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新型コロナウイルスによってサプライチェーンの長期的シフトが加速する

コミュニティーだけでなく、物流面をも「分断」した新型コロナウイルス。マスクの世界的な囲い込みが勃発したかと思えば、医療用品の不足が深刻化する。こうした中、世界中の企業は商品の調達と流通を大きく変化させようとしている。

2020年 05月 08日
深刻化するモノ不足

新型コロナウイルス感染拡大を食い止めるべく様々な規制が行われる中で、物資の供給が滞り「モノ不足」が重大な問題として浮かび上がっている。医療用の高性能マスクから食料品・日用品まで入手が難しくなっており、物資の調達・流通・保管における弱点が露呈した形だ。

JLLグローバルサプライチェーンコンサルティング リッチ・トンプソンは「こうしたリスク管理は日常的に重要なものであるが、新型コロナウイルス感染拡大がより堅牢なシステム構築についての意思決定を加速させようとしている。次に大規模なパンデミックや大災害が生じた場合に混乱を最小限にとどめるために何をするべきか、担当者は経営陣からの質問に明確な答えを用意しておかなくてはならない」と指摘する。

グローバルなサプライチェーンが大きく混乱したのは今般のパンデミックが初めてでも最後でもない。2011年に日本で発生した東日本大震災は数カ月間サプライチェーンを動揺させた。また、タイで発生した大洪水はハードディスクに依存していた多くのコンピューター製造業者のサプライチェーンに影響した。 

国際弁護士事務所のベーカー・マッケンジーが2019年に実施した調査では、多国籍企業の50%が自社のサプライチェーンに「大きな変化」を予想しており、10%超が「完全な見直し」に言及した。これを受けてトンプソンは「企業が次回の混乱に備えて戦略を調整する上で、分散化が鍵となる」との見解を示している。

供給元の分散化

グローバル企業ではリスク対策のため、製造や供給元を特定の国や企業から分散化し、需要を満たすための地域ネットワークを設置する動きがみられる。これは第一に、世界全体の製造業の約30%を占める中国への依存度を下げ、ベトナム、インド、メキシコなどの他の市場へ移すことを意味する。このトレンドは、企業が貿易摩擦に関連した関税を回避しようとしたことで既に実現し始めていた。一方、中国政府はその財務支援を高付加価値のテクノロジー生産へ移行させようとしている。

一方、新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて、より多くの製造業が国内へ回帰する可能性もある。トンプソンは「このパンデミックから大きな教訓を得て、重要な医療用品を輸入に頼ることによる国家的危機を避けるため、各国が『独立した国内サプライチェーン』の開発に焦点を当てるだろう」との見解を示す。

米国では今回のパンデミックによって、必要な薬品や医療用マスクなどの医療用品の確保に関する重大な懸念が明らかとなった。米国保健社会福祉省によれば、実に外科手術用マスクの95%、密着型の呼吸器防護具の70%が国外で生産されているという。トンプソンは「パンデミックの結果として、医療用品や薬品などの製造が国内に回帰することで、国内の倉庫や物流市場を変化させるだろう」と述べている。

このようにグローバル企業は製造の一極集中によるリスクを軽減するため、地域単位の業務運営を検討する可能性が高い。既にこの戦略を採用している業界も多い。例えばフランスのファッションブランドであるルイ・ヴィトンは先日、テキサス州に製造拠点を開設した。自動車業界では、生産工程をドイツに限定してきたメルセデスが今やトヨタやフォルクスワーゲンと同様に、多数の市場で生産を行うようになっている。

流通の分散化

世界の物流の80%がトラック輸送で行われており、分散化の進展は流通にもみられるようになるだろう。ただし、パンデミックにより輸送能力が大幅に減少しているため、トラック輸送のコストは現在市場平均の3倍に達している。トンプソンによれば「これは一部の企業にとっては割高な教訓となっている」という。

「より多くの企業がトラック輸送能力の収縮や輸送料高騰のリスクを軽減するため、貨物集配のハブ拠点や鉄道ターミナルなどに近い複合一貫輸送の選択肢を提供できる立地に投資するだろう」(トンプソン)

しかし、こうした代替的手段ですら、将来的な「流通の遮断」を回避するためには分散化が必要となる。トンプソンは「企業は今後港湾戦略の分散化を求められる。現時点で輸入港が1カ所に限られているならば、これを増やすことを検討するだろう」と述べ、ウォルマートを一例として挙げる。

「ウォルマートは中国から米国向けの全商品の輸入にロサンゼルス港とロングビーチ港を使用していた。しかし、現在はコストが割高となったにもかかわらず4カ所の港湾を使用している。基本的には、保険をかけているためだ」(トンプソン)

ネットワークの再評価

企業が供給元や物流網を拡大させ、変更する中、商品の移動から保管場所まで、物流や倉庫のネットワーク全体が影響を受けることになる。

トンプソンは「例えば米国企業が中国からインドへ業務を移動させたならば、海運は西海岸の港湾からスエズ運河経由の東海岸の港湾に移動し、流通センターやインフラの配置に非常に大きく影響する」と語る。

また、世界中の多数の顧客や企業がパニック買いや予想不能な需要急増による商品不足の被害を受ける中、新型コロナウイルスは在庫に関する疑問も呈している。

過去に前例のない需要急増がサプライチェーンを圧倒し、企業は在庫の量や顧客基盤への配分の再評価を余儀なくされた。

トンプソンは「現在の危機から得られた教訓が一つあるとすれば、最も重要な商品の在庫を増やすことだ」と指摘する。低金利環境で、企業は重要な部品や原材料、完成商品の余剰在庫を地域ごとの代替的な流通拠点に保管し、緊急時にも顧客の需要を満たしつづけられるようにするべきだろう。

そして、企業が対策に取り組む間に、製造施設やラストワンマイル配送、フルフィルメントセンターへの需要が増加し、今後数十年間にわたって産業の様相を変化させるだろう。