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変化の時代のワークスタイル変革を再定義

経済動向が日々絶え間なく変わる中、企業はその変化に適応し、働き方(ワークスタイル)を変革していくことが喫緊の課題として求められている。しかし、従業員や社内の現状を把握せずに急ぎすぎた「ワークスタイル変革」は効果が得られないことが多い。これまでの企業文化、従業員(ヒト)、システムをバランスよく改善・最適化し、ヒトの体験に重点を置いた「ワークスタイル変革」が今後さらに重要となってくる。

2020年 07月 06日

ワークスタイル変革が必要とされる背景

「在宅勤務の方が生産性の高い仕事ができた」と回答した日本のオフィスワーカーは、わずか17%という結果が見られている

ワークスタイル変革が喫緊の課題として叫ばれている背景に、新型コロナウイルスによる従業員の働き方の変化が大きな要因の一つとして挙げられる。感染拡大防止の観点から打ち出されたニューノーマルな生活様式で定着し始めた在宅勤務は、効率的であるといわれる半面、心理的な負担により生産性が低下したという意見も出てきている。JLLがオフィスワーカーに対して実施したサーベイレポートでは、「在宅勤務の方が生産性の高い仕事ができた」と回答した日本のオフィスワーカーは、前回の調査に比べさらに下落し、わずか17%という結果が見られている。このサーベイデータから窺えるのは、コロナによる在宅勤務に対応しきれていない従業員は少なくないということだ。企業側はこの課題に対し、率先して対策を打っていかねばならず、アフターコロナを見据えたワークスタイル変革を再定義し、組織内で提示・先導していくことが必須となってくるだろう。

改めて考える、ワークスタイル変革の目的
働き方改革関連法がきっかけで重要視され始めたワークスタイル変革

そもそも「ワークスタイル変革」の目的とは何か?それは、働く人々が個々の事情を適応して、多様な働き方を選べ、それぞれ一人ひとりが将来への展望を持つことができる環境を作っていくことであり、この骨組みは厚生労働省の「働き方改革関連法」によって示された。「個々(ヒト)を尊重した多様な働き方」を促進できる環境づくりが目的の本質にあり、変わりゆく時代に適応した「ワークスタイル変革」を再定義していく上でも重要なポイント となる。

SDGsやESGに対応した従業員のウェルビーイング構築

従業員が精神的、身体的そして社会的に満たされている状態(ウェルビーイング)を構築することは、企業としての責任であると同時に、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)の観点からも欠かせない要素となっている。国際サミットで採択されたSDGsの「すべての人に健康と福祉を」という持続可能な目標や健康経営・ウェルネスオフィス等を重視したESG投資は、企業の人的資産である従業員のウェルビーイングに大きく関連してくる。人材確保や離職率の改善、生産性の向上等の目的の他に、ワークスタイル変革を推進することは、結果的に企業価値の底上げにも寄与するのだ。

ヒューマン・パフォーマンスの向上

企業側によるワークプレイス最適化と精神的なマネージメントの両方によるヒューマン・パフォーマンスの向上は、ワークプレイス変革を推進するプロセスで外せない要素であり、企業の未来にも直結してくる

コロナ禍でオフィスとテクノロジー活用の価値が改めて問われている中、フレキシブルオフィス等のニューノーマルな働き方に適応したスペースが提供された従業員の満足度が比較的高いというデータが見られている。従業員の高い満足度はパフォーマンスの向上にも繋がりやすいため、企業としてもワークプレイスを通したワークスタイル変革は取り組むべき重要項目の一つとして挙げられる。言うまでもなく、オフィススペース、テクノロジーが活用された機会を提供するだけでは不十分であり、目に見えない部分のモチベーション向上に結びつく組織的なマネージメントが必要となる。企業側によるワークプレイス最適化と精神的なマネージメントの両方によるヒューマン・パフォーマンスの向上は、ワークプレイス変革を推進するプロセスで外せない要素であり、企業の未来にも直結してくるだろう。

ワークスタイル変革の成否を分けるメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

企業の人材を育てるメンバーシップ型雇用

日本で多くの企業が取り入れているメンバーシップ型雇用は、企業からヒトに仕事を割り当てる形態であり、従来の日本のワークスタイル ともいえる。OJTなどの企業内教育を受けることができ、経験のない若者が自分の適性を見極められる等のメリットが挙げられる。もし仕事がなくなってしまった場合でも配置転換により雇用を維持できることや、職務経験が少なくてもポテンシャルで職につくことができるなど、企業内キャリアアップの道筋があるため、会社への貢献意識が高く、チーム重視のヒト向けのワークスタイルであるといえる。

ヒト(従業員)の仕事を中心とするジョブ型雇用

欧米で主流のジョブ型雇用は、仕事に対してヒトを割り当て、技能などに合わせて条件を明確に定め契約を結ぶ形態であり、最近ではこのジョブ型雇用を取り入れている国内企業も少なくない。自分のスキルで給与が決まる、長時間労働になりにくい等のメリットが挙げられ、事前に労働条件を企業と雇用者で決めることで、入社後のミスマッチを回避できる。

メンバーシップ型・ジョブ型についてはコロナ禍によるテレワーク普及時に議論されることも多いが、ワークスタイルを変革する重要なポイントは結局のところ”ヒト”次第であり、両者の良し悪しを見極め、組織がどのような職場 = ワークプレイスにしていくのか、またヒトがどのような職場 = ワークプレイスで働きたいのかを考え、最適化していくこと に尽きる。

ワークプレイス最適化による「ワークスタイル変革」

ヒューマン・エクスペリエンス中心の職場

では”ヒト”重視の職場 = ワークプレイスとは、どのような要素を持ち合わせているのだろう?JLLがグローバル展開する国内外企業を対象に実施したワークプレイス戦略に関するアンケート調査で、「どの分野においてCREは付加価値を提供できるか」という質問に対し、「ヒューマン・エクスペリエンス (回答率43%)」を重視していることが判明した。また、「ワークプレイスにおいてヒューマン・エクスペリエンスに期待される効果」についての質問に対し、最も多くの回答率を記録したのが「ワークプレイスと従業員によるイノベーション促進 (回答率55%)」であった。ヒトの体験 = ヒューマン・エクスペリエンスを中心としたワークプレイス最適化によるワークスタイル変革を実践する企業は今後さらに増していくであろう。

ヒトを重視したワークプレイス改革の現状

ヒトの体験を重視することで、ワークプレイスの在り方も大きく変わってくる。新型コロナウイルス感染拡大を機に、図らずも個人のワークスタイルを重視したリモートワーク制度導入が加速しており、その変化に対し、意外にも実施することができたという企業の声も多数上がってきているようだ。環境の変化とともに、企業のリモートワーク制度導入等のワークスタイル変革へのハードルが下がってきているのは明確だ。それに伴い、今後テレワークを主体としたワークプレイス戦略の分散・効率化を進める企業も現われるだろう

ワークスタイル変革を成功に導いた企業事例

「雇用型テレワーク」に焦点を当てワークスタイル変革を推進した事例

従来のオフィス・フレキシブルスペース・サテライトオフィス・リモートワークなど、企業によっては文化や意識、課題も違うため、ワークスタイル変革のための手段は様々だ。あるIT企業は「雇用型テレワーク」に焦点を当て、介護や子育てと仕事を両立できるようにテレワークを実施。テレワークだけでなく遠方通勤の従業員のために外部貸しのサテライトオフィスを利用可能にさせるなど、個人(ヒト)を尊重した多様な働き方を実現させ、女性スタッフの退職が0という結果を導き出している。

真のワークスタイル変革とはヒューマン・エクスペリエンスを重視したワークプレイスの最適化により、ヒトのウェルビーイングを向上させ、企業の生産性を高めることに尽きる。企業が先にくるのではなく、まずヒトを中心として考えることがポイントだ。激しい変化の時代の中でも、ワークスタイル変革の要として置いておきたい。

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