地方にオフィスや事務所を設置するメリットは?比較検討のポイントもご紹介
地方オフィスへの移転を検討する企業に向けて、コスト削減・広さ・通勤負担軽減などのメリットと、比較検討のポイント、導入時の注意点などを紹介。サテライトオフィスの活用法、移転ステップ、成功事例も解説する。
地方へのオフィス移転の動き
リモートワークやテレワークの普及により、必ずしも都市部にオフィスを構える必要がなくなり、従業員のワークライフバランスを重視したオフィス環境が求められるようになった
過去、働く場所といえば都市部のオフィスであり、通勤ラッシュに耐えながら都心へ向かうのが当たり前と考えられていた。しかし近年は地方にオフィスを新規開設・移転する企業も増えてきているという。背景にあるのはコロナ禍によるリモートワークの定着だろう。
2020年初頭から顕在化した新型コロナ感染拡大期では感染防止の観点からオフィス出社を控え、在宅勤務(リモートワーク)が普及拡大したことは記憶に新しい。緊急措置としてリモートワークが導入したものの、多くの従業員は支障なく業務を進められることに気が付いた。
一方、都市部のオフィスは利便性が高い半面、賃料や維持費用の負担が大きく、長時間の通勤時間が従業員の生産性や満足度を低下させることにつながる。さらに、万が一の災害リスクも都市部ほど高く、データの分散管理や、帰宅困難時の物資の準備といった対応が求められるため、企業にとっては大きな負担となっている。
また、コロナ以前から働き方改革に対する機運が高まっており、企業は柔軟な働き方を推進するべく、オフィスの在り方を見直すようになっていた。そして、リモートワークの普及により、必ずしも都市部にオフィスを構える必要がなくなり、従業員のワークライフバランスを重視したオフィス環境が求められるようになった。そこで、コストの削減や従業員の通勤負担の軽減などを目的として、地方にオフィスを移転する動きが見られるようになったのである。
東京商工リサーチの調査によると、2023年に本社を移転した企業は1万3,701社にのぼり、2022年を上回っている。地区別の転出入状況としては、転入超過数のトップは中部、反対に転出超過のトップは関東だった。このように、関東から地方への転出は続いているものの、コロナ禍が収束し、経済活動が再開されたことで、関東からの転出超過数が過去2年間と比較して減少している。
地方にオフィスを置くメリット
地方にオフィスを構えることで、以下のようなさまざまなメリットが期待できる。
コスト削減
オフィスの地方移転の最大のメリットはやはりコスト削減効果だろう。地方では首都圏と比較して賃料負担が軽く、相対的に広いスペースを賃借できる。また、従業員の家賃補助や通勤手当なども、都心部のオフィス勤務となると相応のコストがかかる。地方にオフィスを設けることで地方自治体による税制優遇や補助金などの恩恵を受けられる可能性もあり、総合的なコスト削減につながる。
充実したオフィススペース
首都圏と比較すると地方のオフィス賃料は値ごろで、従業員一人当たりの占有面積を広くすることができ、快適な執務環境を提供できる。また会議室や休憩スペースなどの共用エリアも充実させやすく、多様な働き方に対応したレイアウトが可能となる。さらに高層ビルが少なく、眺望や自然光に恵まれ、快適で働きやすさを重視した空間づくりが実現できる。
通勤負担の軽減とワークライフバランス
地方のオフィスは都心に比べて相対的に住宅地に近く、近隣の従業員は通勤時間を大幅に短縮でき、通勤ラッシュを避けて快適に通勤できる。これにより身体的・精神的な負担が軽減され、余暇時間の増加にもつながる。結果としてワークライフバランスの向上や生産性の改善が期待できる。
BCPと災害時のリスク分散
オフィスを地方に設置することは、災害時のリスク分散策としても有効とされる。都市部に集中していたオフィス機能を分散させることで、大規模災害時にもデータや拠点が確保され、事業継続性が向上する。平常時からのBCP(事業継続計画)の実効性を高める効果も期待できる。
地域貢献とブランディング
地方にオフィスを設置することで、地元での雇用創出や周辺商業施設の利用増加など、地域経済の活性化も貢献できる。地域との連携や交流を通じて、企業の社会的責任(CSR)活動の幅を広げることも可能であり、企業イメージの向上や地域との良好な関係構築につながることも期待できるだろう。
人材採用
首都圏には多くの企業が存在するため、知名度の高い大手企業といえども優秀な人材を確保するための負担が増している。人材採用競争の激化を受けて、若い人材が豊富な福岡や京都などの地方都市へオフィスを開設し、人材採用活動に注力する企業が増えている。
地方にオフィスを構える際の注意点
オンラインツールの効果的な活用や定期的な対面ミーティングの設定など新たなコミュニケーション戦略を構築し、社内の一体感や組織文化の維持に注意を払う必要がある
地方へのオフィスを構えるメリットが数多くあるが、以下のような点には気をつけておきたい。
顧客・取引先のアクセス悪化
地方にオフィスを移転することで、顧客や取引先の訪問が不便になる可能性がある。特に重要な会議や商談の際には、都心のオフィスの方がなにかと有利に働くかもしれない。これに対処するためには、オンライン会議の活用や都心部にサテライトオフィスを設置するなどの対策が必要である。
従業員の不満
地方への移転で一部の従業員は引っ越しなどを強いられ、不満が生じる可能性がある。離職を防ぐには、移転前に従業員の意見を十分に聞き、テレワークの導入や通勤手当の見直し・柔軟な勤務制度の導入など従業員のニーズに配慮した対策が必要だ。
社内コミュニケーションの変化
地方へのオフィス移転や拠点の分散に伴い、対面でのコミュニケーションが減少し、部門間や従業員間の情報共有や連携が難しくなる可能性がある。オンラインツールの効果的な活用や定期的な対面ミーティングの設定など新たなコミュニケーション戦略を構築し、社内の一体感や企業文化の醸成に注意を払う必要がある。
立地による利便性の低下
地方のオフィスは都心部に比べて周辺の商業施設や飲食店が少なく、従業員の昼食や買い物など日常的な利便性が低下する可能性がある。また、公共交通機関が充実していないエリアでは自動車通勤を余儀なくされ、駐車場の確保や環境負荷の増大といった新たな課題が生じる可能性がある。社内食堂の設置や送迎バスの運行など、従業員の利便性を考慮した対策を検討したい。
第3の選択肢・サテライトオフィス
「首都圏か地方か」の二者択一ではなく、サテライトオフィスといった第3の選択肢もある。賃貸借契約を伴うオフィスとは異なり、短期の利用契約が一般的な賃貸型サテライトオフィスを活用することで、自社にとってベストなワークプレイス戦略が実現できる。
サテライトオフィスの活用
サテライトオフィスは、企業が都心部や郊外の主要エリア、環境の良い地方都市に設置する小規模なオフィスであり、近年はレンタルオフィスや法人利用を対象にした賃貸型シェアオフィスの整備が進み、サテライトオフィス制度を実現できる環境が整っている。賃貸借契約を締結する賃貸オフィスとは異なり、必要な期間だけ借りられる柔軟性の高いオフィススペースであるため、初期投資を抑えられ、急な拡大や縮小にも対応しやすいのがメリット。短期プロジェクトや新規事業の立ち上げ、地方進出の際の拠点として活用できる。従業員は自宅から近い場所で働くことができ、通勤時間の短縮やワークライフバランスの向上が期待できる。また、地域ごとにサテライトオフィスを複数設置することで災害時のリスク分散にも寄与する。ただし長期的にみれば自社オフィスよりコストが割高になる施設もあるため、導入の際は費用対効果を算定して慎重に検討したい。
併用でハイブリッドな働き方を実現
本社の地方移転に加えて、首都圏や郊外のサテライトオフィスを活用することで、より柔軟で効率的な「ハイブリッドな働き方」が実現できる。重要な会議や対面での協業が必要な際は本社に集まり、ソロワークなどの日常業務は最寄りのサテライトオフィスで行うなど、業務内容や従業員のニーズに応じて最適な働く場所を選択することで、生産性向上とワークライフバランスの両立に貢献する。
地方へのオフィス移転の進め方
地方オフィスへの移転が決まったら、以下のような段取りで移転プロジェクトを進めていこう。
- 自社の現状分析と移転の必要性を検討
- 候補地の選定
- 社内の意見集約と合意形成
- 移転計画立案・スケジューリング
- 移転の実施
- 効果検証
各段階でやるべきことを解説する。
自社の現状分析と移転の必要性を検討
まずは自社の現状を分析し、移転の必要性を検討する。現在のオフィスの課題や問題点を洗い出し、移転によってそれらが解決できるか、コストや従業員の満足度・将来的な成長も含めて評価する。
候補地の選定
次に地方のオフィス候補地を選定する。立地の利便性や交通アクセス・周辺のインフラなどを考慮し複数の候補地をリストアップする。現地視察を行い最適な場所を絞り込む。
社内の意見集約と合意形成
移転計画を従業員に説明し、意見や懸念事項を収集する。通勤や業務への影響については特に丁寧にヒアリングを行う。収集した意見をもとに移転計画の調整や対策を検討し、社内の合意形成を図る。
移転計画立案・スケジューリング
移転にともなう各タスクの優先順位と詳細な計画を作成し、オフィス移転のスケジューリングを行う。オフィスレイアウトの設計、必要な設備・備品の洗い出し、引っ越し業者の選定、IT環境の整備など、各タスクの担当者と期限を設定する。
移転の実施
計画に沿って移転を実施する。引っ越し作業だけでなく、新オフィスでの業務開始に向けた準備も並行して進める。IT環境のセットアップ・什器の配置・各種届出手続きなどをもれなく行う。従業員向けの新オフィス利用ガイドを作成するなど、移転前から従業員への啓蒙を行う。
効果検証
移転後は定期的な効果検証が欠かせない。コスト削減額・生産性の変化・従業員満足度などの指標を設定し、移転前と比較する。また新たな課題や改善点がないか確認し、必要に応じて対策を講じる。
【地方オフィス移転/サテライトオフィス活用】企業の成功事例
ここでは、地方のオフィスへ移転、あるいは地方に設置されているサテライトオフィスを活用することで成果を上げている企業の事例を紹介する。
【ジャパネットHD】東京から本社機能を福岡へ移転、地方創生も
テレビ通販で知られる”ジャパネットたかた”の親会社であるジャパネットHD(ホールディングス)は、2021年12月、コロナ禍を機に東京拠点から主要機能を福岡へ移転させた。
2021年9月竣工の「天神ビジネスセンター」12-14階の3フロアを区分所有し、うち2フロアに新オフィスを開設。メーカーとの交渉などを担うバイヤー部門をはじめとする一部機能を東京に残すことで、スピードをもって業務に取り組む業務・部署と、コストを抑えて地元に根付いた企業活動を行う部署のすみ分けに成功した。
従業員からも好評で、九州への転勤を希望する従業員も出てきたほか、地元での採用も想定を上回る速さで採用目標数を獲得することに成功した。
【NTTグループ】
ICT事業や電気通信事業などで日本の通信業界を代表する大手企業のNTTグループは、2022年6月「リモートスタンダード」制度の導入を発表し、サテライトオフィスの拡充を推進している。
この制度は、従業員が日本全国どこに住んでいても、リモートワークで業務を遂行できるようにするもので、従業員の居住地選択の自由度を高め、健康経営をさらに推進することを目的としている。
同グループは以前からサテライトオフィスやスーパーフレックスタイムの導入など、働く場所と時間の柔軟性を高める施策を積極的に推進してきた。これらの施策の成功を踏まえ、会社への通勤圏内に居住する必要がないという体制への移行は大きな反響を持って受け入れられた。
自社に最適なオフィスプランニングはJLLへ
地方へのオフィス移転やサテライトオフィスの活用など、従前と比べて近年のワークプレイス戦略は多様化している。
「地方にオフィスを開設・移転するべきか」迷ったら、オフィス戦略の総合的なソリューションを幅広く提供しているJLLに相談してみてはどうだろうか。
JLLはオフィス市場における豊富な知見と各種データを提供し、これまでに数々のオフィス移転を成功に導いてきた経験から、よりよいオフィス構築の実現可能性を大きく高めることができる。ぜひ以下より相談を。