ワークライフマネジメントとは?ワークライフバランスとの違いや導入のメリット
近年、ワークライフバランスにかわる概念として注目を集める「ワークライフマネジメント」は、従業員が主体的に仕事と私生活のバランスを取りながら、両方の質を高めていくアプローチだ。企業が働き方の指針としてワークライフマネジメントを導入するメリットやワークプレイス戦略との関わりを見ていきたい。
ワークライフマネジメントとは?
まずは「ワークライフマネジメント」の意味や定義を正しく理解しておきたい。
ワークライフマネジメントとは「仕事と私生活を主体的に管理すること」
ワークライフマネジメント(Work-Life-Management)とは、働く人が仕事(work)と私生活(life)の間で主体的にバランスを取り、両方の領域で充実感や満足度を高めるための戦略やアプローチを指す。
時間的にも金銭的にも充実した私生活を実現するために、業務の効率化や戦略的なペース配分で仕事の生産性を高め、同時に私生活をしっかり楽しむことで仕事への意欲や新しい発想が生まれるなど、互いの相乗効果で仕事も私生活も質が向上していくサイクルづくりを行うことがワークライフマネジメントの目的だといえる。
ワークライフマネジメントが注目される背景
ワークライフマネジメントが注目されている背景には、社会の変化による働き方やキャリアプランの多様化に加え、現代社会が直面している人手不足(労働力人口の減少)がある。
少子高齢化が進む日本では、家事育児・介護などで仕事にすべてのリソースを注げない人は年齢性別を問わず今後も増えていくと予想され、彼らを採用活動の対象外としてしまうと、もはや人材を確保することが難しい社会になりつつある。
そこで、働く人が主体的に仕事と私生活の最適なバランスを設定し、働く時間や働き方を自らコントロールすることで生産性を高めながら持続的に働ける職場づくりのコンセプトとして、ワークライフマネジメントが注目されている。
ワークライフマネジメントに似た言葉との意味の違い
ワークライフマネジメントとよく似た言葉に「ワークライフバランス」や「ワークライフインテグレーション」がある。それぞれ少しずつ意味や目指すものが異なるため、その違いを解説する。
ワークライフバランスではおおむね企業が時短勤務やフレックス制度を設けて推進するものであったのに対し、ワークライフマネジメントでは一人ひとりの従業員が仕事や私生活を自らコントロール・管理する
ワークライフバランスとワークライフマネジメントの違い
「ワークライフバランス」は、1970年代のアメリカで女性が社会進出した際に家庭や子育てと仕事の両立が困難な状況に陥るという問題が起き、それを解消するために生まれた概念だといわれている。
日本では、2007年に政府が発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス:WLB)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき、働き方改革の一環として推進されてきた。
本来は「仕事と生活の調和」や「仕事と私生活のバランスがとれた状態」を意味するが、近年では「仕事はそこそこにしてプライベートの時間を増やす」という意味合いで用いられたり、「会社が制度を作り社員に提供する」という認識が広まるなど、本来の意味から逸脱しているとの指摘もある。
このため、ワークライフバランスにかわって注目され始めたのがワークライフマネジメントだ。
両者を比較すると、ワークライフバランスはおおむね企業が時短勤務やフレックス制度を設けて推進するものに対し、ワークライフマネジメントでは一人ひとりの従業員が仕事や私生活を自らコントロール・管理することを意味する。
ワークライフインテグレーションとワークライフマネジメントの違い
ワークライフインテグレーションとは、「ワーク=仕事」と「ライフ=個人の生活」を切り離すのではなく、統合して共に充実を図るという概念である。
あえて仕事とプライベートを区別せず、1つの体験を通じて仕事と私生活の満足度・モチベーションの向上を両立させ、相乗効果でさらに良い循環が期待できるというのが「ワークライフインテグレーション」の目指す姿だ。
ワークライフマネジメントでは基本的に仕事と私生活は統合されないが、「いつ・どこで・なにをするか」を自ら選択できるため、従来の働き方と比べて仕事と私生活の充実度は大きく向上することが期待できる。
ワークライフマネジメントが企業にもたらすメリット
ワークライフマネジメントを推奨した場合、企業にとってさまざまなメリットがもたらされるだろう。以下はその例である。
生産性の向上
ワークライフマネジメントに取り組む従業員は、自主的に仕事の効率を高めようと工夫するようになり、生産性の向上が期待できる。個人の工夫はチーム全体のパフォーマンス向上にも寄与し、結果として、企業全体における生産性も高まっていくだろう。
人材確保
従来のオフィス出勤が前提の働き方では介護や育児・健康上の理由などで働きたくても働けない人が存在し、企業側も地方や海外などの遠隔地在住者を採用することが難しく人手不足の一因となっていた。
しかし、ワークライフマネジメントの導入により、性別や年齢・健康状態・居住地等に関わらず多様な人材が自分の状況に合わせて仕事を選べるようになるため、新たな人材確保はもちろん、従業員の離職防止にも効果的である。
アイデアの創出
遊びは大人にとっても創造性を刺激することが知られている。趣味や家族との時間、新しいコミュニティへの参加など、ワークライフマネジメントによってプライベートに遊びを取り入れることで、仕事の面でも今までになかった発想・アイデアが生まれる可能性がある。
ワークライフマネジメントが個人にもたらすメリット
一方、勤務先でワークライフマネジメントが推奨されれば、従業員にも多くのメリットがもたらされるだろう。
モチベーションの向上
人は細かく条件やルールが決められた状態よりも自分にある程度の裁量がある状態の方がモチベーションを高く保ち、主体的に目標達成に向かって行動することが分かっている。ワークライフマネジメントは自らが働き方を選び実行するため、より前向きに仕事に取り組めるだろう。
やりがいを持って働ける
従業員が自らの働き方を選択し自主的にマネジメントすることで、その過程や結果に対して大きなやりがいを感じられるだろう。
ライフステージの変化に対応できる
柔軟な働き方が選べる職場では、たとえば親の介護・出産育児・病気など、人生の様々なステージにおいて離職せずとも働き続けられる可能性が高まる。長期的なキャリアパスを維持しやすくなり、スキルアップや昇進もよりスムーズになるだろう。
ワークライフマネジメントを反映したオフィスづくり
従業員が主体的に働き方を選び、仕事と私生活の質を向上させていくためには、ワークライフマネジメントを可能にするオフィス環境づくりが欠かせない
従業員が主体的に働き方を選び、仕事と私生活の質を向上させていくためには、ワークライフマネジメントを可能にするオフィス環境づくりも重要だ。従来の一般的なオフィスの概念にとらわれない、自社と自社従業員のニーズにあった「ワークプレイス戦略」が必要となる。
具体的なオフィス形態には、従業員の自宅から近いコワーキングスペースやサテライトオフィス、サービスオフィスなどのフレキシブルオフィスを導入する、自宅などで働けるリモートワークやメタバースオフィスなどがある。これらを組み合わせたハイブリッドな働き方をオフィス設計で実現していきたい。
ワークライフマネジメントに対応したオフィス改革事例
ワークライフマネジメントを念頭に置き、オフィスデザインをアップデートした企業の例を紹介する。
新しい働き方「リモートスタイル」を実現
アサヒグループホールディングスは、新しい働き方「リモートスタイル」を提唱し、2021年から2022年にかけて営業拠点の集約と本社オフィスの全面改装を行った。
多様化する働き方や従業員の価値観に対応した「ワーク&ライフのイノベーション」を目指し、オフィスへ出社する目的を「コミュニケーション」、「アイデアの創出」、「チームビルディング」、「エンゲージメント」などに再定義した。これらの目的に合わせてデザインされたレイアウトや設備・機能によってリモートワークとオフィス出社のハイブリッドな働き方を実現。ワークライフマネジメント推進に最適な執務環境といえそうだ。
働き方の再構築を実現するための360°Communication
IT機器の導入支援などオフィス環境に関する多様なソリューションを提供するエイコーでは、創業50年を迎えた2022年に東京本社オフィスを移転した。
移転にあたっては「働き方の再構築」を念頭に、移転コンセプト「360°Communication」および実現したい8つのワークスタイルを策定。ITを活用したリモートワークやオンラインでのコミュニケーション、オフィスでのリアルな会話や交流、短期間で集中して成果を追求できるブース設置など、従業員が自主的に働き方を選択できるオフィスデザインとした。ワークライフマネジメントを後押しするオフィス戦略といえそうだ。
JLLのワークプレイス改革支援
ワークライフマネジメントは、多様化する従業員のニーズを取りこぼさずに働き方に反映させ、生産性や仕事の効率、私生活の充実度をともに高めます。
JLLでは、ワークライフマネジメントを取り入れた新しい時代の働き方に対応するための戦略的な「ワークプレイス改革」を支援しています。
ワークライフマネジメントを導入する際には、フレキシブルな働き方を叶えるオフィス環境の構築が欠かせません。JLLでは、課題とニーズの把握、それにもとづくオフィスコンセプトや改革案の策定から実施・効果の検証まで豊富な実績と経験に基づき総合的に支援します。