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メタバースが働き方とオフィスを変革する

「メタバース元年」と呼ばれる2022年。市場規模は前年比2.5倍に拡大するなど、急成長を遂げるメタバース市場。多種多様な業界がメタバースに着目し、新たなサービスを開発し始めている。オフィス環境や働き方にも多大な影響を及ぼしそうだ。

2022年 12月 15日
「メタバース元年」とされる2022年

英国公共放送(BBC)は、メタバースを構成する数十の仮想世界の土地を購入するために、19億米ドルの仮想通貨が投じられたと報道した。2021年10月にはFacebookが社名を「Meta」に変更すると共に今後数十年でメタバース事業に数十億ドルもの投資を行うと発表したことを受け、「メタバース」がバズワードとして一躍注目を集めたのは記憶に新しいところだ。

メタバースとは?

メタバースとは「インターネット上に構築された3次元の仮想空間」を指し、ユーザーは自身の分身となるキャラクター「アバター」を操作して、仮想空間内を探索、他のユーザーとのコミュニケーションを取ることが可能になる。もともとはゲーム領域におけるテクノロジーとして認知されていたが、コロナ禍を機に様々な業界でメタバースを応用したサービスが開発されるようになった。

店舗を開設する小売企業、展示会を運営するイベント企業など、様々な企業がメタバース空間の構築・運用に挑戦している。グローバルでは前述したMeta、マイクロソフトのメタバース参入が知られているが、日本ではパナソニックが子会社を通じてメタバース向けVR機器の開発した他、通信大手のKDDIは渋谷や原宿、大阪などを模したメタバース・プラットフォーム「VIRTUAL CITY」を展開。また、JR東日本が「世界初」と銘打ったメタバース・ステーションを「開業」させるなど、誰もが知る大手企業が名を連ねる。

2022年度のメタバース市場規模は前年比2.5倍

矢野経済研究所が2022年9月に発表した調査によると、2021年度の日本国内におけるメタバース市場規模は744億円、2022年度には1,825億円(見込み)と2.5倍程度の市場拡大を予測している。まさに2022年は「メタバース元年」といえる盛り上がりを見せているのだ。

メタバースで働き方やオフィスが変わる

 

コミュニケーション活性化、生産性向上、従業員のウェルビーイング維持、人材獲得・雇用維持など、多くの課題に直面。メタバースはこれらの課題に対する解決策として注目される

前述したメタバースの一例はプラットフォームを構築し、バーチャル展示会などを実施するエンターテイメント領域が目立つが、昨今浸透してきたハイブリッドワークの、さらにその先を見据えてメタバースを活用しようとする大手企業も現れ始めている。

従前のオフィス一択だった働き方はコロナ禍を受けて、自宅やサテライトオフィスなど、働く場を自由に選択できるハイブリッドワークが主流になりつつある。そうした中、企業はコミュニケーション活性化、生産性向上、従業員のウェルビーイング維持、人材獲得・雇用維持など、多くの課題に直面している。メタバースはこれらの課題に対する潜在的な解決策の1つとして注目されている。

JLLが発表したレポート「Technology and innovation in the hybrid age(英語版)」によると、アンケート回答者の50%以上の企業が 2025 年までに没入型VRテクノロジーとメタバース空間の導入を計画していることが分かった。JLLテクノロジーズ (JLLT) グローバル・アライアンス・ディレクターのサム・ラヴァスは「我々が定期的にメタバース空間で働くようになるのは時間の問題だ」と断言する。

メタバースを活用する企業が増加

メタバース会議は定着するか?(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA

世界中にオフィスを持ち、従業員が分散し、高度な協調性やコミュニケーションを必要とする企業はメタバースから最も多くの利益を得ることができる

コロナ禍を受けてオンライン・ツールの利用者が急増した結果、その利便性が浸透。将来的にはVRなどのテクノロジーを駆使したハイブリッド・ミーティングに期待する声もある。仮想ミーティング・サービスを提供する「meetingRoom」を例にとると、どのデバイスからでもアクセスでき、利用者はホワイトボードを備えた仮想ルームで会議に参加できる。

そして、一部の大手企業は、すでにメタバースを取り入れた働き方やオフィス環境を構築している。アクセンチュアは 2021 年に新入社員のオリエンテーションとトレーニング用に60,000台の VRヘッドセットを導入した。また、JPモルガン・チェースはメタバース空間「Decentraland」にラウンジを開設、暗号資産に関する情報を提供する。デロイトは米国発の仮想オフィス・ツール「Virbela」にキャンパスを開設し、イベント等を実施している。

世界中にオフィスを持ち、従業員が分散し、高度な協調性やコミュニケーションを必要とする企業はメタバースから最も多くの利益を得ることができる立場にある。銀行、ライフサイエンス業界などがその代表例だ。メタバースが切り拓く“可能性”について今から従業員を教育することで、メタバースが当たり前になった時代が来ても慌てる心配はない」(ラヴァス)

一方、JLLアジア太平洋地域 フューチャー・オブ・ワーク・リードを務めるベン・ハンリーは「メタバース黎明期の波に乗れた企業​​は明確な目的を描いていた」とする。これまでの業務体制に変化を加え、より働きやすい環境を構築するためであったり、従業員と顧客に新たな「体験」を提供し、満足度を高めるなど、その目的は様々だ。いずれにせよ、メタバースの本質を理解せず、流行りもののように飛びつくだけでは真の成功は得られない。

メタバース導入への潜在的なハードル

日本でも円滑なコミュニケーションを図るための「仮想オフィス・ツール」を導入する企業が増えるなど、オフィス環境にメタバース的要素を取り入れる動きが見られるようになっている。

一方、ラヴァスは「こうしたテクノロジーを使いこなすためには、従業員に必要なトレーニングや設備を提供するなど、克服すべき課題が山積している。一部の従業員だけにメタバースを提供すると、これまで以上に従業員間の分断を招く可能性があり、全社的に不利益を及ぼす」と危惧している。

また、プライバシー侵害と安全性のリスクも考慮すべきだろう。ハンリーは「メタバースが安心安全な職場であることを従業員に周知するには、健康やセキュリティ、個人情報などのプライバシーを遵守するための明確な方針を打ち出すことが重要になる」と、ガバナンスと規制の重要性を強調する。

メタバースを通じて新たな役職・職種が登場

ハンリーの考えでは、メタバース空間における建築物や空間をデザインする「メタバース・アーキテクト」や、仮想オフィスを構築し、従業員やクライアントに優良な体験を提供する「メタバース・エンゲージメント・オフィサー」といった新しい役職・職種が登場する日はそう遠くないという。前者については、サイバーエージェントが世界的に著名な建築家である隈 研吾氏を顧問に迎えた「メタバースアーキテクチャラボ」を設立している。

メタバースに対する現在の期待値はより具体的になっている。設計会社やデザイナーはメタバースが有する「無限の可能性」に興奮しているが、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)に物理現実を組み合わせた優良なサービスを提供するには、相応の準備が必要になる。メタバースが喧伝する「優れた体験」が誇大広告の域を脱しきれないのならクライアントを魅了することはないだろう。

つまり、空間オーディオやカメラなど、オフィスにおけるビデオ会議システムを進化させることが第一歩だ。会議室内の行動を瞬時に取り込み、リアルタイムでPC上に反映するデジタルツイン技術がメタバースに求められている。

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オフィスの未来はメタバースにかかっている?

ラヴァスは「企業は環境対策と交通費削減を視野にいれつつ、組織のコラボレーションを強化しようとしているため、メタバースを活用した働き方は普及する可能性が高い」とする。そして、メタバースが企業のイントラネットの進化形と捉えるべきとの見解だ。

「既存のデータ共有システムに代わってメタバースなら没入型のコラボレーションチャネルを構築することが可能だ。求職者は採用活動中にメタバースを通じて将来の同僚と顔を合わせ、共に働くことで採用時のミスマッチを解消することができるだろう」(ラヴァス)

 JLLとJLLTは2020 年初頭からメタバースと VR プラットフォームを評価しながらベストプラクティスを模索してきた。スマートデバイスとインターネットが従前の生活を一変させるほどの革命をもたらしたが、「近い将来、メタバースはOutlookと同じくらい一般的になっている」というラヴァスの予測が現実となるのか、今後に注目したい。

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