【欧米】R&D戦略の進化が不動産ニーズの変化を促している
グローバル展開する欧米企業…特に製薬会社とバイオテクノロジー企業はAIなどの最新鋭テクノロジーを駆使し、R&D(研究開発)戦略を進化させている。それに伴い不動産ポートフォリオと施設管理にも多大な影響を及ぼしている。欧米企業のR&D戦略の動向を解説する。
ライフサイエンス企業の約半数が「不動産がイノベーションを支える」と回答
欧米のグローバル企業を中心に、最新鋭のテクノロジーを活用することでR&D(研究開発)戦略が急激な進化を遂げている。それに伴い不動産ポートフォリオと施設管理に多大な影響を及ぼしている。
JLLのグローバル調査レポート「Futura of Work」(日本語翻訳版)によると、「CRE(企業不動産)に期待する項目」として回答企業の37%が「イノベーションの推進」を挙げている。そして、絶え間ない研究と斬新なアイデアが事業成長の鍵となるライフサイエンス・医薬品企業の回答割合はさらに高いことがわかった。
ライフサイエンス企業の不動産戦略は新たな研究開発の需要に対して、どのように適応しているのだろうか? JLL欧州・中東・アフリカ地域に所属し、ライフサイエンス不動産に詳しいシニアディレクター ジェルーン・メイラーは、次の3つのシナリオを挙げる。
- ハイテク集積地:世界の主要都市に集積されたハブ
- 分散型ラボネットワーク:複数の場所に分散した柔軟な施設
- メガエコシステム:共有リソースを備えた、目的に特化したライフサイエンスコミュニティ
「これらのシナリオはそれぞれが相反するのではなく、将来的に各企業の具体的なニーズ・研究手法・R&D戦略に沿って、3つのシナリオ全てが組み合わさる可能性が高いだろう」(メイラー)
1. ハイテク集積地
「ハイテク集積地」のシナリオとして、主要なライフサイエンスクラスターにAIを活用した研究施設が構築されることが想定されている。例えば、スイス・バーゼルに本社を構える世界的な製薬会社であるロシュの医薬品R&Dの初期開発施設は、当該シナリオの好例といえるだろう。18棟を1つの最先端施設に統合し、2,000人の研究者が在籍しているという。
メイラーは「研究者を集めることで、企業は周辺地域や大学などのステークホルダーと広く協力関係を構築することができ、特殊な設備機器をより効率的に利用できるようになる」と説明する一方、「リスクがないわけではない」とも指摘する。
当該シナリオでは、生物学者や科学者、数学者、AIエンジニアに至るまで、高度人材を適切かつ継続的に確保できるよう、施設の立地戦略が非常に重要になる。
さらに、トランプ政権発足後から世界的な懸念となっている「関税」は、足もとで企業の製造能力に影響を与えている。メイラーは「ライフサイエンス不動産の立地性は優先事項であるものの、潜在的な関税の影響を考慮する必要がある。R&D施設の立地選定において重要な役割を担う可能性がある」と強調する。
2. 分散型ラボネットワーク
「分散型ラボネットワーク」は複数の拠点にR&D活動を分散させ、地域の専門知識(企業・大学などのステークホルダー)と専門性の高い人材プールを活用しながら、24時間365日間断のない研究サイクルを実現することができる。当該シナリオは高い柔軟性とリスク軽減に寄与するだろう。
メイヤーによると「グローバルなライフサイエンス企業が分散型ラボネットワークを採用しているケースが散見する」という。
「彼らは欧州の本拠地で初期段階の創薬研究を行い、インドでバイオインフォマティクスやデータサイエンスを行うといった体制を構築している。拡張現実(AR)や自動化システムなどの先進技術によって、グローバルな連携はシームレスに実現できる」(メイヤー)
3. メガエコシステム
「メガエコシステム」のシナリオでは、既存のライフサイエンス集積地を更なるレベルに引き上げることが想定されている。
米国・南サンフランシスコの湾岸エリアにはすでに250社以上のバイオテクノロジー企業が集積し、1,200万平方フィートもの巨大ライフサイエンス不動産が存在する。将来的には、複数の企業が単に郵便番号や住所を共有するだけでなく、設備機器などのリソースを共有するライフサイエンス専用エリアを形成すると目されている。
「アストラゼネカのバイオベンチャーハブとジョンソン・エンド・ジョンソンのJLABSが採用している同モデルは“協力”と“発見”の機会を増やすことで、イノベーション創発を劇的に促進することができる」(メイヤー)
英・オックスフォードや米・マサチューセッツ州のボストン・ケンブリッジといった成熟したライフサイエンス集積地では、高価な設備機器の共有・共同利用、柔軟なリース条件、コラボレーションの機会を提供する新世代のマルチテナント型の拠点が登場している。
一方で、課題となるのが「開示性と知的財産の保護、そして競争上の懸念とのバランスを取ること」(メイヤー)だという。
不動産ポートフォリオ・施設管理への影響
このような将来的なシナリオの影響を受けるのは立地戦略だけではない。高度に専門化されたハイテク施設の管理業務には多種多様な課題が生じる可能性が高く、施設管理・運営業務を担う協力会社の役割も進化している。
JLL欧州・中東・アフリカ地域 ライフサイエンス・プロキュアメント・リードを務めるスティーブ・ウィリアムズは「R&Dに必要な不動産はラボだけでなく、オフィスや工場、データセンターなど、多岐にわたり、それぞれに独自のニーズがある。GxP(Good Practice)に関するコンプライアンス、ラボの安全性、汚染管理といった様々な分野における深い専門知識とスキルが施設管理者に求められている。無論、変化の著しいサステナビリティ規制や業界独自の商習慣への対応も重要」との見解を示す。
施設管理のアウトソース化は、企業が多額の投資を行うことなく、専門知識と先進技術に容易にアクセスすることが可能になるため、欧米で自前主義から脱却する企業も見られるようになっている。ウィリアムズは「企業は業界全体のベストプラクティスを活用しながら、事業活動に資金を集中させることができる」と説明する。
グローバル企業にとって、世界展開するサプライヤーと協力することは、世界中のさまざまな場所で一貫した品質と基準を享受できることを意味する。一方でウィリアムズは「重要なのはグローバルな一貫性と地域特有の独自性の間で絶妙なバランスが取れるパートナーが求められている」と指摘する。
未来のR&D戦略に向けての準備
R&D不動産の将来像を見通すのは、この変化の激しい環境において非常に困難だ。そこで、メイラーはライフサイエンス企業に次の4点を推奨している。
- 人材需要の変化やテクノロジーの導入がワークフローにどのような影響を与えているか、R&D 戦略・チームがどのように進化しているかを理解する必要がある
- 研究室スペースの設計と構築に関する最新の動向について最新情報を入手するべき
- 人材プール、エコシステム、官民パートナーシップなど、潜在的な立地戦略に関する情報収集と知見を磨く必要がある
- ラボの設計における専門性と柔軟性のバランスをとることで、本質的な施設のサステナブル化とレジリエンス化を実現する
メイラーは「こうしたシナリオとその影響を理解することで、企業は適切な意思決定を行うことができる。ひいてはR&D戦略・チームを支援し、優秀な人材を惹きつけることに繋がり、競争が激化するグローバル環境を勝ち抜くためのイノベーション創発を推進できるようになるだろう」と締めくくった。
日本のR&D戦略の状況を知りたい方は…
JLL日本では、企業のR&D戦略と不動産戦略の関係性について紐解いた日本独自のレポートや記事を発表しています。ご興味にある方は下記をご覧ください。
※上記文章は、JLLグローバルが発表した記事「How R&D strategies are reshaping real estate needs」を元に作成しました。一部AIを活用し翻訳を行うなど、原文と異なる表現や解釈が含まれている可能性があります。公式な情報が必要な場合、原文である英語記事の確認をお願いします。