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三菱地所に聞く「再エネ電力導入ビル」に高まるテナントの関心

オフィスビルの使用電力を再生可能エネルギー由来に切り替える「再エネ電力導入ビル」はテナント企業からの注目が高い取り組みだ。国内屈指のオフィスエリアである東京・丸の内エリアに多数のオフィスビルを保有する三菱地所に再エネ電力導入ビルのメリットを聞いた。

2022年 01月 17日
再エネ電力導入ビルにテナントが注目

地球温暖化対策の一環として入居先のオフィスビルの環境性能を重視するテナント企業が増えている中、注目を集めているのが、再生可能エネルギーを導入した「再エネ電力導入ビル」だ。都心Aグレードビルを中心にその数は増加傾向にある。

再エネ電力の導入により、新規お客様からの問い合わせが明らかに増えた他、既存テナントからも高評価をいただいている」。こう振り返るのは、三菱地所 ビル営業部 柴田 龍一氏だ。

三菱地所は2021年1月に、丸の内エリアに保有・管理するオフィスビル18棟と横浜ランドマークタワーの計19棟で使用する全電力を2021年度より再生可能エネルギーに切り替えると発表した。CO2削減量は年間約18万トンを見込み、エリア内の同社所有ビルにおけるCO2排出量の約8割に相当する。また、同年8月には、中部エリアの大規模オフィスビルで初となる、名古屋駅前の「大名古屋ビルヂング」において、ビルの使用電力全量を再エネ由来に切り替えている。加えて、関西エリアの大規模複合用途施設で初となる、大阪駅前の「グランフロント大阪」においても、施設の使用電力全量を2022年9月から再エネ由来に切り替える予定であることを2021年11月に公表するなど、首都圏のみならず地方都市での再エネ電力導入にも力を入れている。

これにより、三菱地所グループ全体の再エネ電力比率は、2021年度に約30%となる予定であり、2022年度には丸の内エリア以外の首都圏物件にも再エネ電力を導入し、過半近くまで比率が向上する見込みとなっている。

大手デベロッパーを中心に、オフィスビルの電力供給を太陽光や風力発電などの再エネ由来の電力に切り替える動きが加速している。背景にあるのは、地球温暖化対策などのサステナビリティ活動に対するテナント企業の関心の高まりが挙げられる。三菱地所 サステナビリティ推進部 吾田 鉄司氏によると「3-4年ほど前から外資系企業中心に再エネ電力化のリクエストはあったが、現在は丸の内エリア以外の地方拠点に対しても再エネ電力導入を希望する声も出てきている」という。

三菱地所の今回の電力切替においては、ビルで使用する電力量のすべてを再エネ由来としているため、対象ビルの入居企業は覚書等の特段の手続き無く、自由に再エネ電力(環境価値)を利用していると認められる。また、三菱地所が導入する再エネ電力は、事業活動にかかる使用電力を2050年までに100%再エネに切り替えることを目標とする国際イニシアティブ「RE100」にも対応可能であるため、特にRE100参画企業にとってはメリットが大きい。また、懸念されるのが電力使用料のコストアップだが、吾田氏によると「複数の小売電気事業者と交渉を進め、競争原理を働かせながら契約を切り替えていることもあり、コストの上昇幅を圧縮できている」という。

2021年度 丸の内エリア 再エネ導入ビル一覧 出所:三菱地所

ビル1棟あたりの再エネ率に要注意

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部の調査によると、東京都内において再エネを導入しているオフィスビルは80棟(2021年11月調査時点)に及び、近年その数を急速に増やしている。テナントにとって入居時の選択肢が増えているように見受けられるが、注意が必要なのはビル1棟あたりの再エネ比率だ。例えば、三菱地所の場合は、ビル1棟で使用する電力量のすべてを再エネ由来に切り替えているが、ビルによっては共用部のみ再エネ電力を導入し、実際のオフィススペースである専有部は「応相談」といったケースもあるそうだ。

「入居企業がオフィス内装の環境認証の取得を目指す際、ビル全体の電力供給のうち50%しか再エネ電力を調達していないとなると、専有部の供給電力のうち再エネ電力がどの程度の割合なのか精査し、場合によってはオーナーとの交渉も必要になるので手間がかかる。一方、当社はビル1棟丸ごと100%再エネ電力を導入しており、入居されるお客様には『再エネ電力100%』を十分にアピールしていただける」(柴田氏)

環境認証取得にも注力

三菱地所がオフィスビルのサステナビリティ戦略として、再エネ電力導入と共に重視しているのが環境認証の取得だ。2020年度末時点における累計取得件数はCASBEE12件(自己認証物件等含む)、DBJ Green Building認証11件、LEED2件、取得件数合計18件(延床面積1,994,267㎡)となる。

三菱地所 サステナビリティ推進部 梶川 圭太氏は「環境性能を対外的に示すことができ、テナントや投資家をはじめとするステークホルダーからの期待や要望に対応できる有用なツールであるとの認識から、積極的に認証取得を進めている」と説明する。丸の内エリア以外にも首都圏エリアや地方都市での取得実績がある。柴田氏によると「お客様からいただくRFP(発注依頼書)にも『どのような認証を取得しているか』を質問されるケースが増えている」という。

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サステナビリティ重視

三菱地所グループでは長期経営計画2030において「気候変動や環境問題に積極的に取り組む持続可能なまちづくり」に関する取り組みに注力することを打ち出し、CO2(Scope1+2+3)*削減目標として「2017年度比で2030年までに35%削減、2050年までに87%削減」を定める他、「RE100」参画に伴い再エネ電力比率を「2030年までに25%、2050年までに100%」とする目標を掲げている。

梶川氏は「当社が掲げる基本使命は『まちづくりを通じた社会貢献』であり、予てから社会的な要請を汲み取って事業活動を進めてきた歴史がある」とする。世界的な課題として脱炭素化がクローズアップされる中、施設の建築時・運営時に環境負荷がかかる不動産業界に対してサステナビリティ重視を求める社会的要請は高まる一方であり、企業に求められる責任を果たすことと持続可能な社会の実現を目的として、三菱地所をはじめ、まちづくり・大型オフィスビル開発を牽引する大手デベロッパーはサステナビリティ重視の経営戦略に舵を切っている。

※Scope1+2+3とは、事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するサプライチェーン全体の排出量(原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、サプライヤー=取引先等の排出量を含む一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量)を構成する分類を指す。「CDPサプライチェーン報告書2016|2017」では、サプライヤー排出量は自社排出量の4倍にのぼると報告されている。Scope1、2、3それぞれの排出量を算定することで、優先的に削減すべき対象や課題等の特定に繋がり、サプライチェーン全体での脱炭素に向けた他事業者との連携強化に向けたツールとしても活用可能。

こうした流れは、不動産業界のみならず、産業界全体に課せられた喫緊の課題でもある。 三菱地所 ビル営業部 鈴木 健太郎氏は「あるグローバル企業が環境配慮を怠っている企業との取引を控えると発表したように、社会全体の流れがサステナビリティ重視に変わってきている」と指摘。サステナビリティは産業界全体に波及する大きな流れとなっており、ESG投資の拡大なども踏まえて、テナント企業にとって乗り遅れてはならない大きな潮流といえるだろう。今後テナントの入居ビルの選定条件として「再エネ電力導入」や「環境認証」は必須となりそうだ。

一方で、グローバルに活動する投資家・企業を対象に実施したアンケート結果をもとにしたJLLのレポート「脱炭素化する不動産」では、「CO2排出量削減に貢献するビルを優先的に選択する」と79%の企業が回答しているのに対し、「グリーンビルにテナント需要が集まる」ことに同意する投資家は全体平均で32%に留まった。つまり投資家側の認識を超えて、テナントとなる企業側のサステナビリティ重視の姿勢が窺える結果となった。将来的に旺盛なテナント需要に対して、グリーンビルが不足する可能性もありえるので、これからオフィス移転を考えるテナント企業は注意が必要だ。

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