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国内不動産投資の現状 - 第3四半期の投資額を受けて

2022年第1-3四半期までの日本の不動産投資額が対前年比で38%下落した。投資資金を調達するための金融環境は諸外国に比べて圧倒的に優位な状況にあるが、売り物件の枯渇によって投資額が伸びてこない状況だ。

2022年 12月 14日
国内不動産投資額が対前年同期比38%減

JLLが四半期ごとに調査している国内不動産投資額によると、2022年第3四半期の総投資額は5,490億円と、前年同期比で実に58%下落した。また第1四半期からの累計でおよそ1兆9,620億円と、こちらも前年同期比で38%の下落を記録している。

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これまでコロナ禍にあっても年間4兆円の取引高を維持してきたが、2022年はその達成が極めて難しくなってきたといえよう。コロナ禍も落ち着いてきているなか、諸外国では投資額がコロナ前の水準に達しているマーケットも存在するが、日本のこの落ち込みの要因はどこにあるのか。

日本への投資を促す良好な金融環境

現状、不動産投資を取り巻く金融環境は日本への投資を促すうえで極めて良好であるといえる。諸外国、特に米国やユーロ圏、英国における中央銀行による金利引き上げが相次ぐなか、主要市場においてファイナンスコストが上昇、レバレッジを享受することが難しくなってきており、ひいては物件利回りの上昇につながる事態となっている。

一方で日本銀行は当面の間、量的緩和政策を堅持することを明らかにしており、当然金利も据え置きで推移している。したがってファイナンスコストは一切変動しておらず、引き続き良好な資金調達環境を提供できている。加えて昨今の円安は外貨建てで投資をする海外ファンド勢にとってはおよそ3割程度安く物件取得ができることになるため、日本国内の物件はさらに「お値打ち」になっているといえる。

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日本の不動産投資額が伸び悩む3つの理由
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金融環境が良好なことでリファイナンスが可能となり、物件を引き続き保有しておくオプションも選択できることから、物件売却に消極的

では、なぜ日本の不動産投資は伸び悩んでいるのか。大小さまざまな要因が考えられるが、最近の動向をつぶさに観察しているといくつか「これまでになかった」状況が浮かび上がってくる。

1. J-REIT

まず不動産投資額の大部分を占めるJ-REIT勢による取得が伸び悩んでいることがあげられよう。第1-第3四半期までのJ-REITによる物件取得額は5,680億円であるが、これは前年同期比で実に50%近く下落している。J-REITはその多くがスポンサー企業を親会社に持っており、比較的安易に物件を取得することができるはずだが、親会社による潤沢な物件供給が今後の復活のカギとなりえよう。

2. 一般事業会社

物件の売主の顔ぶれを見ると、去年まで存在感のあった一般事業会社が今年は大きく売却物件数を減らしている。2021年の第1-第3四半期には1兆円を超えていた一般事業会社による物件売却は、2022年の同時期は3,346億円へと、実に70%以上減少している。コロナ禍の影響を受けた業界を中心に2021年は大型のリースバック案件が多数みられたが、コロナの収束とともに急速に減少している。ただし一般事業会社はこれまで主要な売主ではなかったため、今年の数字はいわば「元に戻った」ものであるといえる。

3. 外資系投資家

大きく売却物件を減らしているもうひとつの売主の属性として外資系投資家があげられる。2020-2022年第1-第3四半期の年平均成長率(CAGR)は実に50%のマイナスである。2021年を底に2022年は若干売り物件を増やしてはいるものの、2020年の25%にあたる物件売却しかなされていない。外資系投資家の場合、物件の売却と新しい物件取得はある意味セットであることが多く、市場に投資機会のない現状で易々と物件売却に踏み切れない現状がある。加えて金融環境が良好なことでリファイナンスが可能となり、物件を引き続き保有しておくオプションも選択できることから、物件売却に消極的であることがうかがえよう。

国内不動産投資市場の今後の行方

足元では大型物件が動き始めてきており、出口に光がさしかかっている

こうした「取得機会の激減」が各投資家に重くのしかかっており、それが昨今の取引高の伸び悩みの大きな原因となっているといえよう。このような状況は一朝一夕に改善されるものではなく、国内市場は引き続き低調な動きに終始すると考えられる。

一方で足元では大型物件が動き始めてきており、出口に光がさしかかっているともいえる。米国、英国に次ぐ世界三大不動産取引市場の座を奪還すべく、各投資家の積極的な売買を期待したいところだ。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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