サービスアパートメントとは?ホテルと賃貸住宅の長所を兼備
コロナ禍以降、急速に存在感を高めているサービスアパートメント。家具・キッチン・洗濯機・乾燥機を常備し、長期旅行者の連泊ニーズに対応するなど、一般的なホテルとは異なる特徴を持つ。もともとは賃貸住宅タイプが主流だったが、インバウンドの急回復などを受け、旅館業免許を取得するホテルタイプが増加している。
本稿では、コロナ禍を経て注目度が急上昇したホテルカテゴリー「サービスアパートメント」について解説します。なお、JLLではサービスアパートメントに関するマーケットレポート作成をはじめ、ホテル投資・運営を支援する多彩なサービスを一気通貫で提供しています。ご興味ありましたら、下記の関連情報を合わせてご覧ください。
目次
コロナ禍を受けて国内高級ホテルがサービスアパートメントサービスを提供
コロナ禍を受けて、帝国ホテルやホテルニューオータニなどの高級ホテルが新規事業として開始した「長期滞在プラン」が完売続出になったことは記憶に新しい。
ホテルのリソースを活用し、旅館業法下で行う「ホテル内サービスアパートメント」という新たな住まい方を提案。いわゆる“ホテル住まい”を値ごろな料金で体験できることから人気を博したことで、サービスアパートメントの認知度向上に寄与することになった。
サービスアパートメントとは?
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サービスアパートメントとは、一般的にホテルのようにフロントサービスが整備された高級賃貸住宅を指しており、利用者はホテルと賃貸住宅双方のメリットを享受できる
近年、ホテルカテゴリーの多様化が進んでおり、フルサービスホテルもラグジュアリー(5つ星)やアップスケール(4つ星)、ミッドスケール(3つ星)に分けられる他、いわゆるビジネスホテルの代表される宿泊特化型ホテルもエコノミーホテル、バジェットホテル、ライフスタイルホテル、アパートメントホテルなど細分化が進んでいる。
また、有名ホテルのブランド名を関したブランデッドレジデンスといった新機軸も登場、にわかに注目を集め始めている。
このように、コンセプトや客層などが異なる多種多様なホテルが存在するなか、サービスアパートメントとは、一般的にホテルのようにフロントサービスが整備された高級賃貸住宅と定義されることが多く、利用者はホテルと賃貸住宅双方のメリットを享受できることが最大の特徴といえるだろう。
主な運営事業者
主な運営事業者として外資系ではシンガポールに本社を置くアスコットやオークウッドが挙げられる他、国内事業者では「MIMARU」ブランドを運営する大和ハウス工業グループのコスモスホテルマネジメントをはじめとし、新規参入を検討する事業者が増えている。
主な利用者層
サービスアパートメントの主な利用者は海外本社から日本へ派遣され中長期に滞在する外国人ビジネスマンや外国大使館関係者などの、いわゆる“エクスパット”となる。
国内需要では研修やプロジェクト単位でのビジネス利用、個人富裕層や企業オーナーのセカンドハウス利用、MICE・大学・研究所の需要などの国内需要も見込めるが、現状日本におけるサービスアパートメントの需要地…特に高価格帯となる賃貸住宅タイプのサービスアパートメントは外資系企業の本社や外国大使館が集積する東京以外では市場形成は難しいとされている。
ホテルタイプ、賃貸住宅タイプに分けられる
画像提供:PIXTA
日本のホテル市場を調査しているJLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 シニアヴァイスプレジデント 中村 健太郎は「法的な基準は存在しないため、サービスアパートメントの定義は曖昧」と前置きしながらも、共通する特徴として「家具・キッチン・洗濯機・乾燥機が各室に常備されている」ことを前提条件とし「ホテルタイプと賃貸住宅タイプ、2つに分けられる」と定義付ける。
ホテルタイプ
旅館業免許を取得し、宿泊約款によって1泊の宿泊も受け入れるキッチン・ランドリー付きのホテルとして位置付けられる。インバウンドの増加などを受けて、その数を増やしている。
賃貸住宅タイプ
従前型のサービスアパートメント。1カ月以上の滞在客用の客室清掃、リネン交換サービス付きの賃貸住宅として位置づけられる。一般的な賃貸住宅と同様に、利用者は賃貸借契約を締結する必要があり、ホテルタイプよりも利用者を制限する。なお、ウィークリーマンションは含めない。
ホテルとサービスアパートメントの違い
サービスアパートメントとホテルの違いは主に以下の3つが考えらえる。
1. ランドリー機能の有無
サービスアパートメントとホテルの主な共通点は「フロントサービス」や「飲食スペース」が整備されている点や、家具付きの居住スペースを提供する点は共通しているが、前述した通り、サービスアパートメントは各居室にランドリー機能を備えているのがホテルとの大きな違いになる。
「長期旅行者にとって居室に専用ランドリーが常備されていることは長期旅行者にとっては大きな付加価値になっている」(中村)
2. 利用サービスの頻度
利用可能なサービスはホテルとは若干異なる。フロントサービスには大きな差がないが、ホテルの室内清掃サービスは基本デイリー対応だが、サービスアパートメントは週1-2回の提供が中心。リネン交換も同様の頻度となる。
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3. 旅館業免許の有無
ホテルとの最大の違いは旅館業免許の有無になる。旅館業免許がないサービスアパートメントは一般的な賃貸住宅と同様に利用者は賃貸借契約を締結した上で施設を利用することになる。半面、旅館業免許を有しているサービスアパートメントはホテル同様に宿泊約款に基づいて施設を利用できる。
近年は東京へ訪れる観光客が増えており、ホテル需要が見込めるため、賃貸住宅タイプの運営事業者が積極的に旅館業免許を取得している。
一般的な賃貸住宅とサービスアパートメントの違い
賃貸住宅、サービスアパートメント共に賃貸借契約を締結するのが一般的だが、サービスアパートメントは最短1カ月から数年単位での長期契約まで対応する一方、賃貸住宅は2年契約が一般的となる。
また、一般的な賃貸住宅は家具・家電などは自前で用意し、光熱費などの諸経費が家賃とは別負担となる。対して、サービスアパートメントは家具・家電などの生活設備があらかじめ備えられており、光熱費などの諸経費も家賃に含まれることが多い。加えて、クリーニングやリネンの交換、朝食サービス、ジム利用など、ホテルのような付帯サービスを提供するケースも少なくない。
アパートメントホテルとサービスアパートメントの違い
アパートメントホテルとは、各部屋に家具やキッチン、洗濯機・乾燥機を常備し、建築基準法・消防法上でホテルに位置付けられる施設となる。中長期の滞在を想定した生活関連の設備を豊富に取り揃えている点で、サービスアパートメントとアパートメントホテルには共通点が多い。
しかし、最大の違いはアパートメントホテルが旅館業免許を有するホテルと位置付けられる半面、サービスアパートメントは一般的に賃貸借契約を締結する“賃貸住宅” であることだろう(ただし、前述したように近年は旅館業免許を取得するサービスアパートメント・ブランドも登場している)。
サービスアパートメントの供給状況
図1:東京都のサービスアパートメントのユニット数の推移 出所:JLL日本
JLL日本の調査(図1)によると、東京におけるサービスアパートメントの部屋数はリーマンショックや東日本大震災などのネガティブインパクトが発生した翌年あたりに微減するが、長期的にみると増加傾向が続いている。
しかし、セグメント別にみるとホテルタイプが成長を牽引しており、賃貸住宅タイプはあまり増えていないのが実情だ。
中村は「賃貸住宅タイプは大規模再開発・複合施設開発において、オフィスに付随する利便性向上、容積割増などのボーナスを得ることなどを目的に開発されるケースが多い」とし、今後収益目的で賃貸住宅タイプのサービスアパートメント開発は一定程度にとどまると予想。半面、ホテルタイプのサービスアパートメントは今後も新規供給が増え、東京以外の地方都市へ波及していく可能性が見込まれており、新たな投資対象になりそうだ。
※本コラムで引用した各種データについて、より詳細な説明をご希望の方はこちらの問合せフォームからご連絡ください。
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