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2022年の不動産トレンドを振り返る

新型コロナ感染爆発から3年を迎えようとしている。アフターコロナ時代を迎えつつある現在に至るまでの過程は、不動産業界にとって変革の時代と位置付けられる。2022年、世界の不動産トレンドを振り返る。

2022年 12月 26日

新型コロナ感染爆発から2年が経過しようとしている。アフターコロナ時代を迎えつつある現在に至るまでの過程は、不動産業界にとって変革の時代と位置付けられるだろう。働き方の変化に伴うワークプレイス戦略の進化、サプライチェーンの再考、サステナビリティへの挑戦、そして、ニッチだったオルタナティブ不動産の台頭……。

しかし、すべてが好転したわけではない。世界的なインフレの急速な拡大に歯止めがかからず、持続可能性イニシアチブとテクノロジーの適応は順調に進んでいるものの、企業は年度末に向けてコスト削減に舵を切り始めている。

将来のトレンドは現在の状況と陸続きとなっている。そこで、2023年の不動産トレンドを占う上で2022 年を振り返ってみた。5つのトレンドが浮上した。

1.ハイブリッドワークの定着

コロナ禍によって必ずしもオフィスで働かなくても業務は回る。いわゆる「オフィス不要論」がくすぶるなか、2022年になってオフィスの存在意義が再定義された。

JLLの調査レポート「2022年版 Future of Work(働き方の未来)グローバル調査」によると、回答者(企業の意思決定者)の 77% が長期雇用のためにリモートワーク・ハイブリッドワークを重視していることが分かった。また、調査対象者の半数以上が2025 年までに全従業員にリモートワークを導入する予定と回答した。

コロナ禍によって働く時間・場所が制限されたことで、企業や従業員は柔軟に活用できる執務環境への関心が急激に高まっており、なかでもコアオフィスの存在意義を「コミュニケーション活性化の場」とする企業が増えている。

コミュニケーション活性化を目的にしたオフィス移転事例を読む

JLLグローバル 社長兼CEO クリスチャン・ウルブリック氏はYahoo!Financeのインタビューで次のように語った。

「仕事をするためだけにオフィスに戻る理由にはならない。コラボレーションやイノベーションが最大の目的となる。他の場所で働くよりもオフィスで働くことの意義を発信するために、より魅力的な執務環境を構築する必要がある」

2.不十分なサステナビリティへの取り組み
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COP27 において明らかになったことがある。それは、ネットゼロ社会の実現のためにまだやるべきことが山積していることだ

行政による規制強化と、投資家・従業員・地域社会といったステークホルダーからの圧力により、サステナビリティ対策が企業にとっての最優先課題となりつつある。企業の経営陣はネットゼロを達成する期限を設け、ビルオーナーはエネルギーデータをより適切に捕捉するためにテナントと協働体制を構築する他、グリーンビルディング認証の取得再生可能エネルギーの導入を進めている

一方、世界で最も重要な年次気候会議である COP27 において明らかになったことがある。それは、ネットゼロ社会の実現のためにまだやるべきことが山積していることだ。より多くの企業が保有不動産を脱炭素化することを公約に掲げているが、JLL グローバル・サステナビリティおよび気候リーダーシップ シニアディレクター ニディ・ベイスワールは「具体的な行動につながっていない」と指摘する。

COP27では老朽化した建物の省エネ化を進めるための大規模改修の必要性と、新規開発プロジェクトにおいて省エネ対策が停滞しないようにグリーンリース条項などの省エネ施策の必要性、そして、データに基づいた気候行動計画によるコミュニティ・インフラストラクチャを保護する必要性が明確になった。

「端的にいえば、サステナブルな努力が足りていないということだ。今後1年以内に政府や企業が実際に達成したこと…口だけでなく、実際に何を達成したかが評価されるようになるだろう」(ベイスワール)

COP27で示された不動産トレンドに関する記事を読む

3.マクロ経済の不透明感が投資活動に及ぼす影響

活況を呈しているのがリテールとホテルセクターへの投資だ。第3四半期にそれぞれ19%、7%増となった。両セクターの復権はコロナ禍からの脱却が見えてきた証

2022 年にインフレ率が上昇したため、世界各国の中央銀行は対応を余儀なくされている。例えば、米国中央銀行は2022年11月までにベンチマーク金利を目標範囲の3.74-4%に引き上げた。2008年初頭以来の最高値だ。

こうした動きを受けて、投資家マインドに慎重さがにじみ出てきた。JLLの調査によると、2022年第3四半期末時点の世界の不動産への直接投資は2,340億米ドルとなり、前年同期比で24%減少した。

JLL キャピタルマーケット リサーチ グローバルヘッド ショーン・コグランは「世界の主要投資市場の大半で取引価格が見直され、投資条件に影響を与えている」と説明する。その半面、例外的に活況を呈しているのがリテールとホテルセクターへの投資だ。第3四半期にそれぞれ19%、7%増となった。両セクターの復権はコロナ禍からの脱却が見えてきた証でもある。

一方、日本の不動産投資額も減少傾向にあるが、その理由は世界の状況とは大きく異なる。JLL日本の記事「国内不動産投資の現状 – 第3四半期の投資額を受けて」によると、2022年第3四半期末時点の投資額は対前年比で38%下落したものの、その要因は売り物件の枯渇にあるとする。

4. オルタナティブ不動産の台頭

オルタナティブ不動産と呼ばれた、かつてのニッチセクターの存在感が急速に高まりつつある

コロナ禍によって多くの不動産市場で新たな需要が芽生えている。代表的なのはデータセンターやライフサイエンス不動産だ。オルタナティブ不動産と呼ばれた、かつてのニッチセクターの存在感が急速に高まりつつある。

ライフサイエンス不動産
JLL米国の調査レポート「2022 Life Sciences Research Outlook & Cluster Rankings(英語版)」では、2022年8月末時点でライフサイエンス関連の新興企業に215億米ドルが投じられた。

同じくJLLが実施したアンケート調査によると、アジア太平洋地域に本社を構えるライフサイエンス企業のCRE責任者の82%が「2025年までにライフサイエンス企業の集積地としてアジア太平洋地域の重要性が高まる」と回答。さらに「全世界で使用する不動産のうち、今後10年間でアジア太平洋地域の比重が高まる」と回答するなど、ライフサイエンス不動産への期待はこれまで以上に高まりそうだ。

アジア太平洋地域のライフサイエンス不動産市場のレポートを読む

また、新たなトレンドとして、米国では都市部でライフサイエンス不動産を開発する動きが顕在化しているという。JLL ライフサイエンス・ヘッド アリスター・メドウズは「大都市にオフィスなどを保有するオーナーはライフサイエンス企業を有力なテナント候補とみなしている」と指摘する。

データセンタ

コロナ禍によってオンライン会議や電子商取引/モバイル決済、ソーシャルメディアやビデオストリーミングなどのクラウドプラットフォーム、AIやIoTに代表されるテクノロジーの普及などによって急拡大したIT需要に応えるためにデータセンターの需要も急増している。

JLLのデータセンター市場に関するグローバル調査では、データセンターセクターについては、世界的に大規模なハイパースケール投資が行われており、前例のない巨額の投資が行われている。2022 年上半期には世界のデータセンター取引額が240 億米ドルを超えた。

政治的な安定性や巨大な経済規模、電力・通信環境の安定性、高度人材を多数有する点など、データセンター適地として優位性を誇る日本は世界的に注目を集めている。また、香港国家維持法への懸念といった地政学的要因などもあり、アジア太平洋地域におけるデータセンターハブへ飛躍することが期待されている。

日本のデータセンター市場に関するレポートを読む

5.テクノロジーの重要性

物流施設の機械化・自動化、サステナビリティ目標を達成するためのデータ収集と分析、ハイブリッドワークへの対応など、2022年は事業用不動産で多種多様なテクノロジーが導入された。

コロナ禍によるリモートワークへの急激な移行は、新たなテクノロジーが採用されるきっかけになった。例えばメタバースによって働き方とオフィスを変革しようとする動きだ。JLLのアンケート調査によると、回答した半数以上の企業が2025年までに没入型テクノロジーと仮想現実を導入することを計画してことがわかった。コミュニケーション活性化、生産性向上、従業員のウェルビーイングの確保、長期雇用の維持など、様々な問題に直面している企業がメタバースに解決策を求めている。

JLLテクノロジー グローバル・アライアンス・ディレクター サム・ラヴァスは「我々がメタバース上で働くようになるのは時間の問題」と予測している。

アフターコロナ時代を迎えつつある2022年。不動産業界では新たなトレンドが生まれてきた。こうした潮流は一過性のものではなく、2023年にも引き継がれていくのではないだろうか。

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連絡先 ショーン・コグラン

JLLグローバル キャピタルマーケット リサーチ グローバルヘッド

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