の企業や個人が1つのオフィスを共有して使う共有型のフレキシブルオフィス。フリーアドレス席を基本とし、一部固定席を用意する施設も存在する。個室タイプのレンタルオフィスやサービスオフィスよりも利用料が値ごろであるケースが多い。コストを抑えられるため、スタートアップ企業が拠点として利用する場合が多い。

コワーキングスペース

シェアオフィスと似ているが、昨今開業しているコワーキングスペースは同じ施設を利用している他社とのコミュニケーションやコラボレーションを意識して運営されており、専用の個室や占有スペースはあるものの、フリーアドレスの座席をさまざまな人と共有して使い、多くの人々と交流できるオープンスペースやイベントスペースを用意している。加えて、施設運営を担うコミュニティマネージャーを介して協働の可能性がある人材、企業をマッチングしてくれる施設もあり、カジュアルなコミュニケーションが発生しやすく、ネットワークの構築に役立つ。

サテライトオフィス

サテライトオフィスとは本拠地となるコアオフィスとは異なる場所に開設する小規模なオフィスを指す。立地によって「都市型」、「郊外型」、「地方型」の3パターンに分類され、それぞれ利用目的が異なる。都市型は都心Aグレードオフィスなどに入居する大規模コワーキングスペースなどが該当し、地方・郊外に本社を構える企業の都心における営業所として活用される他、移動時間の無駄の解消、BCP対策などが視野に入る。居住エリアに開設する郊外型は通勤時間の短縮など、従業員の利便性向上が主な目的。地方型は都心の企業が地方で新規ビジネスをスタートする際の営業拠点や出張時の執務場所の確保、事業拡大を目的にする場合が多い。または自然豊かな地方都市にサテライトオフィスを開設することで、福利厚生やワークライフバランスの向上を目的とするケースも見られる。
 

フレキシブルオフィスの活用イメージ

コアオフィスとフレキシブルオフィスを組み合わせると、時間や空間の制約が低減され、多様な組織の形態や働き方に対応できるようになる

実際にフレキシブルオフィスはどのように活用されているのか、活用イメージを紹介する。

自社リソース不足を解消

入居者の様々なニーズをサポートするコミュニティマネージャーが常駐するフレキシブルオフィスでは、入居企業から「システム開発を外注したい」というニーズがあれば、コミュニティマネージャーを介して施設内の入居者から対応可能な企業・人材を見つけてマッチングしてくれるなど、フレキシブルオフィス内のコミュニティを有効活用できるため、自社リソース不足を補いたいスタートアップ企業の人気の高いフレキシブルオフィスが存在する。

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アフターコロナに向けた新しい本社オフィスの形

コロナ禍で生じたオフィスに対する新たなニーズに柔軟に対応できるフレキシブルオフィスの特性は、アフターコロナを見据えた働き方を実現する上で有用性が高い。例えば、IT大手のDeNAは多様性のある働き方を実現するためにテレワークとオフィスワークの組み合わせを前提に、フレキシブルオフィスへ本社機能を移転したという。また、部署間のシナジー創出の機会として、従業員がどこにいても業務ができる多様かつフレキシブルなワークスタイルと業務プロセスの見直しによって生産性向上の一助になるとして、シンガポール航空の日本支社がフレキシブルオフィスを活用している。

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フレキシブルオフィスはオフィスの新しい形態であるが、従来型のオフィスと相反する存在ではない。むしろ、賃貸契約を結んでいる従来型のコアオフィスとフレキシブルオフィスを組み合わせて、柔軟な働き方を実現しているケースが多々ある。例えば以下のような事例である。

  • 地方への営業のときにフレキシブルオフィスを一時的な拠点として利用する
  • ワーケーションにて利用する。ワーケーションとはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた造語で、旅行を楽しみながら仕事をする
  • 社員が在宅勤務・フレキシブルオフィス・コアオフィスを気分に応じて選択できるようにする

上記のようにコアオフィスとフレキシブルオフィス、さらに在宅勤務など、働く場所を組み合わせたハイブリッドワークを実践することで、時間や空間の制約が低減され、多様な組織の形態や働き方に対応できるようになる。今後もフレキシブルオフィスの市場は拡大していくだろう。

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