輸送費上昇が物流施設の需要に与える影響
トラックドライバーの労働時間の上限を規制する「物流の2024年問題」によって輸送費が上昇している。本稿では、輸送費の上昇が物流拠点の立地と輸送距離に与える影響を確認するため、シミュレーションを行った。その結果、「輸送費」の上昇が物流拠点の立地戦略に変化をもたらしていることが示された。
エンドテナントにとっては賃料だけでなく物流コスト全体が重要
不動産のオーナーにとっては、賃料は最も関心のある項目の1つだが、テナントにとっては必ずしもそうとは限らない。製造業企業や小売業企業といった、いわゆる物流施設のエンドテナントにとっては、賃料よりも、賃料を含む物流コスト全体の方が重要な指標と言えるだろう。
物流コストをその機能ごとに大きく「輸送費、保管費、その他(包装、荷役、物流管理費)」※1に分けると、輸送費が57.6%、保管費が16.4%、その他が26.0%となる。これらの中で倉庫の賃料は保管費に含まれる。実際の割合は企業ごとに異なるが、一般的に輸送費が物流コストの半分近くを占めていることには変わりなく、保管費は10-20%程度を占めるにとどまる。
日本では2024年にトラックドライバーの労働時間の上限が規制され、1人で運べる運送距離や荷物の量が減り、輸送費の上昇と物流コストの上昇につながっている。
大雑把に言うと輸送費は輸送距離に比例し、保管費は物流拠点の立地に依存する。そして輸送距離は物流拠点の立地にも大きく影響を受けるため、最適な物流拠点の数や立地に変化を及ぼしている。
数字で見る、輸送費上昇が物流拠点の立地戦略に与える影響
輸送単価の上昇によって、輸送距離が短い場所の物流施設の需要が高まる
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輸送費の上昇が物流拠点の立地と輸送距離に与える影響を確かめるために以下の2つの物流拠点を想定する。簡略化のために保管費=賃料とする。
輸送距離は短いが保管費が高い物流拠点w1、賃料が50、輸送距離が30
輸送距離は長いが保管費が安い物流拠点w2、賃料が10、輸送距離を60
輸送費は輸送距離×輸送単価で計算されるとして、輸送単価を「k」とする。その他費用を10とする。
物流拠点の立地と輸送距離でコスト負担が変わる 出所:JLL日本 リサーチ事業部
k=1の場合は、物流コストは以下のようになりw2を選択した方がコストは安くなる。
w1拠点を選択した場合:輸送費30×1+保管費(賃料)50+その他10=90
w2拠点を選択した場合:輸送費60×1+保管費(賃料)10+その他10=80
ところが輸送単価が上昇しk=2となった場合、総物流コストは以下のようになりw1を選択した方がコストは安くなる。
w1拠点を選択した場合:輸送費30×2+保管費(賃料)50+その他10=120
w2拠点を選択した場合:輸送費60×2+保管費(賃料)10+その他10=140
輸送単価が安かったときは、輸送距離が長くても賃料が低い拠点の方が物流コストは安かったが、輸送単価が上昇したことで、賃料が高くなっても輸送距離が短い拠点の方が物流コストは安くなった。これは輸送単価の上昇によって、輸送距離が短い場所の物流施設の需要が高まることを意味している。
投資機会
輸送距離が短い物流施設の需要は引き続き堅調
ドライバーの確保が難しくなる状況が続いているため、相対的に輸送距離が短い物流施設に対する需要は強い状況が続きそうである
東京の物流不動産市場の空室率の推移 出所:JLL日本 リサーチ事業部
実際に東京圏の物流施設の空室率は高止まりしているが、都心への距離が短い千葉ベイエリアは賃料が上昇しつつも空室率はゼロが続いている。一方で都心からは距離があるエリアでは物流施設の空室が多く見られる。
今後供給される物件は建築コストの上昇もあり、従来の50%近く高い賃料を設定する物件もある。それでもトラックドライバーの不足が続き、ドライバーの確保が難しくなる状況が続いているため、相対的に輸送距離が短い物流施設に対する需要は強い状況が続きそうである。
※1 日本ロジスティクスシステム協会「2023年度物流コスト調査」
【執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学】
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