記事

オフィス移転の目的が変化してきた

コロナ禍へと突入した2020年、行動制限等によって事業活動が停滞した企業がオフィスを閉鎖・縮小したが、2022年になると拡張移転や立地改善といった前向きなオフィス移転が大半を占めるようになった。アフターコロナ時代を迎え、オフィス移転における主な目的は「人材採用」になりつつあるようだ

2023年 07月 24日

JLLオフィスツアー絶賛開催中

オフィス移転やワークプレイスリノベーションをご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談下さい。

ご参加お待ちしております!

ワーカーが働き方・オフィス環境に求めるプライオリティが大きく変化

コロナ以前は5位だった「心身の健康やウェルビーイングを気遣ってくれる会社で働くこと」が2位(回答者の56%)に上昇

コロナ禍の影響によって、働き方・オフィス環境に対するワーカーのプライオリティが明らかに変化してきている。

JLLが2022年に発表したグローバル調査レポート「Workforce Preferences Barometer(英語)」によると、「働く際に重視すること」を質問した結果、「満足できる給料が得られる」、「自身の仕事に生きがいを見出す」、「上司や同僚から認められ、評価される」といった「仕事に対する対価」的な項目が軒並み順位を落としたのに対し、コロナ以前は5位だった「心身の健康やウェルビーイングを気遣ってくれる会社で働くこと」が2位(回答者の56%)に上昇している。

他社の調査でも同様の傾向が見て取れる。外資系の転職エージェント会社であるMichael Pageがアジア太平洋地域のオフィスワーカー2万人に調査した「人材トレンド2022 THE GREAT X アフターコロナ時代の人材戦略」によると、「社員の定着に必要な要素」として上位5項目に「働きやすい職場環境(2位/44%)」、「同僚やチームの人間関係(3位/35%)」、「ワークライフバランス(5位/29%)」が挙げられている。

オフィス環境に満足していない日本のワーカーは60%超

2020年はポジティブなオフィス移転が55%にまで低下。しかし、2021年には60%超、2022年にはポジティブな移転が90%超に達し、再びオフィスへの投資が活発化

その半面、JLLによる働き方・オフィスに関するアンケート調査では、現在のオフィスが理想に近いと考えている日本の回答者が39%であったのに対し、グローバル全体の回答者は47%にのぼり、相対的に日本では従業員が満足するようなオフィス環境を整備している企業が少ないという結果も出ている。従業員がオフィスに求める要素が高度化・多角化しているものの、企業側はそうした期待に十分には応えられていなかった。

こうした背景もあり、企業側のオフィス再構築の目的も変化している。JLL日本が東京エリアのオフィス移転事例を独自調査した結果、コロナ前の2019年のオフィス移転事例の95%が前向き(拡張、立地改善、スペック向上、オフィス環境改善、従業員増)であったのに対し、新型コロナ感染拡大で大混乱をきたした2020年はポジティブなオフィス移転が55%にまで低下。しかし、2021年には60%超となり、2022年にはポジティブな移転が90%超 に達し、再びオフィスへの投資が活発化してきているようだ。

オフィス移転の目的(ポジティブ/ネガティブ)の推移 出所:各種ウェブサイトやJLLが独自収集した移転情報(東京エリア)をもとに集計

人材採用を目的にしたオフィス移転事例

中でも、人材採用の強化と長期雇用の維持を目的にオフィスを移転する動きはこれまで以上に目立つようになってきた。

例えば、IT企業の京都電子計算は築年が経過した旧オフィスから2021年竣工のハイスペックオフィスビルへ統合移転を行ったが、オフィス移転の理由の1つとして「人材採用活動の安定化」を掲げ、階層別のフリーアドレス席の導入、コミュニーション活性化を目的にした本格的なカフェスペースの導入、ドレスコードの自由化といった従業員の働きやすさを追求した数々の施策を実施。移転プロジェクトの責任者は「人材採用において最先端の業務に関われる面白さや給与面などの雇用条件だけでなく、労働環境の改善にも目をむけるべき」としている。

また、経営学や行動経済学などの学術的成果を取り入れた「モチベーションエンジニアリング」によって組織課題の解決などのコンサルティングサービスを提供しているリンクアンドモチベーションもアフターコロナ・ウィズコロナを見据えた全社的なワークプレイス改革を実行。2021年10月に東京オフィスを縮小移転し、「労働生産性の向上」と「従業員エンゲージメントの向上」を同時実現することで人材採用の強化も視野に、事業を成長させる新たな働き方を開始している。

その他、スキルマーケットプレイスを運営するIT企業のココナラ、システム開発のITベンチャーであるTech Funなどもコロナ禍にありながら従業員のエンゲージメント向上や人材採用を目的にオフィスの拡張移転を行っている。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 ディレクター 柴田 才は「こうした傾向を紐解くと、昇給やキャリアアップ制度といった金銭的報酬も重要だが、物理的・精神的に働く環境を意識するワーカーが増えていると理解するべきだろう。他国に比べて、長年賃金水準の上昇が見られなかった日本においては給料の多寡は重要なテーマであり続けるだろうが、人材採用の強化や長期雇用を維持するために個人・家族で過ごす時間の確保、働く場所・時間に対する柔軟性、そして心身の健康(ウェルビーイング)、ワーカー同士のつながり等を重視する機運が高まってきている」と指摘する。

地方オフィスを再構築する企業も

平等かつ高品質なオフィス環境を提供することと地方オフィスの独立性、この2つのポイントが今後のワークプレイス戦略を策定する上で非常に重要になる

オフィス再構築の動きは東京に位置する本社オフィスだけに限らず、地方オフィスの改革に目を向ける企業も少なくない。

例えば、日本を代表する飲料メーカーであるアサヒグループホールディングスはグループ間のシナジーを発揮する新しい働き方「リモートスタイル」の実現に向けて東京本社オフィスのみならず、地方拠点を含めた全社的なワークプレイス改革を実行した。

2017年5月にわずか2名で福岡開発拠点を立ち上げたITメガベンチャーのマネーフォワードは2020年11月に2フロア合計100坪へとオフィスを拡張移転。2021年にはエンジニアが働きやすい環境づくりや成長につながる取り組みに注力している企業を対象にした「エンジニアフレンドリーシティ福岡アワード」を受賞した。

前者は、本社オフィスだけでなく地方オフィスを含めて高品質な働く環境を提供し、全従業員の生産性やエンゲージメント向上を促すのが主な目的だ。一方、後者は地方オフィスを支店・営業所といった位置付けにせず、本社と同じ役割や責任を持たせ、独立性・裁量を確保することで、地方の優秀な人材の獲得を目指そうというものだ。

「平等かつ高品質なオフィス環境を提供することと地方オフィスの独立性、この2つのポイントが今後のワークプレイス戦略を策定する上で非常に重要になる」 (柴田)

また、人材採用において重要になるのがオフィスの立地だ。前述したMichael Pageの調査では転職者が重視する項目として「オフィスの所在地」が最上位となったが、企業側はあまり重視していないという結果が出ている。通勤時間の長さやラッシュ時の混雑を回避でき、職住近接に裏付けられた日常的な生活環境など、ワーカーは働きやすさと生活のしやすさを両立できる都市環境もこれまで以上に求められている。

高グレードオフィスの供給が増える大阪・福岡市

エネルギッシュで活気があり、クオリティを感じられる都市を選択することが企業としての魅力を向上させ、人材採用にも寄与する

一方、地方都市では企業誘致に向けて高品質なAグレードオフィスを新規供給するケースが増えてきている。例えば、梅田をはじめとするオフィス集積地でAグレードオフィスの新規供給が進む大阪市、政令指定都市トップの人口増加率・数を誇り「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」といった大規模再開発プロジェクトが進む福岡市には通販大手のジャパネットホールディングスが東京から本社機能を移転するなど、“働く場”として注目度が高まっている。

新規供給されるAグレードオフィスにはテナントが利用できるカフェ・食堂や会議室、リラクゼーションスペースなど、ウェルビーイングを意識した共用設備が充実するなど、企業誘致の受け皿が着々と整備されている。

「エネルギッシュで活気があり、クオリティを感じられる都市を選択することが企業としての魅力を向上させ、人材採用にも寄与する」(柴田)

東京はビジネスの中心地であり、人材の品質・多様性ともに日本屈指であることは間違いないだろうが、同時に企業の一大集積地であるため、人材採用競争が過熱し、優秀な人材を獲得するのが難しくなっているといわれている。そうした中、地方都市は人材採用の優位性もあり、今後も企業の進出は増えていくのではないだろうか。

オフィス移転に関するJLLのサービス

JLLでは企業が理想とするオフィス戦略に合致した移転先を見出すための多様なサービスを提供しています。オフィス移転を検討中の方は下記をご覧ください。

オフィスの移転先を探す

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。