コロナ禍でもワークプレイス改革の重要性は変わらない
IT企業のTech Funが新規開設したオフィスは自由にレイアウトを組める「フリーアドレスを超えたフリースペース」を実践。人事考課制度に適したワークプレイス改革を推進する。コロナ禍でオフィスの存在意義が揺らぐ中、新本社オフィスを整備したTech Funの狙いとは?
コロナ禍を機にワークプレイス改革を推進するTech Fun
コロナ禍を機に、人事考課制度に適したオフィスを整備したのがIT企業のTech Fun株式会社だ。多くの企業が従前のオフィスや働き方を見直すようになったが、ワークプレイス改革の本質はいつの時代も「事業活動に寄与する」ことにある。同社のワークプレイス改革はその好例といえそうだ。
クラウドを活用したITソリーションサービスを開発・提供する他、ITスクールを運営するTech Fun株式会社は2021年2月1日、東京・東上野エリアに位置する「ヒューリック東上野一丁目ビル」6階に新本社オフィスを開設した。従前から同ビル7階で賃借していた一部区画と近隣に拡張していた2つの事業拠点を統合集約し、ワンフロアに増床移転した形だ。
移転の理由は主に2つある。Tech Fun 代表取締役 兼 CEO 笠井 達也氏は「1つは、事業拠点が分散していたことによるデメリットを解消し、ワンフロアならではの利便性を享受したかった。もう1つは、オフィスに出社した従業員に向けてプレミアム感を体感してもらうこと」と説明する。
新型コロナ感染症の初期流行時に同ビル6階の既存テナントが退去することになり、かねてよりオフィスの統合を視野に検討していた同社にとって絶好の移転のタイミングが訪れたことも後押しとなった。
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出社した社員に喜ばれるオフィスづくり
コロナ感染防止の観点から導入されるようになったリモートワークの有用性が広く認識され、オフィスを解約してフルリモートワークに切り替える一部のIT企業も話題になった。
半面、リモートワークの弊害も顕在化する。1回目の緊急事態宣言が発出されて以降、同社でも原則在宅勤務体制を継続しているが、同居家族との兼ね合いで十分な業務スペースを確保できない、オンライン環境が未整備、孤独感によるメンタルヘルスの悪化などの課題が浮き彫りになった。笠井氏は「ヒトが働く上で対面型のコミュニケーションはなくならないと考えている。せっかく出社してもらうなら社員に喜ばれるオフィスを作りたかった」と力を込める。
フリーアドレスを超えたフリースペース
コロナ禍で同社がオフィス移転前に実施した社員アンケートによると、コロナ収束後のオフィスへの出社希望人数は全従業員(国内83名:2021年4月現在)の10-15%程度に収まることが判明した。
また、同社はプロジェクト単位でチームの組成と解散を繰り返し、状況に合わせて都度メンバーが変化するチーム型組織体制を採用しており、階層型組織のように固定化された固有の事業部は存在しない。原則在宅勤務を継続することで出社人数が大幅に制限され、毎回出社する従業員の顔ぶれも日々異なる。
笠井氏は「これらの条件を鑑みると従来型の固定席では対応できない。ソーシャルディスタンスを確保するため、広めのスペースが必要になる。出社人数が10名程度なら従業員が好き勝手にレイアウトを作れる執務環境にしたほうがいい」と考えたそうだ。
その結果、新オフィスの執務スペースは「フリーアドレスを超えたフリースペース」とし、自由にデスクを動かせるようにした。同社のITエンジニアは業務効率化を図るため、エンジニア1人に対してモニターディスプレイ2台と幅1,800mmの大型デスクが割り当てられているため、ソーシャルディスタンスを確保しながら快適に働くためには移動式デスクは都合がいい。
コロナ・情報セキュリティ対策
コロナ対策としては検温とマスク着用を識別する顔認証ドアロックを導入。自動的に入退室記録を取れ、情報セキュリティリスクを抑制する。
エンゲージメント向上
また、社員のエンゲージメント向上を念頭に、社内にセルフカフェルームを整備し、無料で使用することができる。大型モニターも用意しており、多目的スペースとしても活用する。
社員の信頼感を獲得するワークプレイス改革
ワークプレイス改革にしっかり投資することによって社員からも信頼される魅力的な企業になるだろう
IT業界において社員のエンゲージメントをいかに向上させ、優秀な人材を獲得していくかが喫緊の課題となっている。笠井氏は「コロナ以降、IT業界の働き手は人事考課やキャリアパスに関する公平な制度を持っているかどうかで就職先を選ぶようになっている」との認識を示す一方、引き続きオフィス環境の重要性にも言及する。
「帰属心を求める社員は少なくなく、その象徴がオフィスだと考えると、将来的にオフィスがなくなることはないだろう。ワークプレイス改革にしっかり投資することによって社員からも信頼される魅力的な企業になるだろう」(笠井氏)
世界のオフィスワーカー3,000人を対象にしたJLLのアンケート調査によると、コロナ禍でリモートワークを経験したワーカーの中でミレニアム世代の66%がオフィスに戻ることを望んでいるとの結果が出ている。
柔軟に働くことができるリモートワークは今後もしていくだろうが、企業にとってオフィスは引き続き重要な存在であり続けるだろう。コアオフィスとリモートワーク、在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が、アフターコロナにおけるワークプレイス改革の主流になりそうだ。