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コロナ下で拡張移転したココナラ「成長企業にはオフィスが不可欠」

創業当初から倍々ゲームでオフィスを拡張移転してきた株式会社ココナラ。オフィス重視の姿勢はコロナ下でも変わらない。リモートワークが定着する中、企業のオフィス縮小・解約する企業が少なくないが、1.8倍もの拡張移転を行ったココナラの代表取締役会長 南 章行氏にオフィス戦略について聞いた。

2021年 09月 30日
コロナ下で2倍近い拡張移転、さらなる館内増床

「最初に新型コロナウイルスが感染拡大した時に、オフィスを解約したベンチャー企業は多かったが、半年後には後悔すると予想していた」こう話すのは、コロナ下で本社オフィスを拡張移転した株式会社ココナラ 代表取締役会長 南 章行氏だ。

会員登録者数は220万人超(2021年5月時点)。「知識・スキル・経験」などの「得意」をオンライン上で売り買いできるスキルマーケット「ココナラ」の運営を主事業とする株式会社ココナラは2020年8月24日、東京・五反田から渋谷エリアの大規模オフィスビル「渋谷インフォスタワー」6階に本社オフィスを移転した。賃借面積は五反田時代の170坪から317坪へ、2倍近くの拡張だ。

入居契約を締結したのは2019年。コロナ前での意思決定ではあるものの、2020年12月には翌年10月からの別フロアへの館内増床を決定。コロナ下でありながらオフィス拡張路線に変化はない。

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成長企業にはオフィスは必要不可欠

コロナ感染対策として出社人数を制限し、オフィススペースを縮小・廃止する企業は少なくない。ココナラの現在(2021年7月時点)のオフィス出社率は3-4割程度だ。しかし、南氏は「業績悪化によってオフィスを解約するという議論はわからなくもない」と前置きしながらも「新卒採用が定着し、成長速度が安定した大手企業ならいざ知らず、全社員が中途採用かつ1つのプロダクトを製作している我々のような超成長企業だと、求められるコミュニケーションは当然変わってくる。ベンチャー企業にとって絶対的に『場(オフィス)』があったほうがいい」と強調する。

2021年3月に東証マザーズに上場し、直近1年間で従業員数は倍近く増加。年率売上で60%以上の成長を遂げる変革期にあたる。南氏は「凄まじい変化に身を置く当社としては情報共有や議論のスピード感・質が落ちることは事業成長にとって致命的」とする。主力事業の「ココナラ」には、ほぼすべての従業員(100名以上)が制作に携わっており、高度なすり合わせが必要不可欠。コミュニケーションを実践できる場としてオフィスという存在価値を高く評価しているのだ。

企業のオフィス戦略を調査しているJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 柴田 才は「賃料負担の重い大規模オフィスを賃借する大手企業ではリモートワークを積極的に導入し、オフィス面積を最適化する動きが出ているが、上場を目指す気鋭のベンチャー企業等では更なる事業成長を目指して『稼ぐ場』であるオフィスを拡充させるケースが出てきた」と指摘する。

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居抜きでオフィス移転を繰り返した渋谷ベンチャー時代

そもそもココナラのオフィス戦略は、急速な事業成長に歩調を合わせて倍々ゲームで床面積を拡張し続けてきた歴史がある。

ココナラが2012年1月の創業以来、本格的にオフィスを構えたのは11坪のワンルームマンション。「渋谷インフォスタワー」と同じ渋谷の桜丘町だった。その後、事業拡大と共に渋谷内で拡張移転を短期間のうちに3度行った。いずれも「居抜き」による移転だ。

南氏によると、人材採用を見越して一気に4倍の床面積を確保することがコスト負担の面からできないため、20坪、40坪、80坪と2倍程度の拡張移転を繰り返すことになったという。必然的に移転回数が増えるため、原状回復の負担がなく、入居してから即時業務ができる居抜きはベンチャー企業にとって魅力的な選択肢になる。同社を含めた最大7社による居抜きの同時移転も経験した。

その後、2017年に渋谷から五反田へ移転するが、こちらも80坪から180坪とほぼ2倍の拡張移転となった。渋谷駅周辺の大規模再開発によって既存床が減少し、空室が枯渇。賃料水準が高騰したため、コスト負担を抑える目的で値ごろな賃料が魅力の五反田へ「避難」した形だ。

ココナラの移転前後で、五反田ではベンチャー企業の集積が進み、全国紙等がその潮流を取り上げ始めたことから、これまでビジネス街の印象が皆無だった五反田をPRするべく、一般社団法人「五反田バレー」の立ち上げに参画。理事企業にも名を連ねた。しかし、南氏は「100坪台の中規模ビルが豊富にあるのが五反田の魅力だが、同時に起業時に適した小規模オフィスやマンションが少なく、ワンフロア300坪以上のオフィスビルは皆無。成長著しいスタートアップにとって五反田は卒業する可能性の高い場所」と指摘。円滑なコミュニケーションを重視する同社のオフィス戦略に見合った物件が五反田には存在せず、渋谷へ回帰することに。

「我々が創業した当時、桜丘町で起業するケースが多く、事業規模が拡大すると道玄坂上から明治通り沿い、渋谷クロスタワー、渋谷マークシティといった流れで拡張移転していく『すごろく』のような状態が定着していた。『いつかはインフォスタワー』という想いは創業当時からあった」(南氏)

オフィスは「事業を成長させる場」

新たなオフィスはコロナ禍を受けて一部フリーアドレスを追設したが、全固定席が基本。ユーザーイベントや記者説明会を実施するラウンジスペースを用意した。昨今デザイン性に富んだ華美なオフィスを好む企業も少なくないが、南氏は「オフィスデザインはあくまで機能的であること」に重点をおく。

「創業者のモチベーションが良い会社を作りたいのか、良い事業を作りたいのかで、オフィスの設計が変わってくる。良い会社を作りたいと考えるバリュー志向の創業者は事業そのもので人材を惹きつけるのではなく、柔軟な働き方やオフィスのデザイン性や充実した設備等を売りにするケースもある。一方、当社のように『この事業をやりたい』とする目的が明確で、一緒に頑張れる『仲間』が集まった企業にとっての軸は会社ではなく事業になる。あくまでもオフィスは『みんなと一緒になって事業を成長させていく場』と捉えている」(南氏)

事業成長という軸を棄損せず、魅力的なオフィスづくりを目指す

一方、コロナ禍によって仕事と生活がこれほど近づいた経験は過去にない。通勤時間がなくなったことで時間に余裕が生まれ、家族との会話が増えるなど、心理的に豊かになった人々も少なくない。半面、家庭の事情や在宅勤務という孤独な環境にストレスを感じ、オフィスで働くことを希望するワーカーも存在する。

今後のオフィス戦略について南氏は「コロナ禍前にオフィス内で実施していた社員の交流を深めるための交流会等の『日常』を取り戻すことが最優先」としながらも「事業内容やビジョン等に共感したメンバーの集合体がココナラの最大の特徴であり、事業成長が礎となっている。これを棄損せず、2つの異なる価値観を両立させる魅力的なオフィスづくりを目指す」と抱負を語っている。

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