タッチダウンオフィスとは?メリットや導入方法を解説
近年ますます多様化するオフィスタイプの中で、フレキシブルオフィスの一形態として注目される「タッチダウンオフィス」について解説する。オフィススペースの効率化や生産性向上につながる判断材料にしてほしい。
タッチダウンオフィスとは?
タッチダウンオフィスとは、外回りや出張中の従業員が短時間の業務を行うことを主目的としたワークスペースである。「タッチダウン」は英語で「着陸」を意味し、一時的に滞在する空港を由来とする。
デスクと椅子・パソコン・電話・複合機など業務に必要な設備や通信環境が整備され、自社拠点がないエリアや、ターミナル駅周辺などアクセスのよい場所に開設されることが多い。
タッチダウンオフィスが普及した背景
タッチダウンオフィスは、働き方の多様化やリモートワークの普及を背景に注目が集まっている。働き方改革の推進にともない、場所や時間の選択肢を広げてより柔軟に働ける環境の構築が求められているほか、移動を含めた労働時間削減のニーズも影響している。
さらにタッチダウンオフィスはオフィススペースを最適化でき、業務効率化やコスト削減といった課題解決にも寄与することから導入を検討する企業が増えている。出張者の作業のため社内にタッチダウンスペースを設ける企業も見られる。
タッチダウンオフィスを導入する目的
企業がタッチダウンオフィスを導入する目的は、おもに業務効率の向上とコスト削減だ。
出張や外出の多い従業員が都度メインオフィスに戻らず、最寄りで作業できる環境を整えることで、時間を有効活用できる。またメインオフィスの席数を調整できるなど、固定費削減が期待できる。
「タッチダウンスペース」、「サテライトオフィス」との違い
タッチダウンオフィスは一般的に社外に設置する簡易的な作業スペースを指す。一方、社内に設置された一時(簡易)作業用のエリアは「タッチダウンスペース」と呼ばれ、これらは機能的には似ているが、設置場所によって区別されている。
メインオフィスとは別に配置する小規模オフィスとしては「サテライトオフィス」が知られるところだが、機能面においてタッチダウンオフィスとほぼ同義といえるだろう。
しいて言えば、タッチダウンオフィスは主に外回り営業などの一部従業員による一時的な利用を想定しており、本社オフィスから離れた地方都市などの拠点整備も含めているのに対し、サテライトオフィスは本社オフィスの「衛星」のように比較的近い場所に開設され、より多くの従業員が中長期的に利用することを想定している点において違いがある。
タッチダウンオフィス導入のメリット
タッチダウンオフィスが企業にもたらすメリットには次のようなものが考えられる
業務効率と生産性の向上
タッチダウンオフィスの導入により、出張先や外回り中のスキマ時間を有効活用できる。移動時間の短縮や作業場所を探す手間を軽減できる他、必要な設備が整った環境で作業できるため、業務効率化(生産性の向上)も期待できるだろう。
社内コミュニケーションの活性化
社内に設けられたタッチダウンスペースでは、出張中の従業員や他の部署の従業員などが部門を超えて交流でき、新たな発見や発想が生まれやすくなる他、リモートワークの導入により希薄化しがちな社内コミュニケーションの改善にも効果的だ。
従業員の集中力向上と気分転換
社内外に複数のワークスペースを設けることにより、従業員がその時々の気分や業務内容に合わせて作業場所を選べるため集中力の向上が期待できる。環境を変えることでリフレッシュ効果も得られ、モチベーションの維持にも役立つ。
BCP対策
タッチダウンオフィスの導入は、企業のBCP(事業継続計画)対策にも有効だ。災害や感染症などの緊急事態が発生した際にも、従業員が自宅や避難先近くのタッチダウンオフィスを利用することで業務継続が可能となる。
タッチダウンオフィスが向いている企業の特徴
タッチダウンオフィスは、以下のような特徴や課題を持った企業に特に適している。
生産性の向上を目指す企業
オフィスのスペース不足に悩む企業
柔軟な働き方の実現を目指す企業
従業員のメンタル面に課題を抱える企業
特に、働き方改革を推進する企業にとって、タッチダウンオフィスの導入は検討に値する選択肢だといえるだろう。
多拠点・リモートワーク・出張や営業で外出する従業員の多い企業がタッチダウンオフィスを選んでいる
企業がタッチダウンオフィスを導入する2つの方法
タッチダウンオフィスを導入するには、おもに次の2つの選択肢がある。
社外のフレキシブルオフィスを活用する
自ら賃貸借契約を結び、タッチダウンオフィスとして利用することも考えられるが、コスト負担や契約の柔軟性の観点から、コワーキングスペースやシェアオフィスに代表される外部貸しのフレキシブルオフィスを活用するのが現実的だ。コロナ禍を受けて全国に拠点網を拡大しているフレキシブルオフィス運営事業者も台頭しており、外出先や出張時でも必要なときだけ快適な作業環境を利用できるため初期費用や維持コストを抑えることも可能だ。
また、異業種・業界と交流する機会を提供しているコワーキングスペース利用は新しいアイデアやビジネスチャンスの創出も期待できる。
社内にタッチダウンスペースを設置する
もう一つの方法は、既存オフィス内にタッチダウンスペースを設置することだ。オフィスの一部をフリーアドレス化し、固定席が必要ない従業員や外出が多い従業員が気軽に利用できるスペースを提供することで、オフィススペースの最適化や社内コミュニケーションの促進につながる。
従業員が業務にあわせて執務環境を選択できることで、業務効率の向上やモチベーションアップも期待できる。
タッチダウンオフィス導入時の注意点
タッチダウンオフィスの設置にあたってはいくつか注意すべき点もある。
セキュリティ面
タッチダウンオフィスとしてフレキシブルオフィスを活用する場合、不特定多数が利用するため情報漏洩やID・パスワードの盗難などのセキュリティリスクが高まる。導入前にセキュリティルールの設定と周知徹底、リスク回避の仕組み作りが必要になる。
社内の受け入れ体制
タッチダウンオフィス導入の成否は社内の受け入れ体制に大きく左右される。利用ルールや運用方法を明確にし、全従業員に周知することが重要だ。また既存の勤務制度との整合性を図り、公平な利用機会を確保する必要がある。導入後も定期的に利用状況を確認し必要に応じて改善を行うことで、効果的な運用ができるだろう。
タッチダウンオフィスを導入する流れ
自社にタッチダウンオフィスやタッチダウンスペースを導入する際は、以下のようなステップで進めよう。
タッチダウンオフィスの設置場所を検討・選定する
まずは社内・社外のどちらに設置するのか、従業員が利用しやすい場所かどうかといった視点で適切な立地を検討・選定する。交通アクセスや周辺環境を考慮し、できるだけ多くの従業員が利用しやすい場所を選ぶことで活用頻度が高まる。
利用人数や利用シーンを整理しておく
次に想定利用人数と具体的な利用状況を明確にする。従業員アンケートや社内データを基に、実際に利用する可能性のある従業員数を把握する。また、リモートワーク利用・外出時の一時利用・出張先での作業など、想定される利用シーンを整理することで、必要なスペースや設備の条件が割り出せる。
運用ルールを策定し、従業員に告知する
最後に運用ルールを策定し全従業員に周知する。利用目的・対象者・利用方法などを明確に伝える一方で、細かなルールは最小限に抑え、誰でも気軽に利用できる雰囲気づくりも欠かせない。
タッチダウンスペースを設置する場合は必要な備品を用意する
フレキシブルオフィスを利用し、外部にタッチダウンオフィスを設置する場合は問題ないが、社内にタッチダウンスペースを開設する場合は業務に必要な備品を整える必要がある。以下は主な例となる。
デスク・椅子
電源コンセント
通信環境
複合機(プリンター/コピー機)
スタンディングデスクやカウンター
利用目的に応じて大型テーブルや収納棚なども検討しよう。自席と異なる雰囲気作りも、リフレッシュや作業効率アップに効果的だ。
タッチダウンオフィス以外の選択肢となるオフィスタイプ
タッチダウンオフィスを含めたフレキシブルオフィスの形態には、他に以下のようなタイプもある。
レンタルオフィス
サテライトオフィス
シェアオフィス
コワーキングスペース
インキュベーションオフィス
レンタルオフィスは、ビジネスに必要な機器やインフラ一式が揃っていてすぐに事業開始できる区画を提供するオフィスで、有人のサービスは提供されないが、費用を抑えて入居できる。
サテライトオフィスは、メインオフィスと離れた拠点や従業員の居住地近くに小規模なオフィスを配置する形式で、活用法はほぼタッチダウンオフィスと同じだ。
シェアオフィスはオフィススペースを複数の利用者で共有する形式で、契約者ごとに簡易的にスペースを区分する施設が一般的。賃貸借契約でなく月額制や従量制などが多い。
コワーキングスペースも、業務に必要な設備とスペースを共同利用するオフィス形態。従来はフリーランスなどの利用が多かったが、利用者同士を繋げるネットワークイベントなどの仕掛けを行うケースが多く、イノベーション創発などを目的に大手企業の活用も進んでいる。
インキュベーションオフィスとは、スタートアップやベンチャーなどの創業間もない企業向けに、必要なスペースと設備が用意されているオフィス。主に自治体が運営している。最大の特徴は経営の専門知識を持った「インキュベーションマネージャー」が常駐していることで、入居した企業はインキュベーションマネージャーから経営ノウハウ・資金計画・人材紹介といったアドバイスやサポートを受けられる。
タッチダウンオフィスを含む、柔軟な働き方に対応したオフィスはフレキシブルオフィスと呼ばれている
最適なオフィスタイプの選択に迷ったらJLLへ
タッチダウンオフィス・タッチダウンスペースは、出張や遠方への営業が多い企業や、柔軟な働き方を推進したい企業にとって、メインオフィスへの移動時間やコストを削減できる有効な選択肢となりえる。
しかし、タッチダウンオフィスと類似したフレキシブルオフィスは他にも複数あり、それぞれに特徴とメリットデメリットが存在する。そして、大型コワーキングスペースなどを本社オフィスとして利用する外資系企業や日系企業も増えている。多岐にわたる選択肢の中から自社に最適なオフィスタイプを見つけ出すには、ワークレイス戦略の専門家であるJLLにご相談ください。