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ワークプレイスがイノベーション創発を促す起爆剤に

ワークプレイス改革の目的は様々だが、日本企業の場合、ワークプレイスからイノベーションを創発することを期待している。とはいえ「イノベーションを創発するワークプレイス」とはどのようなものなのか。それは従業員に優れた「体験」を提供する「ヒューマン・エクスペリエンス」の考え方が鍵となるようだ。

2019年 11月 04日

ワークプレイス改革の目的はコスト削減にあらず

CRE部門がイノベーション創発を支援

日本企業のCRE部門責任者に対して「どの分野においてCREは付加価値を提供できるか」と質問したところ「イノベーション(回答率45%)」と「ヒューマン・エクスペリエンス(回答率43%)」を重視していることが、JLLがグローバル企業を対象に実施したワークプレイス戦略に関するアンケート調査で判明した。本調査の責任者であるJLLアジアパシフィック コーポレート・ソリューションズ・リサーチヘッド スーザン・サザーランドは「新しい価値観を提供するイノベーションは事業成長には不可欠となる。CRE部門はワークプレイス環境を変革していくことで、イノベーション創発を強力に支援することができる」と指摘する。

「体験」を大切にするヒューマン・エクスペリエンス

企業がなぜワークプレイス改革を実施するのか。執務環境の改善、業務の効率化、従業員満足度の向上等、そのアプローチは多々あるが、最終的にこれらの取り組みは「イノベーション創発を促し、事業成長を実現する」ことに帰結する。

では、イノベーション創発を促進するワークプレイスとはどのようなものなのか。重要なのは「人の体験」を大切に考える「ヒューマン・エクスペリエンス」だろう。エンゲージメント(会社との結びつきや愛着)、エンパワーメント(働くスペースやツールに選択の自由)、フルフィルメント(満たされた幸せな気持ち)の3要素を満たすように就業環境を充実させることで従業員の満足度は高まり、自発的に生産性が高まっていくという考え方だ。今回のアンケート調査で「ワークプレイスにおいてヒューマン・エクスペリエンスに期待される効果」について質問したところ、最も多くの回答率(55%)を記録したのが「ワークプレイスと従業員によるイノベーション促進」であった。ちなみに日本以外でヒューマン・エクスペリエンスを最重要視している国はドイツ(57%)だけだ。

サザーランドは「毎日同じ固定席で仕事をし、同じ同僚と食事するという環境では業務に対する考え方も硬直化してしまう。好きな座席を自由に選べ、部門の垣根を越えてコミュニケーションが取れる執務環境のほうがイノベーションは生まれやすい。こうした仕掛けづくりを重視したワークプレイス改革を実践する企業は世界的にも増加傾向にある」と説明する。

JLLが2017年6月に発表したグローバル調査「ヒューマン・エクスペリエンス(体験)がもたらすワークプレイス」では「ヒューマン・エクスペリエンスとは人が中心となり、人が体験することによってオフィス・企業の生産性が変わってくる」という結果を導き出している。その効果についてはクリエイティビティやコラボレーションを創発する「イノベーション」の効果、心身の健康を高める「ウェルビーイング」「パフォーマンス」の向上、企業文化の注入、「アジリティ」を高める効果等が挙げられた。

ワークプレイス改革の必要性を共有させられるか

一方、日本企業のCRE部門は継続的にイノベーションを創発するためにはワークプレイス(環境)づくりが必要だと認識しているものの、実際にはヒューマン・エクスペリエンスを向上させるための投資は遅れているように見受けられる。その理由としてCRE専門人材の不足や、ワークプレイス改革の効果に対する不安から投資を躊躇してしまい、実施段階に移行できている日本企業はまだまだ多くはないようだ。その理由としてコスト削減に勝るワークプレイス改革の必要性が全社的に共有できていないことが挙げられる。この課題をいかに解決するのか、CRE部門は知恵を絞っていかなくてはならない。

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