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ワークスタイル変革を推進するテレワーク導入の鍵

ワークスタイル変革(働き方改革)の有効な施策として注目を集めるテレワークだが、制度を導入しても実際にはうまく機能していないケースも少なくない。固定化したワークスタイルを実践してきた日本企業にとってはテレワークに対して様々なアレルギーがあるようだ。そこでテレワークの先駆的企業であるアステリア株式会社の取り組みを通じて、ワークスタイル変革を推進するためのテレワーク導入の成功要因を考察した。なお、本稿では企業に所属する就業者による「雇用型テレワーク」に焦点を当てている。

2020年 02月 13日

多様な働き方を実現するテレワーク

ワークスタイル変革を躊躇する企業の懸念点

国土交通省が2018年3月に発表した「テレワーク人口動態調査」によると、テレワーク制度等に基づく雇用型テレワーカーの割合は9.0%となり、前年比の7.7%から微増したが、広範に定着したとは言い難い。

2017年5月、政府が閣議決定した「世界最先端IT宣言・官民データ活用推進基本計画」には「2020年には、テレワーク制度に基づいた雇用型テレワーカーの割合を2018年比で倍増させる」と目標が設定されたが、達成までは道半ばといえるだろう。

仲介事業を通じて企業のワークプレイス変革に詳しいJLL日本 マーケット事業部 柴田 才によると「多様な働き方を実現するテレワーク制度は、少子高齢化に伴う労働力不足を解消する上で、企業・就業者双方にメリットが大きい施策といえるだろう。一部のITベンチャーではテレワークを前提とした働き方を実践する一方、人材獲得競争が激しいIT企業の中でもテレワークを積極的に導入しない企業も少なからず存在する」という。JLL記事「ワークプレイス戦略に注力するIT企業が多い理由」で言及したITメガベンチャーのアカツキが典型例だ。

「テレワーク先駆者百選」企業の取り組み

猛暑テレワーク等、ユニークな制度で啓蒙活動も

テレワークを制度化し、うまく機能させている企業の取り組みはどのようなものなのか。最高気温35度以上が予想される猛暑日に全社をあげてテレワークを推奨するユニークな取り組みで、一般社団法人日本テレワーク協会が主催する「テレワーク推進賞」を受賞した他、総務省の「テレワーク先駆者百選」に認定されたIT企業のアステリア株式会社の取り組みから、テレワーク成功の鍵を探ってみた。

アステリアは1998年9月に創業し、20周年を迎えた2018年に現在の社名に変更したソフトウェア開発・販売を主業とする東証一部上場のIT企業だ。JR大井町駅から徒歩圏内に本社オフィスを構える。

テレワークを開始したのは2011年に発生した東日本大震災がきっかけだ。アステリア 広報・IR室 室長 長沼 史宏氏によると「パッケージソフトメーカーである当社の場合、クリエイティビティが求められるITエンジニアは創業時からテレワークを実践していたが、営業部門や管理部門では定時出社が義務化されていた。そうした中、東日本大震災が発生したことで、多くのスタッフが出社できない事態に陥ったため、社長自ら全社的にテレワークの導入を進めてきた」と振り返る。

その後、テレワークの実証実験を定期的に行い、課題を抽出。改善を繰り返し、経営会議や取締役会等もテレワークで対応するまでになった。当初は緊急災害時におけるスタッフの安全確保を目的としてテレワークが行われていたが、現在では業務効率の改善、育児・介護等と仕事を両立できる多様な働き方を実現することを目的にテレワーク制度が定着。

加えて、最高気温が35度以上と予測された日にテレワークを推奨する「猛暑テレワーク」をはじめ、「降雪テレワーク」、「ふるさと帰省テレワーク」等のユニークな制度を企画・実践することで、テレワークの啓蒙活動も積極的に行っている。

アステリア 長沼 史宏氏

ワークスタイルを変革させるテクノロジー

テレワーク特有の「後ろめたさ」を解消

テレワークについて他の企業から相談されることも増えたという長沼氏は「業務内容によってテレワークができない部門は少なからず存在するが、不公平になることを恐れて全社的にテレワークを導入することをためらっている企業が少なくない。この考え方こそがテレワークが普及しない要因の1つ」と指摘する。

Face to Faceでの顧客対応が求められる営業部門などはテレワークがしにくいが、バックオフィス業務は比較的テレワークしやすい。この場合、営業部門の不平不満を抑えるためにテレワークを禁止する企業は少なくないという。

例えば、営業部門では紙資料の出力処理が伴う業務が多く、テレワークでは都合が悪い。テレワークを開始した当時、アステリアでも同様の問題に直面したが、自社開発のモバイルコンテンツ管理ソフト「Handbook」を導入し、この問題を解決した。

「Handbook」はプレゼン資料や画像、音声、動画等、いわゆる電子ファイル全般をクラウド保存し、タブレット端末で閲覧できるソフトウェアで、ファイル管理者が限定されるため、常時最新の資料が閲覧できる。また閲覧可能なデバイスを指定したり、閲覧者ごとに配信設定ができるなど、セキュリティ管理に優れている。長沼氏は「取締役会のような重要会議でも安心して資料を共有できるため、当社のテレワーク制度を支えるソフトウェア」と胸を張る。

また、前述した「猛暑テレワーク」では、同社のソフトウェア「Platio」を使って、社員への通知、会社へのテレワーク報告の仕組みを簡素化させている。早朝5時に気象庁が発表する当日の最高気温予想が35度以上の場合、5時30分に全社員のスマートフォンにプッシュ通知でテレワーク奨励日であることを通知する。ブッシュ通知をタップするとテレワークの申請画面が立ち上がり、もう1度タップするだけで申請が完了する仕組みだ。出社前のあわただしい時間帯に直接電話して上司から許可をもらうという心理的負担を解消する。テレワーク制度、ひいてはワークスタイル変革を成功に導く上でテクノロジーは有用だ。

テレワークで女性スタッフの退職が0に

サテライトオフィス導入もワークスタイル変革に効果

テレワーク実施以来、アステリアでは出産・育児に伴う女性スタッフの退職は0を維持している他、総体的な残業時間も減少。働き方改革として一定の成果が得られたという。長沼氏は「就業者が働き方を選択できるテレワークは介護や子育てと仕事を両立できる施策として非常に有効だが、突き詰めれば多様な人々を受け入れることができ、イノベーション創発が期待できる。人手不足の中で様々な問題を解決してくれるのではないか」と期待をにじませる。

柴田は「働く場所を自由に選択できる執務環境は就業者の満足度を高めることができ、テレワークはその代表例といえるだろう。自宅勤務だけでなく、外部貸しのサテライトオフィス等を利用することで選択肢が増え、ワークスタイルを変革することが可能」と述べている。

ワークスタイルの変化に地方自治体も注視

関係人口の獲得競争にテレワークが寄与する

テレワークをはじめ、企業のワークスタイル変革の機運に地方自治体も関心を持っているようだ。少子化が顕著な地方都市において関係人口を増やす取り組みが進められている中、テレワークによって地方で働ける環境を整備する動きが顕在化している。

アステリアを含めた首都圏23社による「TDMテレワーク実行委員会」では都心の交通渋滞緩和を目的にテレワーク実証実験を2019年夏に実施しているが、この取り組みが地方自治体にも広がりつつあり、2020年は農家を改修した農家民宿を活用したワーケーション、市役所内に新設されたコワーキングスペースなど、地方都市でのテレワーク推進を目指すという。

長沼氏は「様々な企業が地方都市に集い、場合によっては地元企業や行政との連携も期待できる。関係人口をどれだけ取り込めるか地方自治体で競争が始まろうとする中、テレワーク制度は効果的だ」と期待を膨らませている。

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