社内コミュニケーションの課題と原因は?新しい働き方を見据えた解決策と成功事例
企業の経営層や人事および各部門のリーダーなど従業員の働き方改革やパフォーマンス向上に取り組む担当者に向け、多くの企業が抱える社内コミュニケーションの課題やその原因、解決策などを解説する。
企業・職場ではなぜコミュニケーションが必要か
どのような企業・職場であれ、業務に必要なことは随時報告・連絡することが求められてきた。そうしたなか、あえて「コミュニケーションの重要性」がこれまで以上に強調されるようになっているのだろうか。
本稿では社内コミュニケーションの種類とその効果、積極的なコミュニケーションが必要な理由について解説する。
社内コミュニケーションの種類
「コミュニケーション」は以下の4種類に分類される。
- 口頭(言語)コミュニケーション
- 非言語コミュニケーション
- 文章(テキスト)コミュニケーション
- 視覚(ビジュアル)コミュニケーション
次の非言語コミュニケーションや文章で補完されることでさらに効果が高まる。
非言語コミュニケーションは、「ノンバーバルコミュニケーション」とも呼ばれ、身振りやしぐさ・表情などを通じて情報を伝える。意図的なものもあれば、無意識に行われるものもあり、特に相手の気持ちや考えを理解する際に役立つ。
文章によるコミュニケーション(テキストコミュニケーション)は、手書き・パソコン/スマホ・印刷物で文字や数字の情報を伝えるもので、メールやチャットなどがその典型的な例である。言語・非言語コミュニケーションとは異なり、客観的な情報として記録することができる。
画像(ビジュアル)コミュニケーションは、写真・絵画・図解・動画などの視覚情報を用いて情報を伝達するものである。ビジネスではプレゼンテーションの場でよく使われ、文章や口頭コミュニケーションを補完するのに有効だ。人によって認識の異なる抽象的な事柄を共通認識に落とし込むのにも便利な方法だ。
これらのコミュニケーション方法は、それぞれが特徴を持ち、相互に補完し合うことで、職場での情報伝達と理解を効果的に行うことが可能である。
コミュニケーションを取ることのメリット
コミュニケーションが十分に取れている状態は、企業や職場に多くのメリットをもたらす。
- スムーズな連携を実現し、業務のムラや無駄がなくなることで生産性が向上する
- トラブルやクレームを迅速に共有・対処でき、顧客満足度が向上する
- 発言しやすく意見を聞いてもらえるなど、従業員満足度が向上する
- 人間関係の悪化や不満を未然に防ぎ、離職を防止する
- チームワークが強化され、プロジェクトの成功や売上の向上などに寄与する
- 信頼関係と精神的な満足感が生まれ、従業員の心身のウェルネスに寄与する
社内コミュニケーション不足がもたらすデメリットと具体例
部署間の情報交換が不足すると、各部署が独自にアイデアを出すだけで、それらを組み合わせて業務に生かすことができなくなってしまう
社内コミュニケーションが不足している職場や企業では具体的にどのようなトラブルや不都合が起こりうるのだろうか?以下に具体的な例を挙げてみるので、自社でこのような状況が起こっていないか検証してみてほしい。
情報共有不足
コミュニケーションが不足すると、部署やチーム・上司と部下の間で情報が共有できず、業務連携が難しくなる。
例):クライアントから営業担当者へ商品紹介記事の一部を修正するようリクエストされていたが、記事を取り扱うマーケティング部門にその修正点がうまく伝わっておらず、最終的に修正されていない記事が掲載されてしまった。その結果、クライアントとの信頼関係が損なわれた。
意志決定の遅延
円滑な意思決定の手順が定められていなかったり、部門間での活発的な会話の機会がなかなか設けられない企業では、関係者間の意見調整に時間がかかったり、判断材料が少なく最終決定が遅れたりする。
例):新製品の発売に関する最終決定が遅れたため、競合他社に先行され、市場での新製品の立ち位置を確保する機会を逸した。
モチベーションの低下
コミュニケーション不足により、従業員はプロジェクトや業務の方針や目標を共有されておらず、努力の方向性が見いだせない、自分の意見や思いが反映されずやる気が出ないといった状態に陥る可能性がある。
例):上司は部下の能力を信用して難しい仕事を任せたが、部下へ期待していることを明確に伝えていなかったため、部下は「冷遇された」と感じて仕事への意欲を失ってしまった。
創造性の低下
部署間の情報共有が停滞すると、各部署が独自にアイデアを出すだけで、それらを組み合わせて業務に生かすことができなくなってしまう。
例):部署間の接点がなかったため、異なる視点からのアイデアを得られず革新的な商品開発ができなかった。結果として市場のニーズに合わない製品が生まれ、競合他社にシェアを奪われてしまった。
チームワークの低下
業務推進にあたり、コミュニケーションが取れておらずトラブルが深刻化。チームワークに悪影響を与える可能性がある。
例):プロジェクトの進行中にタスクの重複が起こったり、責任の所在が不明確になるなど、メンバー間に誤解と不信感が生まれ、結果的にプロジェクト完了が大幅に遅れた。
離職率の増加
例):上司と部下の定期的な面談がなく、部下の不満や要望を聞き入れる機会がなかった。その結果、優秀な人材が他社へ転職。製品開発や営業などの各業務の継続に支障をきたし会社の業績が悪化した。
社内コミュニケーションが低下する原因は?
企業や職場の中でコミュニケーションが低下してしまうとき、そこにはどのような原因があるのだろうか。
コミュニケーションの機会が少ない
そもそも社内にコミュニケーションを取る機会や時間が足りていないことが、コミュニケーション不足の直接的な原因だ。
業務時間内で面談や1on1などが設けられていないことや、近年ではリモートワークの導入により顔を合わせる頻度が減ったことも1つの理由として挙げられる。
上司や経営陣との直接的な対話の機会が少ないと、現場の声が経営陣に届きにくく、逆に経営陣の意向やビジョンが従業員に伝わりにくい。
「ビジョンは十分に伝えている」と思っても、一方通行の情報伝達に留まり双方向のコミュニケーションが不足していれば同様の状況といえる。
情報共有の仕組みが整っていない
モレのない情報共有を行うには、出社の有無に関わらずプロジェクト関係者全員が閲覧可能な記録を残すことが重要だ。
それには「CC:」でメールを送る、チャットツールやWeb上の掲示板で告知するなどの方法があるが、これらのツールや仕組みを導入せず口頭や電話で伝えるだけでは、必要な時に情報が手に入らず業務効率が低下するおそれがある。
社内の雰囲気
社内に、雑談や近況報告といった業務に関わりのない話をしにくい雰囲気があったり、悩みを打ち明ける環境が整っていなかったりすると、不安や不満を抱えた従業員のモチベーション低下や離職を招いてしまうおそれがある。
また、日常の業務で直接関わりのない他部署や従業員との交流がない・少ない企業では、組織全体の結束力が低下し、生産性や意欲の低下にもつながりやすい。
社内コミュニケーションを活性化する5つの改善策
オフィスのレイアウトや設備などをコミュニケーションが生まれやすい形に変えることで、これまでとは違った交流が自然に発生することも多い
ここまでを振り返り、自社の社内コミュニケーションには課題があると判断した場合は、早急に改善に取りかかりたい。
改善には、設備やレイアウト・ツールの導入といったオフィス環境面での改善と、業務内で必然的にコミュニケーションが取れるような運用や人事面での改善があり、両方に目を向けて進める必要がある。
1. コミュニケーションを取りやすいオフィス環境へ改善する
オフィスのレイアウトや設備などをコミュニケーションが生まれやすい形に変えることで、これまでとは違った交流が自然に発生することも多い。
フリーアドレスの導入:従業員ごとの固定席を設けず、その日に空いている席を自由に選んで利用できるオフィススタイルをフリーアドレスと呼ぶ。部署を超えた交流により新しい知見や意見に触れ、社内のコラボレーションや新しい発想の自然発生が期待できる。
ハブスポットの設置:社内外のステークホルダーと交流できるフリースペース「ハブスポット」を設けることで、社内だけでなくクライアントや協力会社とのコミュニケーション活性化が促される。
オンラインミーティングが可能なブースの設置:自宅やサテライトオフィスで仕事をするリモートワークや、その日の業務に合わせて働く場所や時間を自由に選べるABWといったフレキシブルな働き方を導入している企業では、リアルな対面の機会がなくてもちょっとした打ち合わせができるオンラインミーティング用ブースを設置するのも良い方法だ。
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2. 情報共有ツールを活用する
リモートワーク・テレワークの従業員、支社営業所、外回りの社員、顧客や取引先など、対面でやりとりのできない相手同士がスムーズに情報を共有できるツールやグループウェアの導入も欠かせない。
メールでは相手がメールに気づき内容を読んで返信する…というステップでタイムラグが生じるので、口頭や電話の方が早いという意見もある。
そのような場合、会話に近いテンポでやりとりでき、なおかつ指示や質問などがテキストで残せるチャットツールも便利だ。
3. 日常のコミュニケーションスタイルを変える
コミュニケーションをとりやすい社内の雰囲気の醸成には、特別な研修などを行うよりも、日常業務の中でコミュニケーションスタイルを変えていくことの方が有効だ。
アイスブレイクを取り入れる:初対面の相手との商談や打ち合わせにおいて、緊張をほぐしスムーズに本題に入るための雑談をアイスブレイクというが、社内でも、業務の指示や確認・打ち合わせなどをいきなり開始するのではなく「先週の出張はどうだった?」などのアイスブレイクを意識的に取り入れることでコミュニケーションが取りやすくなる可能性がある。
双方向のコミュニケーションを心がける:特に忙しいときは一方的に自分の意見や指示を伝えてしまいがちだが、相手が正しく理解しているのか、疑問や不安はないのかなどを知るためにも、会話のキャッチボールを心がけよう。「~して下さい」ではなく「~してもらえますか?」のように、質問文にすることで双方向の会話につながりやすくなる。
肯定的に発言を受け止める:職場で発言したときに、それに対して否定や拒絶・叱責ばかりが返ってくる職場では、自由闊達な議論どころか、質問や相談すら難しくなってしまう。また業務上のミスがあった際には、早急な報告と前向きな対処が最善の対応だが、否定的な職場では報告をためらってしまい、結果トラブルやクレームの対応が遅れてしまうことにもなりかねない。相手の発言に自身の意見を返す前に「~と考えたのですね」「意見をありがとうございます」など、いったん肯定的に受け止める習慣を身につけよう。
これらのコミュニケーションスタイルは、上司や先輩など立場が上の社員が変わらなければ若手社員から変えていくことは難しい。経営層から率先して変えていくことが重要である。
4. 面談を業務に組み込む
「困ったことがあれば相談に乗る」といわれても、日々の業務に追われる中で面談や1on1を申し出るのには勇気がいる。上司と部下・先輩と後輩・経営層と一般社員などが面談できる時間を業務内に組み込むことで確実にコミュニケーションが取れ、すぐに解決しない場合でも「次回の面談で相談しよう」という安心感が生まれる。
5. 交流が生まれる社内イベントを実施する
フレキシブルワークを導入している企業や、外回りで在席が少ない部署、静かに集中して行う業務が多い部署などでは、日々の業務でコミュニケーションを取りたくても難しい場合がある。そのような場合は、スポーツ大会やサークル活動などのイベントを実施することで日頃の業務を離れたコミュニケーションのきっかけが生まれる。全社的なイベントは他の部署とのつながりを持つ手段としても有効だ。
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コミュニケーション向上に取り組む際の注意点
全員に対して同レベルの交流を求めるのは、積極的なコミュニケーションを苦手とする従業員には逆にストレスを与えてしまうこともある
社内のコミュニケーションを向上しようと考えた際、急速に結果を出そうとするあまり、以下のような点でつまずく可能性もある。人の感情にも関わる部分だけに、ていねいに反応を見ながら進めていきたい。
従業員ごとの受け止め方に配慮する
従業員それぞれのコミュニケーションスキルやコミュニケーション意欲には個人差がある。
業務外の雑談や交流はコミュニケーションを高めるのに有効だが、全員に対して同レベルの交流を求めるのは、積極的なコミュニケーションを苦手とする従業員には逆にストレスを与えてしまうこともあるだろう。
また、部署のメンバーと親しくなったが故に、残業をせず帰りたいのに遠慮して帰れない・反対意見を言いづらい・頼みを断れないといった困りごとが起きていないか観察しておく必要がある。
ツールが活用できているか検証する
交流のツールとして社内SNSやチャットツールを導入している企業もあるが、ツールを導入して放置しておくと、結局一部の従業員しか利用していないというケースも少なくない。
導入にあたっては、アクセス方法や操作を全員が理解できているか、上司や経営層に気を使わず自由に発言できる雰囲気か、定期的にお題やイベントを用意するなど利用をうながす取り組みができているかを検証しよう。
社内のコミュニケーション課題を解決した企業の事例
社内コミュニケーションを企業の成長における重要な課題ととらえ、大きな改革に踏み切る企業も少なくない。ここでは、オフィス移転というソリューションを選択し成功した企業の事例を紹介する。
あらゆる方向のコミュニケーションを実現する新オフィスへ
エイコーは、2022年に東京本社オフィスを「Fo-me」と名付けた新オフィスへ移転した。新オフィスのコンセプトは「360°Communication」とし、それに伴う8つのワークスタイルを策定。
あらゆる壁をなくし、タテ(会社と従業員、上司と部下)・ヨコ(他部門や他拠点)・ナナメ(従業員同士)で人・情報が繋がるようにコミュニケーションの活性化や従業員の快適性まで考慮したオフィスデザインが策定された。
オフィスの中央に設置された「むすぶスペース」は各従業員が使用するOA機器などを集め、人と人を“結ぶ”コミュニケーションエリアとして機能する。1on1向けのモニター席やオンライン会議・営業に対応した個室ブースなど多彩な執務席を整備し、雑談など“ナナメ”のコミュニケーションを育むために広大なカフェスペース「PRATTO CAFÉ(ぷらっとカフェ)」も開設した。
分散したオフィスの統合が一体感とコミュニケーションを生む
京都電子計算は、事業の発展にともなう社員増と旧本社オフィスの老朽化により、2022年に新オフィスへ統合移転。
新本社は4フロアで構築され、「コミュニケーション」をコンセプトとする5階は、事務机を排し本格的なカフェを備えたオープンスペースと社内用ミーティングルームで構成。屋外キャンプをイメージした打ち合わせスペースなども備えており、仕事・休憩・打ち合わせなど、様々な用途に対応する。
旧オフィスの課題であった「労働環境の改善」や「人材採用の安定化」、そして「コミュニケーションの低下」を解決し、新たな時代の働き方を実践できる執務環境の整備に成功した。
コミュニケーション課題の解決には専門家の支援も有効
自社の社内コミュニケーションが十分なものであるかどうかは、他社との比較が以外に難しく、課題の特定や改善方法がすぐに見えてこないことがある。本記事を参考に検証し、課題があればあらゆる面での改善方法を見つけてほしい。
自社のコミュニケーション向上に取り組む上で方法論やゴール設定などの疑問があれば、オフィス移転専門家のコンサルティングを受けるのも効果的な方法だ。
JLLはオフィスに関する幅広いソリューションを提供し、豊富な実績を持つ。社内コミュニケーションの課題をオフィス構築の面から改善するなら、ぜひJLLのサポートを検討していただきたい。