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COP27:世界の不動産の脱炭素化を推進する6つの取り組み

世界が注目したCOP27が2022年11月18日にエジプトで閉会した。エネルギー安全保障、途上国が直面している被害が主要トピックに取り上げられる中、不動産の脱炭素化の重要性と、ネットゼロ達成に向けた6つの取り組みが示された。

2022年 11月 29日
世界が注目したCOP27が閉幕

世界が注目した「COP27(国連機構変動枠組条約第27回締約国会議)」が2022年11月18日にエジプトで閉会した。エネルギー安全保障、途上国が直面している被害が主要トピックに取り上げられ、2週間にわたって140以上のイベントが開催され、連日白熱した議題が繰り広げられた。

都市におけるCO2排出量の60%は建物由来とされ、不動産はネットゼロを実現した明るい未来へ進 むための鍵となる。しかし、JLL グローバル・サステナビリティおよび気候リーダーシップ シニアディレクター ニディ・ベイスワールは「世界規模で多くの企業が不動産の脱炭素化を推進することを公約に掲げるようになったが、いまだ具体的な行動につながっていない」と指摘する。

「建築環境におけるエネルギーと廃棄物の削減に取り組むために危急的に行動しなければ気候変動目標を達成することはできないだろう。パリ協定によって世界共通の目標となった『2050年にネットゼロ達成』を現実のものとするためには、今後の10 年で何を行うかが非常に重要だ。そして、今後12カ月以内に政府や企業が実際に達成したこと…つまり、彼らは公約ではなく、実際に達成した『証拠』を示すようになるだろう」

COP27で発表された国連の数値によると 、建物と建設からの総CO2排出量は2021年に過去最高を記録したという。建物運用におけるエネルギー関連のCO2排出量は2020年よりも5%増加。コロナ以前の2019年よりも2%増加した。

建物の省エネ化への投資は2021年に16%増加したが、主要経済国の大半で不動産開発がコロナ以前の水準に戻り、オフィス回帰が本格化したことでエネルギー需要が増加、省エネ化の取り組みを上回った。「1.5℃ 目標」の達成が背水の陣を迎える中、気候変動対策にとって最も重要な今後数年間、不動産業界は何をするべきだろうか。COP27では6つの取り組みが示された。

ネットゼロを公約するアセットマネージャーの総数は291に増加し、AUMは66兆米ドルを超えた

1. 省エネ改修のペースを加速させる

建物はエネルギーを消費し続けており、省エネ化の取り組みのみならず、再生可能エネルギーとマイクログリッドの導入を進めるべきだ。既存の建物を改修することは、建築環境の脱炭素化を加速するための最も迅速で費用対効果の高い方法となる。COP27 で発表されたJLL による調査レポート「Retrofitting Buildings to be Future-Fit(英語版)」では、2050 年までに世界中で 10 億㎡超のオフィススペースの改修が必要になると試算している。

2. 途上国を支援

COP27 の最後に発表された、急激に進む気候変動に関して途上国が被る損失に対して基金の設立は賞賛と批判という2つの反応が見られた。しかし、この取り組みは今後数十年にわたってグローバルサウスの都市を支援するために必要不可欠 となるだろう。グローバルノースには、技術移転や規制の枠組みの調整、資金調達スキームの共有など、多角的に支援する道徳的責任がある。

一方、途上国には急速に成長する都市をいかに効率的に管理するか、また都市計画や不動産開発における場当たり的な計画など、様々な課題が残る。とはいえ、グローバルノースとは異なり、2050 年に向けた新規開発の多くはまだ着工していないため、サステナブルな開発に切り替える大きな機会ともなりえる。国連によると、多くの途上国が建物で化石燃料の使用量を増やしており、エネルギー問題は依然として喫緊の課題となっている。COP27で、米国の気候担当特使のジョン・ケリーは、発展途上国におけるエネルギー転換のために民間部門の資本を生み出すための自発的な炭素クレジット市場「Energy Transition Accelerator」を発表するなど、問題解決に向けた動きも見られ始めた。

3. ライフサイクルでみたCO2排出量削減

将来に向けて問題を蓄積することを避けるために、新規開発はよりCO2排出量削減を意識するべきだ。ビルド・アンド・スクラップ型ではなく再生型・循環型の建物開発を原則としたライフサイクルCO2排出量に着目したアプローチを新規開発に組み込むべきだろう。世界のCO2排出量の約7%を占めるとされるセメントなど、代替材料や従来の材料の脱炭素化も重要な役割を果たす。COP27ではセメント・コンクリート業界において署名者が 2030 年までにゼロ炭素に近いセメントとコンクリートを少なくとも10%購入することを誓約した「First Movers Coalition」に参加した。

4. 再生可能エネルギーへの移行

再生可能エネルギーへの投資が初めて化石燃料への投資を上回った。日本でもオフィスビルなどの電力を再生可能エネルギーに切り替える動きが加速しているが、2050年のネットゼロ目標を達成するにはクリーンエネルギーへの投資を4倍にする必要がある。COP27では、米国とUAEが2035 年までに100ギガワットのクリーンエネルギーを生み出するために、1,000億米ドルの投資・資金調達など、戦略的パートナーシップを発表。これにより2,380万トンのCO2排出量を相殺すると予想される。

5. 必要な行動計画

ネットゼロ達成を公約する企業が増え続けている。COP27ではネットゼロ・アセットマネージャーズ・イニシアチブに参画する86の投資家が初期目標を発表。ネットゼロを公約するアセットマネージャーの総数は291に増加し、AUMは66兆米ドルを超えた。

この公約はあくまでも第1段階に過ぎない。企業はネットゼロの向けた計画を推進し、進歩を示すことにますます挑戦している。

COP27の会期中、国連が招集したグループは企業、銀行、地方自治体等が信頼できるネットゼロ排出の誓約と道筋を定義する報告書を発表した。

2021年、JLLは世界経済フォーラムと提携してグリーンビルディング原則を策定し、不動産ポートフォリオを脱炭素化するための明確なロードマップを提供した。

6. 気候レジリエンスの構築

気候変動の影響がすでに顕在化しており、気温上昇、海面上昇、生物多様性の破壊などの気候変動問題からコミュニティやインフラストラクチャ、建物を保護する必要性が高まっている。国連のCities Race to ResilienceはCOP27で正式に承認された。2021年7月に開始されて以来、気候レジリエンスを構築するために署名者が2倍以上に増加した。
 

長期的視座に立った気候変動対策を

遅れをとった建物オーナーは、ますます不利な状況に追い込まれることになる。今こそ建物をネットゼロへの明確な道筋に乗せる計画を実行する時だ

不動産業界全体の脱炭素化は一朝一夕にはいかないが、経済的・地政学的な短期的リスクがあろうともその計画を遅らせるべきではない。JLLが発表したレポート「脱炭素化に向かう不動産」によると、気候変動に対する規制が世界的に強化され、クライアントや消費者、そして従業員からもネットゼロ達成に向けて具体的に行動すべきという圧力が高まる中、何も行動を起こさなかった場合のマイナス面が明らかになってきている。

ベイスワールは「遅れをとった建物オーナーは、ますます不利な状況に追い込まれることになる。今こそ建物をネットゼロへの明確な道筋に乗せる計画を実行する時だ」と締めくくった。

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