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不動産の「透明度」が上昇しているマーケットは?

JLLが発表した「2024年版グローバル不動産透明度インデックス」において順位上昇が目立ったのがシンガポールとインドである。サステナビリティやデジタル化を推進することで、不動産投資やビジネス活動がしやすいマーケットとして進化を遂げている。

2024年 09月 30日

本稿は、JLLグローバル記事「Where real estate transparency is improving」を抄訳したもので、JLLが2年に1度、調査結果を発表している「不動産透明度インデックスの最新版(2024年版)」において、透明度ランクが急上昇したマーケットについて言及しています。

本稿の詳細なデータについてご興味のある方は下記ページをご覧ください。レポートを無料でダウンロードできます。

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目次
不動産透明度インデックスとは?

透明度を大幅に改善したシンガポールとインドの取り組みを紹介する前に、まずは「不動産透明度インデックス」について説明したい。

「不動産透明度インデックス」とは、JLLとラサールが有するグローバルネットワークを活用して収集した定量的データとアンケート調査を対象項目ごとに検証し、数値化した調査レポートである。「透明度」は不動産投資や企業のビジネス活動における参入難易度を指標化したもので、透明度が高いほど不動産投資家や企業が活動しやすいマーケットであることを示している。

1999年から調査を開始し、2年ごとに公表。第13版となる2024年版では世界89カ国151都市を対象にしており、不動産投資家やデベロッパー、事業会社、政府や業界団体にとっても国際的なベンチマークとして活用されている。

調査項目256要素を14のトピックスにグループ化したうえで6つのサブインデックスに分類し、ウェイト付けを行った。サブインデックスは①パフォーマンス測定、②市場ファンダメンタルズ、③上場法人のガバナンス、④規制と法制度、⑤取引プロセス、⑥サステナビリティで構成される。

シンガポールとインドが台頭

JLLが2024年9月に発表した最新版の不動産透明度インデックスにおいてシンガポールとインドの躍進が目をひいた。

JLLアジア太平洋地域 ESGリサーチの責任者を務めるカミヤ・ミグラニは「新たな建物エネルギー性能基準、サステナビリティレポートの要件強化、企業コミットメントの推進など、サステナビリティはアジア太平洋地域…特にシンガポールとインドにおける透明度向上の最大の原動力となっている」と説明する。
 

サステナビリティ規制強化でシンガポールの透明度が向上

シンガポール政府は長年にわたり、Green Markのスコア基準を引き上げ、国家にとって「持続可能な建物」とは何を意味するのかを一貫して再定義してきた

今回の透明度インデックスでは、シンガポールが89カ国中13位と順位を上げ、米国・英国をはじめとする先進的な市場が該当する「透明度高グループ」入りを果たした。ミグラニによると「シンガポールは『環境、社会、ガバナンス(ESG)』に関する取り組みが透明度向上に大きく寄与している」という。

例えば、シンガポールのグリーンビルディング認証「Green Mark」はサステナビリティを重視するテナントに訴求するための国内のベンチマークとなっており、オーナーやデベロッパーが積極的に取得を進めている。環境パフォーマンスとサステナビリティに基づく建築物の評価制度であり、エネルギー効率、水の使用量、環境への影響を測定する際に信頼性と透明性を提供している。

「シンガポール政府は長年にわたり、Green Markのスコア基準を引き上げ、国家にとって『持続可能な建物』とは何を意味するのかを一貫して再定義してきた」(ミグラニ)

シンガポールは野心的なサステナビリティ目標を達成するために、ESGおよび気候情報開示要件を強化するよう民間部門に働きかけている。世界基準に合わせるべく、シンガポールの上場企業はすべて2025年までにESG・気候変動に関する報告書を提出することが義務付けられる。同要件は2027年から非上場企業を含むすべての大企業に拡大される。

また、サステナビリティだけでなく、テクノロジーを積極的に活用することで透明度を向上させている。とりわけ「不動産業界変革マップ」を積極的に活用し、ワンストップの開発業者ポータル導入、承認プロセスへの「建物情報モデル(BIM)」の統合など、テクノロジーの活用やスキルに注目した様々なプログラムを実施している。
 

インドの透明度向上を加速させたデジタル化

インドは、コア不動産セクターとオルタナティブ不動産セクターの両方でデータ収集の範囲拡大と質が向上したことで、透明度が世界で最も向上した国となった

デジタル化に重点を置いた結果、インドの透明度は5位上昇し31位となった。

インドは、コア不動産セクターとオルタナティブ不動産セクターの両方でデータ収集の範囲拡大と質が向上したことで、透明度が世界で最も向上した国となった。

「デジタル・インド」の取り組みでは土地登記や情報システムなど、政府サービスをオンラインで提供するなど「デジタル・インフラストラクチャ」の整備が進められている。国民がデジタルリソースを容易に利用できることで利便性が大幅に向上するだけでなく、透明度が高まることで汚職が減り、さらなる経済成長が期待される。

国が制度化に注力したことも、透明度向上に向けた大きな一歩となった。ミグラニは「積極的な金融規制、新たな気候リスク開示ガイドラインの発行、合理化された建築規制の導入、デジタル化された土地登記など、主要都市が透明性の高い層に入ることに貢献した」と指摘する。

「より高度なデジタルテクノロジーを駆使することでインド政府は正確で高品質の情報を共有することができ、気候リスク開示のガイドラインを確立する上で役立つだろう」(ミグラニ)
 

透明度向上のためESGの重要性が高まる

ESGの観点から透明度が向上しているマーケットは投資家の信頼を高め、より持続可能で回復力のある未来に貢献することができるだろう

ミグラニは、世界中のマーケットがさらなる透明度を求めることで、不動産における ESG の重要性は今後も高まっていくと考えている。

「企業のステークホルダーは、今後もネットゼロの達成を優先目標とし、環境への影響とリスクを測定するための規制を強化していくだろう。企業がサステナビリティへの取り組みを示すことで投資資金を惹きつけようと努力するなか、ESGの観点から透明度が向上しているマーケットは投資家の信頼を高め、より持続可能で回復力のある未来に貢献することができるだろう」(ミグラニ)

そして、不動産テックの導入拡大は、マーケットの透明度向上に貢献する1つのトレンドとなる可能性を秘めている。

ミグラニは「AI(人工知能)、ブロックチェーン、IoT(モノのインターネット)などのテクノロジーは、データ管理を強化し、不動産取引の透明度を向上させるだろう」と締めくくった。

JLLは事業用不動産に関する多様なレポートを配信

なお、JLLでは不動産透明度インデックスをはじめ、オフィス・物流施設・リテールなどの国内事業用不動産市場、国内グリーンビルディング認証の取得状況などに関する定期レポートなどを配信しています。ご興味のある方は下記をご覧ください。

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