日本が海外投資家から「投資しやすいマーケット」と評価されるために
世界の不動産市場を牽引しているのは莫大な資金力を誇る海外投資家だ。日本の不動産市場が持続的に成長していくためには海外投資家を惹きつけることが大きなポイントとなるが、そのためには何が必要か? JLLが2024年9月に発表した透明度インデックス最新版から課題解決の道筋を探った。
目次
JLLの調査によると、2024年上半期における日本の不動産投資額は2兆6,105億円、前年同期比21%増を記録。世界全体の不動産投資額が前年同期比4%減となる中、日本市場の活況は国内外の投資家から注目を集め続けている。国内の金利引き上げや他国の利下げ観測もあるが、2024年下半期は引き続き堅調に推移することが予想される。
関連記事「2024年下半期に向けた日本の不動産市場動向」を読む
活況を呈す日本の不動産投資市場を牽引するのは海外投資家の存在だ。巨額の投資資金を擁し、グローバルで不動産投資活動を行う海外投資家の参入は、投資額の増加…市場活性にとっては不可欠な存在となっている。日本の不動産投資市場が成長する上で、いかに海外投資家を惹きつけるかが鍵を握るだろう。
では、日本市場に海外投資家を惹きつけるためには何をすべきだろうか? JLLが2年に1度発表している、世界の不動産投資市場において「投資のしやすさ」を表す「透明度」ランキングから、日本市場により多くの投資家を惹きつけるための改善点を導き出してみたい。
「2024年版グローバル不動産透明度インデックス」レポートを無料ダウンロード
日本は11位で透明度高グループ入り
日本の順位は過去最高の11位。透明度が最も高いとされる「透明度高グループ」入りを果たした2022年(12位)から1ランク上昇
まずは最新版である2024年版グローバル不動産透明度インデックスでの日本の状況について整理しておきたい。
最新版における日本の順位は過去最高の11位。透明度が最も高いとされる「透明度高グループ」入りを果たした2022年(12位)から1ランク上昇した。
透明度を測る6つのサブインデックス別にみると、日本は「サステナビリティ」が2位、「パフォーマンス測定」が7位、「規制と法制度」が12位、「市場ファンダメンタルズ」、「上場法人のガバナンス」、「取引プロセス」では20位圏外となり、長所短所が明確に分かれている。
日本のグローバルランク | トップ市場 | トップ市場の優れている点 |
---|---|---|
サステナビリティ:2位 | フランス | グリーンビルの財務パフォーマンス指標、グリーンリース条項の義務化、建物レベルでのエネルギー効率・CO2排出量の報告 |
パフォーマンス測定:7位 | 英国 | アセットタイプや投資戦略ごとの幅広いインデックスと多様なプロバイダー;インデックスの詳細なカバレッジ |
規制と法制度:12位 | 英国 | 商業用不動産の負債と融資条件の広範な把握、受益所有権登記の公開 |
上場法人のガバナンス:24位 | 米国 | 高い企業ガバナンス基準と株主アクティビズム;詳細なデータ開示 |
市場データ:31位 | 米国 | 細分化されたリアルタイムデータ;不動産テックのビジネス環境;充実したオルタナティブセクター |
取引プロセス:33位 | アイルランド | 共益費の適時開示と見直し;第三者サービスプロバイダーとの関係 |
不動産投資市場の活性化に向けた3つの改善点
サステナビリティ、市場データ、コーポレートガバナンスといった3つの改善点がある
こうした状況を受けて、海外投資家を日本へ惹きつけるために、どのような課題があるのだろうか。透明度インデックスにおいて日本市場の調査を担当しているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人は「『サステナビリティ』、『市場データ』、『コーポレートガバナンス』といった3つの改善点がある」と指摘する。
課題1. サステナビリティ
サステナビリティの項目において日本は2位。グローバルリーダーといえる存在であり、下記の項目が透明度向上に寄与している。
建築性能基準
エネルギー報告とベンチマーク
気候リスクとレジリエンス
グリーンビルディング認証
自然関連のリスク
生物多様性基準
健康とウェルネス
一方、改善点は下記4点が挙げられる。
規範的な建築基準:既存建築物を中心にCO2排出量削減に取り組まれてきたが、今後は新規開発時にもCO2排出量を削減する規範的な市場整備。
グリーンリース条項:オーナーとテナントが協働で環境対策を推進するためのグリーンリース条項を賃貸借契約に盛り込む。
グリーンビルの財務指標:サステナブル化された不動産を保有・投資する財務的メリットを明確化するためのパフォーマンス・インデックスの整備。
共益費の透明化:テナントのサステナビリティ活動を後押しするため、共益費に含まれるエネルギーコストを開示し、オーナーと協働で省エネ活動を推進。
課題2. 市場データ
市場データについての改善点として、大東は「市場データをさらに拡充させることで透明度が改善する」と指摘する。透明度が高い欧米各マーケットはセクター・エリアを問わずデータベースが充実しているが、日本は東京以外の地方都市でデータ整備が遅れている。
また、グローバルでは新興セクター…老人ホームやデータセンター、セルフストレージ(トランクルーム)、ライフサイエンスなどのオルタナティブセクターのデータ整備が進んでおり、世界中から投資マネーが流入していることから、日本でもこれまで以上にオルタナティブセクターのデータ整備が求められている。
加えて、大東は「リアルタイムにデータを活用できる体制づくりも重要」との見解を示す。例えば、オフィスの主要データとして「月額坪当たり賃料」や「空室率」が知られているが、これらは月次、もしくは四半期単位となる。一方、大東によると、海外投資家はオフィスが実際にどのように使われているのか、従業員1人当たりの面積や出社率データを都市別に比較し、投資判断を行っているとする。こうした投資判断に直結するリアルタイムデータを整備することも大きな改善点となる。
課題3. コーポレートガバナンス
経営の健全性・透明性・効率性を高める観点からコーポレートガバナンスの重要性が高まっている。不動産投資の観点から気候変動リスクなどの情報開示が世界的に求められている。米国では企業が保有する不動産のポートフォリオ・個別単位での情報開示が進んでおり、インターネットで取得価格や利回りなどが公開されている。こうしたデータの透明性はコーポレートガバナンスの強化に直結してくるが、日本では情報開示において改善すべき点が残されている。
これらの改善点を即時実行するのは難しいが、今回の透明度インデックスではインドやシンガポールなどが透明度を大幅に改善している。世界の不動産投資市場において日本の存在感を維持・向上させるためにもマーケット環境のさらなる整備が求められる。
本稿で言及した「不動産透明度インデックス」についての詳細データは下記をご覧ください。
2024年グローバル透明度インデックスのグローバルランキングはこちら
また、JLLでは透明度インデックスの他、事業用不動産や世界の不動産市場に関する様々なレポートを配信しており、下記から無料ダウンロードできます。