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日本企業の東南アジア・インド進出を成功に導くためのポイントとは?

成長著しいマーケット、豊富な労働人口などを背景に、日本企業は東南アジア・インドへの進出を本格的に検討するようになっている。一方、国・都市によって法規制や商習慣、不動産などのインフラ整備状況、インセンティブなどが大きく異なり、最適な進出地を探すためには様々な角度から検討することが求められている。

2025年 02月 13日
日本企業が海外進出を目指す理由

1980年代、高機能・高品質な製品を次々と生み出し、世界を席巻した日本。急速な経済成長を成し遂げるも国内人件費が高騰したため、生産拠点の海外移転が相次いだ。なかでも、安価で豊富な労働力を有するアジアへの進出が目覚ましく、現地生産・現地販売によるグローバル展開が進められ、国内への逆輸入も拡大した。

その一方で、少子高齢化社会に突入し、今後さらなる人口減少が予想され、国内の消費量が縮小することが予想される。こうした状況下、日本企業は経済成長が著しい海外市場への進出を生命線と捉えている。

日本企業の海外進出を多数支援してきたJLL日本 サプライチェーン&ロジスティクス コンサルティング事業部 事業部長 エグゼクティブディレクター 森元 庵平は「現地生産によってジャパンブランドを早期に普及させ、国内市場に依存しない収益環境を確立する必要がある。日本企業にとって海外進出は競争が激化するグローバル経済を勝ち抜くために必要不可欠」と説明する。
 

日本企業の視線は東南アジア・インドへ

中国のゼロコロナ政策によってサプライチェーン上のリスクが顕在化したことで、2021年頃から東南アジア・インドへの投資が進んだ

1990年代以降、日本を含めたグローバル企業がこぞって進出していたのが中国だった。「世界の工場」と呼ばれ、経済発展を遂げた中国は消費市場として、その重要性は変わっていないが、人件費の高騰などを理由に生産拠点としての魅力が低下。そして、コロナ禍を機に、日本を含めたグローバル企業は一国に依存するサプライチェーン戦略をリスクと捉え、中国以外の国へ生産拠点を確保する「チャイナ・プラスワン」を推し進めようとしている。

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中国に代わり、日本企業の海外進出地として注目が集まっているのが東南アジアとインドである。

JLLが発表したレポート「Beyond China: Asia’s next manufacturing powerhouse」(英語版)によると、中国、インド、東南アジア(6カ国)における過去10年の製造FDI(対外直接投資額)において中国以外の7カ国のFDIは右肩上がりを続けていることがわかった。

森元は「2015年までは中国の存在感が大きく、当該地域における製造FDIの50%を占めるほどだったが、中国のゼロコロナ政策によってサプライチェーン上のリスクが顕在化したことで、2021年頃から東南アジア・インドへの投資が進んだ」と説明する。

ちなみに、2023年の製造FDIでは中国以外の7カ国で75%を占める。前述したサプライチェーン上のリスクを回避するという保守的な姿勢にとどまらず、次の4つの理由が追い風となっている。
 

  1. 魅力的なマーケット:インド、東南アジア6カ国は中国(14億人)を上回る20億人を抱え、消費地としてのポテンシャルが非常に高い

  2. 豊富な労働人口:東南アジア6カ国、インドの労働人口は13億8,400万人を数え、中国(9億8,300万人)を凌駕

  3. 安価な賃金:中国よりも大幅に低い賃金水準

  4. 自由貿易の促進:東南アジア・インド間では「ASEAN-インド自由貿易協定(AIFTA)」が締結され、自由貿易に期待
データで見る東南アジア6カ国・インドの特性
GDP(10億米ドル) 製造FDI(10億米ドル) 人口(百万人) 労働人口(百万人) 労働賃金(米ドル/時給) 物流インフラ(高=良) ビジネスのしやすさ(高=良)
中国 17,784 44 1,426 983 5.6 3.7 77
インド 3,488 17 1,433 975 1.0 3.4 71
インドネシア 1,371 29 278 189 1.1 3.0 70
タイ 515 8 72 49 2.7 3.5 81
シンガポール 501 N/A 6 4 27.5 4.3 86
フィリピン 437 15 118 76 1.4 3.3 63
ベトナム 429 24 99 68 1.6 3.3 70
マレーシア 400 33 34 24 4.4 3.6 82

データからみる地域別の特性(2023年ベース) 出所:JLL Research

日本企業の海外進出先として、これまで以上に注目が集まる東南アジア・インド。地域別にみると次のような特性が浮かび上がる。

シンガポール/マレーシア

相対的に人口・労働人口が非常に少ないものの、国民の教育水準が高く、ビジネス環境や物流インフラを積極的に整備してきた。そのため、産業・金融におけるプレゼンスが非常に高い。労働賃金単価ではシンガポールは日本を超え、マレーシアも上昇している。特にマレーシアはコンピュータ・半導体などのハイテク産業が進出地として好んでおり、労働賃金が高くなりながらも、2023年の製造FDIは1位。

インド/フィリピン/インドネシア/ベトナム

世界1位の人口を誇るインド、世界4位のインドネシア、1億人前後の人口を有するフィリピン、ベトナムは労働人口が最大の魅力であり、安価な労働コストが共通点。一方、シンガポールやタイと比較するとビジネス環境は発展途上といえる。

タイ

位置づけは前述した2地域の中間。30-40年前から日本企業が進出し、マーケットを創出。物流インフラやビジネス環境の整備も進む。日本の製造業はシンガポールではなく、タイにリージョナルセンターを置いて、アジアを統括するケースが増えている。
 

ロケーション戦略が海外進出の成否の鍵に

東南アジア・インドへの進出を検討するにあたって「サプライチェーン」、「マーケット」、「インフラ・不動産」といった3つの視点で総合的に判断するべき

若く豊富な労働力、相対的に低廉な労働コスト、そして将来性の高い消費市場。加えて、AIFTAの締結により東南アジア・インドにおける地域内貿易のさらなる活性化が期待され、日本企業の進出が今後増加していくことは容易に想像できる。

一方、国によっては労働力、賃金水準、インフラの充実度、不動産コスト(土地価格、賃料、建築費、電気代)などが大きく異なり、さらに同じ国でも都市によっては法規制や税金、インセンティブなど独自の商習慣がある。そのため、どの国・都市に進出するのが自社にとって最適なプランになるのか、その判断が非常に難しい。

例えば、各国の不動産マーケットをみても特徴が大きく異なる。
 

ベトナム
  • MIP(主幹開発事業者)が政府より50年リースで認可を受けた土地を開発

  • Freehold(自由土地保有権)の土地購入は不可

  • ハノイ、ホーチミン周辺に工業団地が集積

  • 5年ほど前からレンタル倉庫・工場の開発が開始

  • FDIが現在のベトナム経済を牽引

  • 毎年6-7%の消費拡大が見込まれ、輸出も同水準の成長を予測

インド
  • 国土の東西南北の距離が約3,000㎞

  • 労働平均年齢が27歳

  • 賃料・配送費は年率5%増、賃金は年率10%増

  • 地域によって産業集積クラスターが存在する

  • 12の日系工業団地(そのうち日系資本は3つ)

  • レンタル倉庫は底堅い需要

  • レンタル工場の需要が急増

  • 土地確保の競争が激化

インドネシア
  • 世界第4位の人口

  • 総人口の50%がジャワ島に集積

  • 法規制でジャカルタ以西に産業集積地区が加速度的に開発

  • 20年前と比べて工業団地の土地代が6倍に

  • インフラ整備が進み、競争も旺盛

  • 事業用不動産市場は成熟しつつある

  • 基本的にFreeholdでの用地確保が可能

タイ
  • 歴史的に日系企業がバンコクの製造業の拡大と経済発展を牽引

  • バンコクに近く、港に面しているサムットプラカーンがEC・物流会社の集積地

  • チャチューンサオ、チョンブリー、ラヨーンが製造業の集積地

  • 近年は中国企業が積極的に進出。好立地において土地不足のため、マスタプランができる前に土地購入となる事例もある

  • 不動産開発会社の働きかけもあり、農業地から工業用地への区画見直しも進んでいる

そうしたなか、森元は「進出計画を策定する際に進出候補地の様々な情報を収集・分析するロケーション戦略が非常に重要になっている。東南アジア・インドへの進出を検討するにあたって『サプライチェーン』、『マーケット』、『インフラ・不動産』といった3つの視点で総合的に判断するべき」と指摘する。

カントリーリスクや製造業集積における趨勢などを踏まえたサプライチェーン戦略、東南アジア・インドにおける豊富で安価な労働力と堅調に成長する消費購買力、そして、地元開発会社が積極的に不動産インフラの拡充を進め、さらに賃貸用の物流施設・工場(BTSを含める)などの不動産を確保するための選択肢が多様化しており、ロケーション戦略・マーケティング戦略・CRE戦略の3つの視点から自社に最適な進出計画を導き出す必要がある。

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地域のマーケットデータを活用し、確度の高い意思決定を

世界80カ国で事業展開するJLLは、東南アジア・インドに事業拠点を構え、現地不動産マーケット(工業団地の賃料水準や建築費、労働単価、電気代をはじめ、国別にみたレンタル倉庫・工場のストック量・賃料相場・将来的な新規供給量・㎡当たり価格、キャップレートなど)などの各種データを収集・分析しており、各種データを包括的に視覚化するツールを構築するなど、グローバル展開を先導してきた欧米企業のアジア進出戦略を支援してきた。

進出先の選定にあたり、最新のマーケット情報や各種選択肢を踏まえ、候補地に対してコストや課題を可能な限り正確に浮彫にしていくことが必要となる。

不慣れとなる海外での事業拡大にはリスクが伴うため、少しでも事前に情報把握によるリスクを回避していく取り組みこそが海外進出においては肝要といえる。

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