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取得件数から見る日本のグリーンビルディング認証の将来性

環境に配慮した建築物であることを対外的に示すラベリング制度「グリーンビルディング認証」の取得件数が日本の不動産市場で順調に積み増している。牽引しているのはJ-REITや大手不動産会社だ。グリーンビルディング認証を未取得の不動産は相対的に競争力が低下する「ブラウンフィールド」のリスクが高まる可能性がある。

2022年 07月 06日
グリーンビルディング認証とは?

電気や水の使用量の抑制など、環境に寄与する高度な対策が施された建築物を指す「グリーンビルディング」。日本では「環境配慮型ビル」などと呼ばれるが、近年は環境性能のみならず、環境への悪影響を低減した建築建材や工事手法、廃棄物の削減、建物使用者の健康やウェルビーイングへの配慮なども踏まえて、総合的なサステナビリティ性能が評価されるようになっている。

とはいえ、一口にグリーンビルディングとはいえ、本当に環境に配慮したビルであるかどうかを判断するのは難しい。そうした中、第三者機関によってグリーンビルディングであることを認定するラベリング制度「グリーンビルディング認証」が注目を集めており、日本の不動産市場においても認証取得数が増加傾向にある。
 

日本のグリーンビルディング認証の取得件数が2018年以降増加傾向に

日本におけるグリーンビルディング認証の取得件数の推移 出所:Institute for Building Environment and Energy Conservation, DBJ Green Building, Green Building Japan, BRE Groupの各ウェブサイトの参照可能情報を基にJLLリサーチ作成

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全体の取得数の90%超はCASBEE、DBJが占めており、LEEDは少しずつ増加している

JLL日本 リサーチ事業部は主要なグリーンビルディング認証の運営団体がウェブで公開している取得件数について調査した。対象は国内グリーンビルディング認証のCASBEE(建築、不動産、戸建、街区、ウェルネスオフィス)、DBJ Green Buildingの他、国際グリーンビルディング認証のLEED(建築設計・建設、インテリア設計・建設、既存ビルの運用とメンテナンス、近隣開発、ホーム、シティ&コミュニティ)、BREEAM、WELLとした。その結果、2018年以降は400-500超の認証取得が確認された。全体の取得数の90%超はCASBEE、DBJが占めており、LEEDは少しずつ増加している。
 

調査対象とした主なグリーンビルディング認証
CASBEE

建築物や街区、都市などに関わる環境性能を様々な視点から総合的に評価するためのツールとして2001年に国土交通省の支援を受けて誕生した「CASBEE(建築物総合環境性能評価)」。一般社団法人日本サステナブル建築協会が研究開発を実施している。省エネルギー性能や環境に配慮した建材の使用をはじめ、室内の快適性、景観への配慮など、建築物の環境品質と環境負荷の両観点から総合的に評価する。日本国内におけるグリーンビルディング認証であり、CASBEE建築・戸建・街区、CASBEE不動産、CASBEEウェルネスオフィスなど、多岐にわたる。

DBJ Green Building

日本政策投資銀行が2011年4月に創設したグリーンビルディング認証制度。評価項目はエネルギー、資源、アメニティ、レジリエンス、コミュニティ、ダイバーシティ、パートナーシップなど、建築仕様や省エネルギー性能といった環境性能だけでなく、対象物件のステークホルダーとの関係性や社会的要請への配慮なども含まれている。多角的な視点から現代社会が求めている「グリーンビルディング」であるか、5段階で認証する。

LEED

米国グリーンビルディング協会が運営する国際的なグリーンビルディング認証。「リード(LEED/Leadership in Energy and Environmental Design」と呼ばれ、ビルのエネルギー効率や環境、立地状況、資源保護、設計など、主要な評価分野の必須条件を満たすことを前提に、選択項目を選択してポイントを取得することが求められる。取得ポイントの合計で最高ランクのプラチナ、ゴールド、シルバー、認証の4ランクに分けられる。米国ではLEED認証取得物件は高稼働率や賃料プレミアム等の価値向上に寄与するとの調査結果があるため、不動産投資市場でも存在感を高めている他、グローバル企業を中心にテナントがオフィス開設時にLEEDを取得する事例も増えている。

BREEAM

英国のBuilding Research Estatement(BRE)が1990年に開発した建築物の環境性能を対象にした国際的なグリーンビルディング認証。日本では「ブリーム」、または「ブリアム」と呼ばれ、新築・既存、改修時の建築物に加えて、開発プロジェクトやインフラのサステナビリティ性能を評価する。基本的な評価項目は健康・快適性、エネルギー、交通/水、材料/廃棄物、土地利用など、環境性能やウェルネス性能を含めた60以上の項目が設定され、達成度に応じた各項目の総得点数に応じてランク付けされる。

WELL

2014年に米国Delos社が開発。水・空気・食べ物等を含む10のコンセプトをもとに108の項目による空間評価システムであり、最大の特長は「ウェルネス(ヒトの健康)」を重視している点にある。企業ポリシー、設計、運用戦略のパフォーマンス結果にもとづいてポイントを取得し、最高ランクのプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの4つに認定される。健康経営を対外的に発信するツールとしても活用される他、快適性の高さを示すことからホテルや商業施設などが集客向上策としてWELL認証の取得に注力し始めている。コロナ禍によってその注目度がさらに高まっている。

WELL認証に関する記事はこちら

グリーンビルディング認証取得数を牽引するJ-REITと私募ファンド

グリーンビルディング認証の申請者属性の割合 出所:Institute for Building Environment and Energy Conservation, DBJ Green Building, Green Building Japan, BRE Groupの各ウェブサイトの参照可能情報を基にJLLリサーチ作成

グリーンビルディング認証を取得している属性を調査したところ、2021年で最も割合が高かったのはJ-REITで全体の40%を占めた。次いで私募ファンド(30%)、不動産会社(13%)が続く。中でも、私募ファンドによる認証取得の割合が年々増加しており、2018年の取得割合はわずか8%だったが、2021年には30%へと急拡大している。また、一般事業会社による取得割合もわずかながら増加傾向にある。
 

アセット別にみたグリーンビルディング認証の申請者属性

2019年は既存物件の取得割合は29%、開発段階/新築時は71%だったが、2021年になると既存物件が86%、開発段階/新築時が13%と、既存物件でのグリーンビルディング認証取得割合が増えている

アセットタイプ別にグリーンビルディング認証の申請者属性をみると、オフィスは不動産会社が23%を占め、他セクターに比べて割合が最も高くなっている。本調査に携わったJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 中村 麻子によると「街づくりの中核となるフラッグシップビルのバリューアップや、高品質なオフィススペースに対する需要の高まりが背景にある。また、今後のオフィス市場の競争激化を見越して、グリーンビルディング認証の取得に注力し、戦略的に手を打っているのではないか」とする。さらに環境意識の高い海外・グローバル企業を誘致する上での付加価値向上も視野に入る。

一方、物流不動産とレジデンシャルでは、私募ファンドの認証取得割合が高い。前者は25%、後者は44%となり、J-REITに迫る割合となっている。中村は「コロナ禍によって活況を呈した巣ごもり需要、Eコマース需要を背景とした物流不動産への活発な投資、テレワーク普及による居住環境への期待の高まりなど、レジデンシャルへ活発に投資する動きに呼応する形で、私募ファンドが新規取得した物件に対して、積極的にグリーンビルディング認証の取得に取り組んでいる」と推測している。

その他、グリーンビルディング認証の新規開発段階と既存物件による認証取得割合をみると、2019年は既存物件の取得割合は29%、開発段階/新築時は71%だったが、2021年になると既存物件が86%、開発段階/新築時が13%と既存物件での認証取得割合が増えていることがわかった。

GRESB参加者がグリーンビルディング認証取得を強化

J-REITや私募ファンド、上場している大手不動産会社がグリーンビルディング認証取得を強化している理由の1つに、GRESBの存在感が高まっていることが挙げられる。

GRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark/グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)とは、不動産・インフラ分野での「環境・社会・ガバナンス(EDG)」の配慮を測り、投資家が投資先を選定する際の指標として用いられる世界的な評価ツールだ。

不動産分野の評価ツールである「GRESBリアルエステイト」では、マネジメントとパフォーマンス項目の2つの評価指標の各項目をそれぞれ点数化し、すべての参加企業の上位20%を「5スター」、以下20%区切りで「4-1スター」にランク付けする相対評価となる。そのため、継続的にスコアを向上させていかないと評価毎にランクが落ちていく可能性が高くなる。GRESBスコアを向上させるための要件としてグリーンビルディング認証の取得がある。

例えば、J-REITの森ヒルズリート投資法人はグリーンビルディング認証の取得に注力しており、2030年度に取得価格ベースで90%以上の認証取得を維持する長期目標を打ち出している。2021年8月2日時点では賃貸可能面積ベースで84.1%、物件数ベースでは80%の高い取得率を誇り、2021年のGRESBリアルエステイト評価において10年連続で「Green Star」評価を取得すると共に「GRESB Rating」において最上位の「5 Stars」を獲得している。

2021年におけるGRESBへの日本市場からの参加者は109(2017年は53)、J-REITは55となり、J-REIT市場の98.6%に達している。また、非上場ファンドの参加数も前年32から46へと4割増加となり、私募リートも12となるなど、参加者が急増している。

GRESB評価を向上させる手法はこちら

グリーンビルディング認証を取得するメリットが変化

グリーンビルディング認証は耐震化と同じく「あって当たり前」の必要条件として不動産市場に定着する可能性は決して低くはない

JLLが発表したレポート「サステナビリティがもたらす新たな不動産価値」ではグリーンビルディング認証の取得メリットについて言及している。例えば、JLLが2020年に行ったロンドン中心部を対象とした調査では、英国のグリーンビルディング認証であるBREEAMの最上位「アウトスタンディング」を取得したオフィスビルでは市場全体の4-11%の賃料プレミアムを記録し、標準的な物件の竣工前予約契約が50%だったのに対し、BREEAMのアウトスタンディング物件は100%竣工前予約契約を達成したと報告している。また、米国ニューヨーク、シカゴなど10都市で実施した調査では、WELL認証及びFitwel認証を取得した物件の実効賃料は近隣の非認証・非登録物件と比べて1平方フィートあたり4.4-7.7%高くなっているとの調査結果もある。

一方、中村は「J-REITや私募ファンドが大きく牽引している日本のグリーンビルディング認証だが、近年はESGに対する一般事業会社の関心も目覚ましく、今後は認証取得の取り組みが拡充されていくことが予想される。ESGへの対応や計画・戦略が具体的な実行段階へと入ってきており、グリーンビルディング認証の取得やグリーンビルディングへの入居は当たり前の考え方・基準になるのではないか」と指摘する。

従前はグリーンビルディング認証を取得する事例が少なく、先駆者にとっては認証取得による賃料プレミアムを享受できる可能性は高かったものの、グリーンビルディング認証は耐震化と同じく「あって当たり前」の必要条件として不動産市場に定着する可能性は決して低くはないだろう。事業用不動産市場を牽引するJ-REIT、大手不動産会社がグリーンビルディング認証の取得を注力している今、投資家や不動産オーナーは認証を取得していないビルが不動産市場で淘汰される「ブラウンフィールド(座礁資産化)」のリスクを考慮する必要がありそうだ。

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連絡先 中村 麻子

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 マネージャー

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