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コロナ禍で成長を遂げるトランクルーム市場

日本の不動産投資市場ではオルタナティブな存在にすぎないトランクルームだが、アジア太平洋地域で急成長が見込まれている。機関投資家や外資ファンドがトランクルーム投資に乗り出しており、JLLの調査によると今後欧米市場と肩を並べるようになりそうだ。

2023年 02月 27日

機関投資家や外資ファンドが注目するトランクルーム

日本の不動投資市場では、まだまだオルタナティブな存在にすぎないトランクルーム(セルフストレージ)だが、米国ではコアアセットとされ、海外では多くの投資家が注目する投資セクターの有望株として認識されているようだ。

例えば、2022年10月にオランダの年金基金ABPの運用会社であるAPGとシンガポールの不動産投資運用会社のCapitaLand Investmentがトランクルーム運営事業者のExtra Space Asiaを4億3,300万米ドルで共同買収したのが代表例だ。

JLLアジア太平洋地域 インベスター インテリジェンス ヘッド パメラ・アンブラーは「より多くの機関投資家がトランクルーム市場に目を向けるにつれ、投資資金は急速に積みあがっている。グローバルで事業展開するプライベート・エクイティ・ファンドは米国と欧州で以前経験したトランクルーム投資の成功を再現するためにアジア太平洋地域に目を向けている」と指摘する。

アジア太平洋地域に芽生える新たなトランクルーム需要

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eコマースの成長に十分な余地があることを示しており、引き続きトランクルームの需要を牽引する原動力となる

JLLアジア太平洋地域が発表したレポート「Self Storage Market Asia Pacific(英語版)」によると、アジア太平洋地域全体で見たトランクルームの稼働率が80%に達し、対前年比3.6%も上昇している。また、2022年通年の賃料水準も3%上昇した。

また、調査会社であるeMarketerのデータによると、アジア太平洋地域のeコマース市場は今後5 年間で対前年比11%の成長を見込んでおり、この成長率は北米・欧州を大幅に上回ると予想している。

JLLアジア太平洋地域 キャピタルマーケット リサーチディレクター サミン・パクは「世界の小売売上高に占めるeコマースのシェアは2030年までに16%から36%に増加すると見込まれているが、韓国と中国を除いて各市場におけるシェアは10%半を下回っている。これは eコマースの成長に十分な余地があることを示しており、引き続きトランクルームの需要を牽引する原動力となる だろう」と指摘する。
 

トランクルームの需要を牽引する2つの背景

トランクルーム運営事業者の77%が賃料の増加を予想しており、84%が今後3-5年間の収益増を予測

同レポートによると、現状ではトランクルームの需要は依然として個人消費者が牽引しているという。その背景には2つの理由が存在する。「リモートワークの普及」と「住宅価格の高騰」によるところが大きい。

1. リモートワークの普及

コロナ禍を受けて多くのワーカーが在宅勤務へとシフトしていく中、自宅で執務空間を確保する必要性に迫られた。その結果、これまで荷物を保管していた自宅スペースを執務空間とする一方、荷物の保管場所としてトランクルームに目を向けることになった。

2. 住宅価格の高騰

もう1つの理由は「住宅価格の高騰」だ。住宅価格の高騰はコロナ以前から危機的レベルに達しており、世界のゲートウェイ都市のほぼすべてで住宅の供給不足と低金利政策(当時)によって、コロナ禍でも価格が急騰していた。その結果、賃借人は移転を検討せざるを得なくなり、多くの場合は賃料コストを切り詰めるために、より狭小な住居への移転を余儀なくされた。それまで住居内の保管できていた荷物が移転先では収まりきらず、トランクルームを利用せざるを得なくなっている。

パクは「こうした傾向はトランクルームの需要を下支えし、アジア太平洋地域のトランクルーム市場全体の明るい将来の担保となり、シンガポールや日本が貢献するだろう」と予測している。同レポートによる調査では、トランクルーム運営事業者の77%が賃料の増加を予想しており、84%が今後3-5年間の収益増を予測 している。

また、JLLが投資家を対象に実施した調査レポート「Investor Sentiment Barometer 2023(英語版)」によると、アジア太平洋地域の投資家の少なくとも30%強がトランクルームセクターへの投資を検討しており、市場の成長可能性を追い風に、新規参入する投資家も増えそうだ。

トランクルーム市場の目下の課題

安定した稼働率と賃料の上昇により、アジア太平洋地域のトランクルーム市場は北米や欧州といった成熟市場に追いつく

一方、将来性の高いトランクルームにも避けては通れない課題がある。JLLが調査したトランクルーム事業者は最大の課題として、不動産価格と好立地を確保できない点を強調している。

とはいえ、アジア太平洋地域においてトランクルームの開発が遅れていることは成長の余地があることを示している。アンブラーは「トランクルーム市場は今後 10 年間で加速度的な成長を迎えるだろう。安定した稼働率と賃料の上昇により、アジア太平洋地域のトランクルーム市場は北米や欧州といった成熟市場に追いつく」との見解を示している。

コロナ以前から日本のトランクルーム市場に外資ファンドなどが注目してきた。多くの不動産投資セクターにとってコロナ禍はある種のブレーキとなったが、トランクルーム市場にとっては追い風になったようだ。今後の行方を注目していきたい。

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連絡先 パメラ・アンブラー

JLLアジア太平洋地域 インベスター インテリジェンス ヘッド

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