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注目を集めるライフサイエンス不動産、日本における可能性

世界有数の不動産ファンドが投資に乗り出し、活況に沸く米国ライフサイエンス不動産市場。産官学連携のエコシステムが機能し人材・企業が集積する「クラスター」が誕生している。旺盛な賃貸需要、長期安定した賃料収益が得られるライフサイエンス不動産は日本でも新たな投資先になる可能性がある。

2022年 07月 04日
ライフサイエンス不動産とは?

最近、「ライフサイエンス」という言葉を不動産市場で耳にすることが増えている。不動産におけるライフサイエンスは、製薬などを中心とした医療系テナントに入居してもらえるよう、実験設備などを兼ね備えたオフィス兼ラボのことを指す。米国などで先行しており、著名な投資家が続々とライフサイエンス不動産へ投資を拡大している。国内でのライフサイエンス不動産が投資対象として広がる可能性はあるのかについて探ってみたい。

世界的な不動産ファンドが牽引する米国のライフサイエンス不動産市場

ライフサイエンス不動産が最もポピュラーな市場は米国で、なかでもボストンとサンフランシスコを中心としたいわゆるベイエリアが特に集積が進んでいるエリアである。2010年からの10年間の投資規模は、ボストンエリアが約2兆7,000億円、ベイエリアが約1兆5,000億円にのぼっている。投資家としてはブラックストーン、CBRE IMなど、世界的に活躍する不動産ファンドがこぞって名を連ねており、現在最も注目されるセクターのひとつである。

ベンチャー育成のエコシステムの存在

米国でこれほどまでにライフサイエンスが盛んになっている大きな理由として、エリア内に製薬を中心としたベンチャー企業、それを支えるベンチャーキャピタルや行政、優秀な人材を輩出する大学などの高等教育機関がすべてそろっており、いわゆる「エコシステム」が完全に構築されていることが挙げられよう。

例えばボストンなどはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など、全米はおろか世界屈指の大学が多く存在し、そうした大学から輩出される優秀な学生がベンチャーキャピタルや行政などのサポートを受けてベンチャー企業を組成し、ひいては大手製薬会社に引けを取らない卓越した製品やソリューションを提供する企業へと発展していくなど、全米屈指の「クラスター(集積地)」として君臨している。直近では新型コロナウイルスのmRNAを用いたワクチンを開発したモデルナはボストン近郊で創業したライフサイエンスベンチャーの一企業である。

賃貸ラボ兼オフィスの需要が急拡大
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ラボという付加価値がつくことで一般のオフィスと比べて高めの賃料にて賃貸することができ、かつ比較的長期での賃貸借契約を締結することが多いため、高額の賃料を長期にわたって享受することができる

こうしたベンチャー企業は最初から大きなラボ付きのビルを自前で所有することができず、賃貸に頼らざるを得ないため、米国では最低でもBSL2以上に準拠したラボを兼ね備えた「賃貸ラボ兼オフィス」の需要が急速に高まっている。一般的にこのようなライフサイエンス不動産のテナントは専門性が高いが故、全体のパイが少ないというデメリットはあるものの、ラボという付加価値がつくことで一般のオフィスと比べて高めの賃料にて賃貸することができ、かつ比較的長期での賃貸借契約を締結することが多いため、高額の賃料を長期にわたって享受することができる。この点が投資家サイドにとって好材料と受け止められているといえよう。

日本は発展途上も今後ライフサイエンス不動産への投資がポピュラーに

翻って日本国内におけるライフサイエンス不動産の状況を見てみると、米国のような産学官連携がエリア内で見られる「クラスター」があまり見られないのが現状であるが、千葉県柏市の柏の葉キャンパスエリアでは東京大学、千葉大学などがライフサイエンス系のベンチャー企業の育成などに注力している事例がある。特に東京大学ではすでに500社以上のベンチャー企業を世に送り出しており、実に3分の1がライフサイエンス系といわれている。また三井不動産が「Link-Lab」というBSL2準拠のライフサイエンス不動産の開発からシェアオフィスの開発・運営に乗り出しているものの、規模感として米国に点在するクラスターと比較して極めて小さいと言わざるを得ない。

また、国内においてはベンチャー企業を支える投資家(エンジェル投資家、スーパーエンジェル投資家)の存在も極めて少なく、ライフサイエンスのベンチャー企業を支えるエコシステムが十分に機能しているとは言えない状況である。米国におけるクラスターのような発展は一朝一夕には見込めないため、現時点では大手製薬会社による研究施設をマルチテナント化したうえで、建物内におけるエコシステムを構築していく段階にとどまっているといえる。

投資家サイドとしてはこうした大手製薬会社の研究施設をCREの一環としてその製薬会社とともに運営していき、研究施設内のスペースをライフサイエンス系のベンチャーや地方自治体、大学の出先機関などへ貸し出すことで安定かつ付加価値のついた賃料を享受することが可能であり、こうした研究施設への投資は一定の妙味があるといえよう。

また、こうした投資行動が今後日本国内においても、米国同様のクラスターが発展する礎になる可能性も秘めていると考えられることから、いわば「日本型」のライフサイエンス不動産投資が今後ますますポピュラーになるものと考えられる。

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※BSL= Bio Safety Level の略で、細菌やウイルスなどの微生物、病原体等を取り扱う実験室ならびに施設の格付け。数字が大きくなるほど取り扱える細菌やウイルスの数は増えるが、同時に危険度が増すため厳重な管理が必要となる。

連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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