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グローバルで進化が求められているグリーンリースとは?

オーナーとテナントが協働し、省エネ施策等に取り組む「グリーンリース」が注目を集めている。日本でもJ-REIT等、グリーンリース契約を採用するオーナーが増えているが、グローバルでは省エネ施策だけでなく、包括的な環境改善を目指す「グリーンリース2.0」への進化が求められている。

2023年 08月 18日
既存ビルのサステナブル化を進めるグリーンリース

世界の二酸化炭素排出量の40%超を占めるとされる不動産。いまや不動産の資産価値をも左右するのがサステナビリティ性能だ。不動産オーナーは保有物件の資産価値を維持・向上させるために炭素排出量を削減するための行動計画に頭を悩ませている。

一方、不動産オーナー単独でサステナビリティ施策を実行に移しても、その効果には限界がある。環境に配慮した建築設計や高効率の省エネ機器を採用した不動産であっても、入居テナントがサステナビリティを軽視すれば、せっかくの省エネ効果が低下する可能性が高いためだ。

従前から不動産オーナーに対して環境配慮を求める声は高まっていたが、2050年に実現目標が定められているネットゼロを達成するためには、ビルオーナーの努力だけではなく、テナントの運用姿勢も重要視されるようになっており、オーナーとテナントが共通のサステナビリティ目標に向かって積極的なパートナー体制を構築、協働していくことが求められるようになっている。

こうした背景のもと、グローバルレベルで「グリーンリース」と呼ばれるスキームに注目が集まっている。JLLがアジア太平洋地域のサステナビリティ責任者340人を対象にした調査(英語版)によると、テナントとデベロッパーの42%がグリーンリース契約にすでに署名しており、65%が2025年までにグリーンリース契約が既存の賃貸借契約に取って代わると考えている。
 

グリーンリースとは?

グリーンリースとは「ビルオーナーとテナントが協働し、不動産の省エネ等の環境負荷の低減や執務環境の改善について契約や覚書等によって自主的に取り決め、取り決め内容を実践すること」と定義

ちなみに、日本でグリーンリース契約の存在が知られるようになったきっかけのひとつに、国土交通省が2016年2月に発行した「グリーンリース・ガイド」の存在が挙げられる。

大学、金融、不動産、省エネコンサル等で構成される環境不動産普及促進検討委員会によって2013年度から3年間の検討が重ねられ、グリーンリースの手順や契約方法、活用事例等の各種情報を網羅した「ガイドブック」が制作された。環境省、経済産業省も協力し、関係省庁一丸でグリーンリース普及を推進するための取り組みといえる。

同ガイドによると、グリーンリースとは「ビルオーナーとテナントが協働し、不動産の省エネ等の環境負荷の低減や執務環境の改善について契約や覚書等によって自主的に取り決め、取り決め内容を実践すること」と定義している。

省エネを基点にオーナーとテナントがWin-Winの関係性を構築しつつ、賃貸ビルの省エネ化を推進するための施策としてグリーンリースが生み出された

従前、オーナーが費用負担して保有ビルの省エネ改修等を実施するのが一般的だが、省エネによって生じたコストメリットの多くを享受できるのはテナントであった。このため、省エネ化に対するオーナーのモチベーションを喚起されず、テナントビルで省エネが進まない1つの要因とされていた。省エネを基点にオーナーとテナントがWin-Winの関係性を構築しつつ、賃貸ビルの省エネ化を推進するための施策としてグリーンリースが生み出された。

J-REITがグリーンリース契約を積極的に採用

同ガイドが発行された2016年当時、グリーンリースの導入事例はまだまだ希少だったが、現在はJ-REITを中心にグリーンリースの導入事例が増加しており、オフィスはもとより、商業施設、物流施設、ホテル等、ほぼすべてのアセットタイプが対象になっている。下記の銘柄はその一例だ。

オフィス

ジャパンリアルエステイト投資法人では、グリーンリースの導入を推進しており、2023年5月時点でポートフォリオ全75ビルのうち、59ビル(78.7%)にグリーンリースを導入している。

物流施設

日本プロロジスリート投資法人は保有ポートフォリオにおけるグリーンリースの契約導入率を2026年までに面積ベースで70%と定めており、2022年12月末時点での導入率は56.9%にのぼる。

商業施設

ケネディクス商業リート投資法人では一部テナントとグリーンリースを締結しており、2023年3月末時点の契約締結済テナント数は324件、締結割合は53.3%に達している。

ホテル

ジャパン・ホテル・リート投資法人はエネルギーデータの提供等の内容を盛り込んだグリーンリースを主要賃借人との間で締結しており、エネルギーデータ等を分析し、環境パフォーマンスの改善に向けた改修工事の検討や設備管理のオペレーションの最適化等に取り組んでいる。2022年度末時点のグリーンリース契約を締結した物件数は16、延床面積割合では60.5%となっている。

賃貸住宅

アドバンス・レジデンス投資法人では2023年1月末時点で、賃貸戸数のうち約64.4%の住戸に係る賃貸借契約にグリーンリース条項を導入。加えて、プロパティマネジメント会社との管理委託契約でもグリーンリース条項の導入を推進しているという。

総合型

積水ハウス・リート投資法人は「2030年度までにグリーンリース契約の割合をポートフォリオで25%以上達成」をKPIとし、2023年4月末時点での実績はポートフォリオの17.5%にグリーンリース契約を導入している。具体的な取り組みは、環境関連施策への協力、環境関連法令への対応要請、環境パフォーマンスデータの共有、改装工事において発生する廃棄物量の削減、環境及び入居者・利用者の快適性に配慮した資材の使用等、多岐にわたる。
 

グリーンリースにおける2つの取り組み

グリーンリースは定型化された条項はなく、オーナーとテナントが個々の賃貸借契約に合わせてその内容を決定するが、大別すると2つの取り組みがある。1つは、オーナーとテナントが省エネや原状回復等のサステナビリティに関して協力して取り組む「運用改善のグリーンリース」。もう1つは、ビルオーナーが実施した省エネ改修投資に対して、テナントが享受したメリットをオーナーへ還元する「改修を伴うグリーンリース」だ。

運用改善のグリーンリース

ビルオーナーとテナントが協力して当該不動産の環境配慮に資する取り組みを協働することを指す。主な取り組みは下記が該当する。

  • 環境性能や執務環境の改善に向けた協働体制の構築
  • エネルギー消費量等の情報共有
  • エネルギーやCO2排出量の削減目標の設定
  • 環境認証の取得
  • ステークホルダーが参加する省エネ協議会の開催
  • テナントが実施した省エネ改修に対する原状回復義務の免除
改修を伴うグリーンリース

ビルオーナーが貸室内の照明や空調等の設備機器の改修費用を一時負担し、テナントが享受するコスト削減分のうち、一定金額を「グリーンリースフィー」としてオーナーに還元する取り組み。オーナーは改修費用を数年にわけて回収することが可能になり、オーナーとテナント双方が省エネ化による恩恵を享受できることになる。

グリーンリース契約の普及に向けた課題

不動産のサステナビリティ施策として注目が集まるグリーンリース契約だが、普及に向けた課題も存在する。JLLが発表したグリーンリースに関するレポートによると、グリーンリースの普及が進まない最大の要因は「従来の賃貸借契約」としており、不動産の改善をはじめとするサステナビリティの取り組みにオーナー・テナント双方の協力関係などが生まれにくいと指摘している。

また、グリーンリースの存在自体を知らないテナントはまだまだ多く、その有用性に賛同してもらう必要がある。特に「改修を伴うグリーンリース」において、賃貸借期間が欧米に比べて短いとされる日本では、グリーンリースフィーを回収するまでテナントが入居し続けるかどうか不透明であり、専有部の面積によって省エネ削減分のスケールメリットが得られないケースや会計処理の煩雑さ等、グリーンリース契約に魅力を感じないテナントもいるそうだ。グリーンリース契約を採用できるかどうかはテナントの考え方や不動産の状況に左右されるようだ。
 

グローバルでは進化型グリーンリースの導入機運が高まっている

社会的なイメージ向上や入居者の満足度向上、経済発展の支援、地域社会への参画等、社会的責任に関する包括的な項目がグリーンリース条項の中心になりつつある

日本でも導入機運が高まりつつあるグリーンリースだが、その多くは個々の省エネ施策に留まっているように見受けられる。一方、グローバルではエネルギー効率、廃棄物、水使用量に関する環境条項だけでなく、社会的なイメージ向上や入居者の満足度向上、経済発展の支援、地域社会への参画等、社会的責任に関する包括的な項目がグリーンリース条項の中心になりつつある。

JLLのグリーンリースに関するレポート(英語版)では、アジア太平洋地域に拠点を構える企業の多くが賃貸借契約を更新する際、社会的責任に関するグリーンリース条項を含めることを計画していることがわかった。ダイバーシティ・インクルージョン、ウェルビーイング、コミュニティ構築等が含まれ、例えば、オーナーとテナントが地域コミュニティへ参画するためにNPO等との協働を求められるケースもあるそうだ。

JLLではこうした潮流を進化版のグリーンリース…すなわち「グリーンリース2.0」と定義している。ネットゼロ目標を達成する他、テナントのためにウェルビーイングに資する環境を構築するなど、省エネだけではないサステナビリティの広範な側面にも焦点を当てている。不動産の内外に植栽を増やし、換気による空気質を改善することで、テナント従業員の健康面もサポートできる。こうした対策がテナント満足度の向上につながり、その結果、サステナビリティを意識する優良企業の誘致や長期入居の維持につながる。

JLLアジア太平洋地域 ESGリサーチ ヘッド カミヤ・ミグラニは「グリーンリースによって協力体制を形づくることで不動産の新たな価値が生まれ、オーナーとテナント双方がそれぞれのサステナビリティ目標を達成するのに寄与する」と指摘する。
 

グリーンリースを最大限に活用する

サステナビリティ関連の規制を強化する不動産先進国や都市でグリーンリースが義務付けられる可能性もありえる

世界的にみても、現時点ではグリーンリースはあくまで任意だが、大規模事業用賃貸不動産を対象にグリーンリースの締結が義務付けられているフランスにならい、サステナビリティ関連の規制を強化する不動産先進国や都市でグリーンリースが義務付けられる可能性もありえる。

そのため、全ステークホルダーがエネルギー消費に係るデータを共有し、不動産の環境パフォーマンスを定期的に分析し、ステークホルダー全員でサステナビリティ施策に取り組むことが求められている。

グリーンリースを成功させる4つのポイント

では、グリーンリース2.0を成功に導くための要点はどこにあるのか。グリーンリースについて言及したJLLグローバルのコラムでは4つのポイントを挙げている。

1. 測定可能な目標を設定する

賃貸借契約の新規締結・更新時において、家主とテナントの両方が満たすべき明確で測定可能な目標を提供し、KPIを含む目標を設定する。環境目標の達成を促進するために、インセンティブの導入も検討される。例えば、目標とする省エネを実現した場合、テナントはペナルティなしで賃貸借契約の中途解約できる等。

2. 適切なチーム編成

グリーンリース2.0を推進するためには賃貸借契約を締結してから、迅速に協働を開始する必要がある。目標達成に向けた施策や戦略を立案・提供するために最適な立場にあるサステナビリティ専門家、不動産管理・運営チームの参画が求められる。

3. Win-Winを実現

グリーンリース2.0では、オーナーとテナント共通の目標に向けた協働体制を維持するために、グリーンリースのメリットを双方が深く理解する必要がある。オーナーにとって環境面で高い評価を得た不動産は競合物件に比べて賃料水準や稼働率が高く、将来的な資産価値を維持する可能性が高い。一方、テナントの入居物件がサステナブルであれば、自社のサステナビリティ目標の達成のみならず、エネルギーコストの削減、人材採用と長期雇用の維持に寄与する。

4. 個別の契約を検討する

従来、グリーンリース条項は賃貸借契約に含まれることが多い。ただし、その適用範囲が拡大、複雑さが増し、さらに賃貸借契約期間が10-15年に及ぶ可能性があることを考えると、法規制や株主からの圧力によって求められるサステナビリティ施策は劇的に変化する可能性が高い。環境変化に応じてグリーンリース条項を改定するための取り決めが必要となる。

グリーンリース2.0をレポートで解説

JLLではグローバルでサステナビリティ専門チームを組成し、オフィスビルをはじめとする事業用不動産の環境対策を多角的に支援しています。グリーンリース2.0の詳細は下記レポートをご覧ください。

グリーンリース2.0に関するレポートはこちら

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