日本の不動産投資市場をけん引する大阪(関西) - 2024年の商業用不動産投資額は過去最多、初の1兆円超え
2024年の投資額が過去最高額の1兆円を超えるなど、国内不動産投資市場において最も活況を呈した大阪圏。高い投資パフォーマンスで海外投資家を惹きつけ、インバウンド人気でホテル投資も群を抜く。本稿では多角的なデータ分析のもと、大阪圏投資市場の活況の理由を紐解いた。
はじめに
2024年の大阪圏の商業用不動産投資額は、JLLのデータ観測開始(2008年)以来の最高額を更新、初の1兆円超えとなった。日本はグローバルで最も不動産投資が活発な市場の一つであるが、大阪(関西)市場が日本全体をけん引しているといっても過言ではない。本項では、なぜ大阪圏の投資額が飛躍的に増加したのか、今後もこの傾向が続くのかについて考察する。
日本の商業用不動産投資額の動向
図1は日本の商業用不動産投資額の推移を示したものである。2024年の投資額は前年比63%増の5.5兆円となった。2015年以来9年ぶりに5兆円を超えコロナ禍以降で最大の投資額であった。
図1 ※土地の取引、開発計画への投資などを除く 出所:JLL
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図2-①~④はこの活況な日本市場において「どこで・誰が・何に」投資したのかを示したものである。
エリア別(グラフ2-①)をみると、2024年に最も多く投資がなされたエリアは首都圏56%、次いで大阪圏で22%となっている。首都圏と大阪圏で78%を占め、2024年の日本の不動産投資は東京、大阪を擁する首都圏、大阪圏という大都市圏中心に行われた。
過去との違いは大都市圏が投資の中心であることは変わらないものの、2014年(過去最多取引額)以降、首都圏の割合の低下が進行している。2014年の首都圏の割合79%に対して、2024年は56%にまで大幅に低下している。
属性別1(図2-②)をみると、投資家(Jリート除く)33%、次いでデベロッパー・ゼネコン32%、Jリート23%であった。これらのプレーヤーが投資のメインプレーヤーであることはこれまでも、そして今後も変わらないだろう。
属性別2(図2-③)は、国内投資家と海外投資家の取得割合を示している。2014年と2023-2024年の海外投資家の割合は17%と変わっていない。しかし、2015-2022年は24%の高水準で大阪圏に限ってみれば29%と全体の約1/3を海外投資家が占めている。2023-2024年はグローバルで進行する金利上昇をはじめとする不動産を取り巻く外部環境の変化への対応を余儀なくされ、海外投資家の新たな投資が抑制されたが、日本の不動産に対して大半の海外投資家の見方がマイナスに転じたわけではない。
こうした背景もあって、2024年を振り返れば、海外投資家が優良な売り物件を市場に出し、国内投資家が積極的な買い手として取得にいたるケースが散見した。
セクター別(図2-④)をみると、オフィス36%、物流施設24%、ホテル19%が上位3セクターとなった。商業用不動産投資として最も伝統的、典型的であるオフィスの割合が最も高い。しかし、2014年のオフィスの割合は55%に対して2024年は36%に低下している。この背景は海外のオフィスマーケットの停滞が長期化する中で、海外投資家がオフィスセクターへの慎重姿勢を強め、取得そのものを抑制したことに起因している。
物流施設については2010年代後半から高機能大型施設の需要拡大が続いており、投資市場においても依然として人気を集めている。
そして、3番目のホテルは近年急速に存在感を高めている。既にインバウンド需要はコロナ禍以前からの回復ステージを経てさらなる拡大ステージにあり、投資家の関心度は極めて高い。
以上をまとめると「日本の投資市場は国内投資家が首都圏、関西圏のオフィス、物流施設、ホテルを積極的に取得している」となる。次項では、こうした中で際立って活況な大阪(関西)について解説する。
図2-①、② 出所:JLL
図2-③、④ 出所:JLL
大阪圏の商業用不動産投資額の動向
大阪圏の投資市場動向については首都圏と対比しながら考察する。
図3-①、②は大阪圏と首都圏の商業用不動産投資額の推移を示したものである。大阪圏の2024年の投資額はJLLのデータ観測開始(2008年)以来の最高額を更新、前年比107%増の1.2兆円となった。初の1兆円超えである。
日本はグローバルでも東京一極集中型の投資市場と認識されているため、東京が属する首都圏の投資額が突出して多いことは自明だ。
注目すべき点は大阪圏の伸びである。全国の投資額が過去最多の5.6兆円であった2014年、首都圏の投資額は約8割を占める4兆円超であった。一方、大阪圏は首都圏の1割にも満たない4,000億円にとどまっていた。
しかし、2024年では首都圏が2014年比で-32%の3.0兆円に対して、大阪圏は同年比+120%の1.2兆円となった。つまり、不動産投資市場でみれば、10年前の大阪圏の市場規模は首都圏の1割程度に過ぎなかったが2024年では首都圏の三分の一程度までに拡大したことになる。こうした事実が大阪圏の市場拡大が日本の市場拡大をけん引しているという最大の理由である。
図3-①、②(大阪圏:大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、東京圏:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県) ※土地の取引、開発計画への投資などを除く 出所:JLL
では、この大阪圏への投資額が飛躍的に増加した理由と、その原動力とは何か。首都圏と比較した大阪圏固有の要因を考察する。
要因1:海外投資家
海外投資家による安定的で厚みのある買い需要は比肩するものがない大阪圏固有の強みである。
図4-①、②は大阪圏と首都圏の海外投資家と国内投資家の割合を示したものである。2014-2024年(①②の左横軸)の大阪圏における海外投資家の割合は28%であるのに対して首都圏は19%となっている。10年以上の長期間に渡って大阪圏が9ポイント高いのは、海外投資家が首都圏よりも大阪圏を相対的に好む傾向があるといって差し支えないだろう。2023-2024年は海外投資家が新たな投資を控える傾向にあり、格差は縮小しているものの依然として大阪圏の方が高い。
海外投資家が大阪圏を好む理由としては、第一に高い投資パフォーマンスが挙げられる。大局的にはバブル経済崩壊後に加速度的に進展した東京一極集中による大阪を含む地方都市の地盤沈下(ハイリスク市場)を国内投資家が長期に渡って払拭できずに投資機会を逸していた。その間に海外投資家は中立的にリスクに見合う利回りで投資を積み上げ、大きなリターンを得た。こうした背景から海外投資家の間で大阪圏が高いパフォーマンスの得られる市場だと認知され、海外投資家の投資割合が伝統的に高くなっている。
第二にインバウンド需要の強さが挙げられる。海外投資家によるインバウンド需要の強さをポジティブに受け止める意識は明らかに国内投資家を上回っている。これは1つに関西全域に広がる観光資源の豊富さ、加えて大阪・関西万博やIR誘致計画など目に見える材料をポジティブに評価する意識が国内投資家よりも高い。
近年、こうした海外投資家の大阪圏のポジティブな見方は拡大の一途である。先行して投資を行ってきた欧米勢のみならずアジア勢にまで波及。特にアジア勢においてはグローバルに展開する機関投資家から個人富裕層にいたるまで投資家の裾野が拡大し続けている。このトレンドはさらに広がることはあっても後退することはないだろう。
図4-①、② 出所:JLL
ホテルセクター
大阪圏投資市場のけん引役としてホテルセクターは無視できない大きな強みである。
図5は大阪圏と首都圏のセクター別の割合を示したものである。2014-2024年の大阪圏のホテルセクターの割合は16%、首都圏は6%となっている。インバウンドブームは“爆買い”という言葉が誕生した2015年頃が先駆けとなった。大阪ミナミは爆買いの聖地としてインバウンド需要の受け皿となり、以後、大阪ミナミから市内、府内全域、さらに大阪圏全域がインバウンドを魅了する日本屈指の観光スポットとなった。
こうした背景から大阪圏のホテルセクターの割合は10年以上の長期間に渡って首都圏よりも10ポイント高い。この大阪圏のホテルセクターの強さは現在も色褪せない。コロナ禍が一巡して本格的にインバウンド需要が回復した2023年は大阪圏の全セクターに占めるホテルセクターの割合は28%(首都圏8%)、インバウンド需要が回復から成長、拡大に転じた2024年では34%(首都圏10%)にまで高まっている。
このトレンドは一過性のものではなく今後も継続する。短期的には間もなく開催となる大阪・関西万博がインバウンド需要のみならず多くの日本人観光客を呼び込む後押しとなろう。また、2030年に向けたIR計画も進展することを踏まえれば、大阪圏のホテルセクターの強みは不動で東京(首都圏)を凌駕し続けるだろう。
図5-①、②(大阪圏:大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、東京圏:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県) 出所:JLL
投資機会
大阪圏の投資市場の行方
大阪圏への投資家の投資意欲は2024年秋にJLLが実施したアンケート結果や筆者に面談を求めて来阪する国内外の投資家の数・頻度をみれば、ポジティブであることは何ら変わらない。
むしろ、大阪圏へ新たに投資機会を求める投資家の増加や、大阪圏のエリア・物件特性を知り尽くしているが故に過度に慎重になって投資機会を逸してきた在阪の投資家も大阪圏への見方をポジティブに見直す動きも増えており、大阪圏がホットマーケットであり続けることを確信させられる。
ただし、大阪圏の商業用不動産投資額が今後どうなるかという点については、現実的な見方をせざるを得ない。図3-①大阪圏を補足すると、2025年の投資額は激減することが予想される。
投資額が積み上がるためには市場に売り物件がなくてはならない。こうした現実を踏まえると、2024年をもって超大型物件(取引価格300億円超)の売り物件に出尽くし感があることは否めない。大阪圏では投資が抑制されても致し方ないコロナ禍(2020-2021年)も大型物件の取引が活発に行われていた。しかし、2022年は旺盛な投資意欲は何ら変わらないにもかかわらず投資額が激減した。当時を振り返れば、超大型、大型の売り物件が枯渇した状況であった。2025年はこれに近い状況にならざるを得ないだろう。
当面、大阪圏の投資市場の需給バランスは、需要(買い)が旺盛な状況であるのに対して供給(売り)が極端に少ない状況が続く。こうした状況下では買い手と売り手の価格目線のミスマッチが拡大する。その結果、取引が減少するわけだが、買い手と売り手のどちらがより価格目線を合わせにいくかというと、買い手の買い上がりが進む可能性が高いだろう。
最後に
本稿では大阪圏の投資市場について取り上げた。近年、都心部では価格が右上がりでさらに上昇率の高さに歯止めがかからない様相とも言える。しかしながら、不動産の価値が稼ぐ力で決定付けられるのであれば、価格の上昇は概ね妥当であり、決して過熱、バブルといった状況にはない。2024年は「グラングリーン大阪」に代表される大規模再開によって梅田、大阪の街を大きく変貌した。そして、2025年4月13日から大阪・関西万博が開催され、これまで以上に大阪の魅力、ポテンシャルが国内外に知られることになるだろう。
大阪圏投資市場のさらなる活性化が期待される。
連絡先 山口 武
JLL日本 関西支社 リサーチディレクターあなたの投資の目標は何ですか?
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