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日本の不動産投資市場、マイナス金利解除後の行方

2007年以来、実に17年ぶりに将来的な利上げを含むマイナス金利の解除を行った日本。先行して利上げを継続してきた米国、欧州などのグローバルな不動産投資市場は投資活動が停滞したが、日本は堅調に推移し、海外投資家の耳目を集め続けるマーケットであり続けるだろう。

2024年 04月 16日

本稿は、JLLグローバル記事「What next for real estate investors after Japan’historic rate hike?」を翻訳したもので、日銀によるマイナス金利政策の解除を受けて、日本の不動産投資市場にどのような影響が現れるのか、海外と国内双方からの視点で解説します。

なお、JLLでは不動産投資に関する様々なサービスを国内外問わず一気通貫で提供しています。ご興味にある方は下記関連ページをご覧いただくか、情報収集・質問などございましたら下記フォームからお問合せください。

関連情報:

日銀が17年ぶりにマイナス金利の解除を決定

日本銀行(日銀)による17年ぶりの歴史的な政策変更が日本の不動産市場や投資家心理に与えた影響は、海外視点では極めて小さく映っている。

日銀当座預金に適用する金利を0.1%とし、金融機関同士が短期市場で資金をやり取りする際の金利である「無担保コールレート」を0-0.1%程度で推移するように促す他、イールドカーブ・コントロールを終了させたが、市場関係者はこのマイナス金利政策の解除を予想しており、大きな混乱は生じなかった。

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日銀による政策変更は他の主要中央銀行が実行した25bpsの利上げ3回分以上に相当する

しかし、日本の金融政策が新たな方向を向いたことで、金利上昇における潜在的な影響力が為替レートに及ぶ可能性がある。こうした指摘をするのは、JLL 欧州・中東・アフリカ地域(EMEA) マクロリサーチ・グローバルディレクター 兼 チーフエコノミストのデイビッド・レアである。

「円はドルに対して数十年ぶりの安値を付けた。ゼロ金利下で円を借り、より高い金利の米国債などに投資し利ザヤを稼ぐキャリートレードは日本の投資家にとって非常に有利に働く。円安によって、これらの海外資産は円換算で価値が高まった」(レア)

こうした状況下、アウトバウンド投資を行っていた不動産投資家はキャピタル・フロー(資本移動)の変化に影響される可能性がある。ただし、これは歴史的に…例えば小規模市場から投じられる資金に比べて微々たる影響にとどまるだろう。

しかし、少し見方を変えると、マイナス金利解除による微細な数字上の変化はより大きな意味を持つのではないだろうか。その理由は、日銀による利上げは他の主要中央銀行が実行した25bpsの利上げ3回分以上に相当するためだ。

レアは「日本の政策金利は1995年以来、0.5%を超えたことがない。つまり、過去30年間の政策金利の最低値から最高値までの最大変動幅は0.6ポイント、つまり60bpsとなる。日銀による利上げは過去2年半にわたって利上げを実施した米・連邦準備理事会の累計利上げ幅525bpsに匹敵する」と指摘。ちなみに、イングランド銀行は525bps、欧州中央銀行は450bpsである。

グローバルとは異なる日本の利上げ

とはいえ、日本の動きはインフレを抑制するために積極的な利上げを行った後、金利を据え置いた連邦準備理事会やイングランド銀行など、他国の中央銀行とは対照的といえる。例外的にスイスは先進国の中で唯一逆方向に進んでおり、政策金利を0.25ポイント引き下げ、1.5%に決定したことで市場を驚かせたが…

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二は「こうした金利政策の違いは主に世界の国々と比較して日本の経済状況が大きく異なることに起因する」と指摘する。

「日本のインフレ率は2%前後で推移しており、インフレ上位市場と比較すると緩やかだ。賃金の伸びも限定的であり、一部では停滞している。これは、大幅な利上げが日本経済に悪影響を与える可能性があることを意味している」(内藤)

海外投資家は日本市場に注目し続ける

海外投資家は利上げ後も日本の不動産に高い関心を持ち続けている(画像はイメージ)

利上げにもかかわらず、日本の強固なファンダメンタルズ(回復力、安定性、低い政治リスク)は依然として投資家にとって妙味のある投資市場として評価されている

借入コストの微々たる上昇を除けば、内藤は「日本の不動産市場に目立った変化はない」とする。反対にJ-REITや私募REITがポートフォリオを組み替えていることによって各不動産セクターは総体的に好調さを維持している状況だ。

つまり、利上げにもかかわらず、日本の強固なファンダメンタルズ(回復力、安定性、低い政治リスク)は依然として投資家にとって妙味のある投資市場として評価されているのだ。

「今回の利上げで借入コストが微増することが唯一のマイナス要因といえるが、海外投資家は依然としてアウトバウンド投資を志向し続けており、その選択肢の最上位に日本が位置している。日本の不動産投資市場は2024年後半から投資額が増加し、2025年にかけて比較的安定して投資額が積み上がるだろう」(内藤)

今後、日本の不動産へグローバルマネーが集まってくるかどうかは日銀の動きにもかかわってくるだろう。しかし、内藤は「日銀は大幅な賃金上昇と経済の安定を確信しなければ、追加利上げはない」と予想しており、この慎重姿勢によって国内不動産投資市場は引き続き堅調に推移していくとみている。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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