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劇的に生まれ変わる天神

アジアの拠点都市にふさわしいビジネスゾーンを創出することを目的に「50年に一度」とも称される建築ラッシュに沸く福岡市。天神ビッグバン第1号オフィスビルが竣工するなど、魅力的な街づくりが多くの企業・投資家を惹きつけている。

2021年 11月 16日
天神ビッグバン第1号が竣工

福岡県の新規コロナ感染者数が10人程度まで減少し経済活動が再開されるのと歩調を合わせるように、福岡市では天神ビッグバン第1号となる「天神ビジネスセンター」が完成した。

地上19階、地下2階、高さ89m、延床面積61,100㎡。地元ディベロッパー福岡地所の手がけた福岡市随一の威容を誇る高層ビルである。

テナントはジャパネットたかた、NEC、ボストンコンサルティング等が名を連ねる。共用部は災害時に帰宅困難者向けにも活用でき、防災備蓄倉庫や非常用発電機、耐震設備も整備され天神エリアの防災拠点としての役割も果たす。

天神ビッグバンとは?

これまで福岡市は空港が近く利便性が高い反面、航空法の高さ制限により高層ビルの建築ができないジレンマを長く抱えてきた(せいぜい10階建て)。今回、国家戦略特区を機に航空法の高さ制限の特例承認をうけ、天神1丁目は上限で地盤面から100mの高さまで建築物の建築が可能となった。

“天神ビッグバン”は画地の併合や地区整備計画を策定することを条件に、2024年末までに竣工するビルには、大幅な容積率のアップを認めると同時に高度制限を緩和する福岡市独自の都市政策である。旧耐震の老朽化したビルを建て替えて、アジアの拠点都市にふさわしいビジネスゾーンを創出することを目的 としている。

画像提供:PIXTA

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50年に一度の建築ラッシュ

天神では2021年9月に完成した「天神ビジネスセンター」を皮切りに「(仮称)旧大名小学校跡地(2022年12月予定)」、「(仮称)新福岡ビル(2025年春予定)」、「(仮称)ヒューリック福岡ビル(2024年9月頃予定)」等の建築が続く。50年に一度の大規模な建築ラッシュを迎えている。

いくつか紹介すると、大名小学校跡地の再開発はラグジュアリーなインターナショナルホテル「ザ・リッツ・カールトン」を上層階に頂き、足元には3,000㎡の広場を持つ地上24階建ての複合商業ビルとなる。また「新福岡ビル」は、「福岡ビル」と「天神コア」、「天神ビブレ」の3棟を取り壊した跡地に計画される19階建て、延床面積145,000㎡の九州一の規模を誇る店舗事務所ビルで、基準階の賃貸面積は1,400坪に及ぶ。両ビルとも福岡市を代表するランドマークになる予定である。

天神ビッグバンでは複数の大型再開発が進められる 出所:JLL

オフィスの大量供給、中期的には稼働率回復へ

福岡市天神地区は槌音が鳴りやまない再開発ラッシュを謳歌する一方で、心配な点も指摘されている。オフィスの大量供給に耐えられるかという点である。空室率が急上昇し賃料が下落するリーマンショック後と同じ轍を踏むのではと揶揄される。当然だがコロナによる景気の先行不透明感と大量供給による供給過剰から一時的にオフィスマーケットが影響を受ける事態は避けられない。ただし、中期的に見れば数年の調整局面を経て徐々に稼働率は回復へ向かう だろう。リーマンショック後と異なって今回は都心部“天神”の再開発である。またテナントが撤退したり減床したりする動きもリーマン後と比較して極端に少ないのが特徴である。

福岡市は東日本大震災の時に、東京からの移転需要は強かったものの受け皿なるオフィスビルがなかったという苦い経験を持つ。このためビッグバンという規制緩和を使って民間資本による魅力あるまちづくりを誘導してきた。経済界も福岡市の政策に呼応して大規模投資に踏み切った。人口増加率や若者率の高さ、国際会議の開催件数等のファンダメンタルズの強さに加え、天神ビッグバンで身につけた爆発的推進力は一時的なオフィス市場の減退では揺らがない だろう。

福岡市の推進力の一端を紹介する。コロナ禍のなか2021年9月に発表された地価調査を見ると、福岡市の商業地価格の平均変動率は昨年比7.7%の上昇を記録し、全国の地価上昇地点トップ10(商業地)のうち8地点を福岡市が占める結果となった。またJLLが2019年に発表した商業用不動産のモメンタム調査でも福岡市は世界第4位になった。投資先として重要度を増してきた。

(執筆者:JLL日本 福岡支社 支社長 兼 キャピタルマーケット事業部 福岡代表 山﨑 健二)

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※コロナによる影響を受け福岡市は2020年8月に、期限を当初の2024年末竣工から2年間延長すると発表した。新型コロナウイルス感染症対策機能の導入が前提となる。

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