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物流不動産市場の現状と未来

Eコマース市場の拡大により物流業界では、物流センターや倉庫などの物流施設、いわゆる物流不動産への注目度が高まっている。変化の激しい市場動向を予測し、迅速に先手を打っていくことが重要となる物流不動産について解説する。

2020年 11月 12日

物流不動産の定義と移り変わり

物流不動産とは?

物流不動産とは、物流に関わる業務を行うための賃貸型物流施設のことを指す。物流施設にはテナントの特殊な要望に合わせた専用施設を開発する BTS型施設 、デベロッパーが開発した賃貸タイプの 先進大型物流施設 等が挙げられる。従前は保管を事業とする保管型の物流施設が主流であったが、コスト削減やサプライチェーン最適化等のニーズに対応し、保管以外の付加価値をつけた配送型物流施設へと移行が進んだ。昨今では、様々なニーズに対応できる賃貸型物流施設 = 物流不動産が増加傾向にある。(国土交通省:物流不動産参照)
 

需要高まる物流不動産の背景とこれからへの期待

2025年までにアジア太平洋地域での物流取引量が500億-600億米ドルまでに達すると予想されている物流不動産市場のニーズを読み解き、適応していくことが重要

Eコマース市場が急成長したことから、物流施設への投資が盛んになっている。背景として、コロナ禍での新しい生活様式へのアップデートで、実店舗に行くよりもインターネットで簡単に必要なモノを手に入れるという消費行動の変化が大きく影響しているということはいうまでもない。JLLの記事「2022年の国内不動産投資市場」によると、物流市場で取引価格が100億円以上の大型案件が増えていることから、投資家からの期待も高まっており、ここ数年で不動産投資の主要セクターにまで成長しているという。また、JLLの「物流の未来」に関するインサイト動画では、アジア太平洋地域での物流取引量は2025年までに500億-600億米ドルまでに達すると言及されている。さらなる成長が期待される物流不動産のこれからをリードしていくには、先を読み、多様なニーズに適応していくこと必要不可欠となる。

物流不動産市場を理解する上で、ESG、人間中心デザインという2つのポイントが欠かせない

物流不動産市場を理解する上で、ESG(環境・社会・ガバナンス / Environment・Governance・Social)、人間中心デザインという2つのポイントが欠かせない。1つ目のESGは、世界の二酸化炭素の排出量のうち、建設・建築がその約39%を占めていることから責任ある持続可能な不動産が今求められており、物流不動産のオーナーや投資家はESG投資で重要な指標となるGRESBの評価を向上させるなど、サステナブル化の重要性が高まっている。2つ目は、物流業界の課題である人手不足を解決する鍵となる、労働者の職場環境改善に直結した人間中心デザインだ。これには、従業員のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な健やかさ)を構築していくことが肝心であり、優秀な人材の獲得にも繋がりやすくなる。これらのポイントを重要視することで、長期的な視点での物流不動産市場の繁栄に寄与してくるだろう。

東京ロジスティックマーケットサマリーによる物流不動産の市場動向

需要と供給の推移

出所:JLL

物流施設の賃貸市場の需要と供給

JLLが発表した2020年第2四半期の東京ロジスティックマーケットサマリーでは、第2四半期にオンライン小売業、3PL企業等による旺盛な需要が持続し、大型の新規供給を吸収したことから、ネットアブゾープション(吸収需要)は406,000㎡となり、上半期までで1,397,000㎡と半期では2019年上半期の値を超え、過去最大となった。

一方、2020年上半期の東京圏の新規供給は15棟1,371,000㎡(第1四半期:982,000㎡、第2四半期:389,000㎡)となった。物流賃貸市場に詳しいJLL日本 リサーチ事業部 谷口 学によると「四半期ベースで新規供給が50万㎡を超えるのは珍しく、過去平均と比べても供給量は急拡大している」と指摘。にもかかわらず 第2四半期の東京圏物流賃貸市場の空室率は0.6%、前期比0.1ポイ ント、前年比2.7ポイント低下し、4四半期連続で過去最低を更新となった。谷口によると「第1四半期に竣工した物流施設はベイエリアに比べて需要が低いとされる内陸部の立地であっても半年以内の満室稼働となっている。2017年-2018年頃だと同様の立地条件だと1年以上も空室が続くケースもあった」といい、コロナ禍にあっても需要はさらに底堅い様子だ。

賃料と価格

第2四半期末時点の東京圏の賃料は月額坪当たり4,350円となり6四半期ぶりの下落を示した。前述した通り、需要が堅調でありながら賃料が下落した理由は新規供給物件が相体的に賃料の低い内陸部に集中したためだ。谷口によると「ベイエリアと内陸エリアの賃料水準は坪当たり1,000円程度見込まれる」といい、内陸部で新規供給が急増する現在のマーケットならでは特異な状況といえそうだ。

その結果、投資市場では第2四半期末時点の東京圏の価格は前期比0.3%の下落、前年比1.7%の上昇となった。賃料水準の下落を反映した形だが、価格の上昇傾向に変化はなく投資市場への影響は微々たるもので、投資利回りは3.8%を目安に変動はなかった。

物流不動産の今後の見通し

賃貸市場では、需要は堅調となると予想されることから、 賃料は比較的安定的に推移する見通しである。新規供給量が1,000,000㎡を超えた2016年当時も大量供給と危惧されたが、その2倍以上の供給が見込まれる2020年は、一部の内陸エリアは賃料下押し圧力を受ける可能性があるものの、谷口は「旺盛な需要に支えられて総体的に堅調に推移するだろう」と予想する。一方、投資市場では、投資家の関心の高さを背景に、投資利回りは一層の低下余地があるとみる。谷口は「物流不動産は1棟あたり100億円以上の投資額となり、巨額の資金運用を志向する海外投資家や機関投資家の投資戦略に合致している。またオフィスに比べて高利回りが狙えるため、オフィス主体の投資家も物流不動産市場へ参入している。そして、新型コロナの影響で先行き不透明な他アセットに比べて、eコマース需要が堅調な物流不動産には機関投資家が物流ファンド等への間接投資を始めている」とし、価格はこれを反映して緩やかに上昇するとの見通しを立てる。

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安定感と伸びしろのある物流投資

関心度が高まる物流への投資

JLLが不動産投資家等を対象に「新型コロナウイルスによる不動産市場への影響」についてオンラインで実施したアンケート調査によると、今後の投資戦略で関心を寄せる先として、物流がオフィス、レジデンシャルに次ぐ17.0%を占めた。物流不動産への関心が高まっているのは、テナントとの契約形態が長期であることや、Eコマース需要が増加していることから、将来にわたり安定した収益が見込めることが背景にある。

物流不動産で進む自動化が床需要を底上げ

賃貸型物流施設の課題の1つとして人手不足が挙げられる。トラックドライバーや物流施設の作業員の不足は、需要が拡大する物流業界の最重要課題となっている。これに対して、東京圏の物流業界ではロボットやAIを活用し、倉庫内業務の自動化を進めている。谷口は「施設内の感染防止策としてコロナ禍が自動化を後押しする要因にもなる」と指摘。一方、自動化が進むことで、築古施設からの拡張移転需要も滲み出している。谷口は「自動化設備を導入するため膨大な電気容量、自動ロボットが走行しやすい床環境などを確保する必要がある。加えて、賃料に比べて圧倒的にコスト高となる自動化は、より巨大な施設で導入したほうが費用対効果を見込める。自動化を目的に拡張移転の需要が高まっている」と説明する。テクノロジーを活用した物流不動産ならではの課題解決への取り組みはこれまで以上に加速し、物流不動産に対するテナント需要を喚起しそうだ。物流不動産のこれからに期待したい。

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