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2022年の国内不動産投資市場

2022年に入り、再びコロナ感染者数が急増し始める中、日本の不動産投資市場は今後どのような推移を辿るのか。オフィス、物流施設、商業施設、賃貸住宅の4セクターに焦点を当て、2021年の振り返りと2022年の動向を予測した。

2022年 02月 17日

昨年末、一旦は収まりかけた新型コロナウイルスがここへきて変異株の流行で再び規制が強化されるなど、時間が巻き戻っている感が強い。しかしながらオミクロン株は重症化リスクが少なく、従来株と比べて弱毒化しているとされ、着実に「ウィズコロナ」へと舵を切っているといえよう。諸外国が厳しい規制をすることで世界的に不動産投資市場が落ち込んでいた2020年も含め、国内不動産投資市場の投資額は大きく変化しておらず、早くから「ウィズコロナ」の様相を呈していた。本稿では2021年の不動産投資市場のおさらいと、2022年はどのような状況になっていくか、セクター別に予想してみたい。

2021年の不動産投資市場

2021年の国内不動産投資額は約4兆5,000億円、2020年を2%ほど下回る結果となった。一方で諸外国と比較して新型コロナウイルス感染拡大局面にあっても大きく取引高が下落してはおらず、日本は世界でも類をみない「持ちこたえられた」市場であったといえよう。セクター別ではオフィスが全体の45%を占め、2020年に伸長した物流施設と賃貸住宅への投資はひと段落といった様相だ。これは電通本社ビルの売却をはじめとする大型のオフィス取引が一因ではあるものの、純粋にオフィスの取引量が2020年と比べて増加しており、復活を印象付けている。立地別ではオフィス集積地である東京都心5区の投資割合が増加、首都圏(一都三県)の占有率は70%弱と、こちらはコロナ以前からあまり変化がなく、投資家の首都圏指向は引き続き高い。

オフィス

前述のとおり、昨年はオフィスの取引高が増加したことで再び「不動産投資市場における主役」に返り咲いたといえよう。むろん一般事業会社の手元流動性を高める意味での売却も多く、必ずしも「完全復活」とは言えない側面もあるが、2020年と比較して明らかにオフィスへの投資熱は高まっているといえる。その理由の一つとして、新型コロナウイルス感染拡大が落ち着きをみせ、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が発出されている間でもオフィス出勤者が増加していることが挙げられる。コロナ前と同様、オフィスでのコミュニケーションを重視する経営者が多く、リモートワークは制度としては継続するもののオフィスでの業務を基本線にする会社が引き続き多くみられている。中にはオフィス回帰にあたって、ソーシャルディスタンスに配慮して増床するテナントも出てくるなど、光明は見えつつある。こうした中、特に中規模ビル(Bグレードビル)はオフィス投資の主軸であり、テナント需要が底堅いと考えられることから、2022年は一層オフィス投資が増加する可能性がある。

一方で2023年には複数のAグレードビルが竣工を控えている。Aグレードビルは基準階面積が大きく、リモートワーク実施率が高い上場企業を中心としたテナント構成であるため、1企業あたりの床需要は従前より限定されることが予想される。そのため、リースアップ期間の長期化と、それに伴う既存AグレードビルからBグレードビルへの二次、三次空室が懸念される。社会全体が「ウィズコロナ」に実質的に舵を切り始める中、全体的にオフィス需要は回復していくものと考えられるが、特に大型ビルの動向には注視する必要があると考える。

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物流施設
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2020年はいわゆる「巣ごもり需要」の高まりで追い風にのったEコマースを中心としたテナント需要が一段と伸びた物流市場だったが、2021年に入ってもその勢いは衰えていない。大型の物流施設が竣工してもEコマースやサードパーティーロジスティクス(3PL)などが続々と床を押さえるなど、この先数年にわたる記録的な新規大量供給においてもほぼすべてが埋まっており、需要が減退する兆しは少なくとも現時点では一切見られない。そうした需要の高まり受け、新規供給がなされるたびに賃料が上がるエリアも多数確認できる。

投資家サイドも物流施設が長期に安定した賃料収入が見込めること、取引価格が100億円を超える大型案件が多く、まとまった投資資金を投入できることで、かねてより人気の高い投資セクターであったが、ここへきて新規参入も相次ぎ、2020年は投資比率でオフィスに肉薄するなど、完全に不動産投資の主役へと成長したといえる。

一方で新規プレーヤーの相次ぐ参入により投資適格物件が枯渇、価格が高止まりし、著しい利回りの低下が過去数年みられている。物流施設への投資熱は今後も続いていく可能性が極めて高いため、投資する際に難しい判断を迫られるケースが一層増加しよう。また最近は価格が高止まりする完成物件への投資から、より多くの利益を享受できるとされる開発へと軸足を移す投資家も少なくない。ただしその流れのなかで開発用地が高騰しており、賃料の高騰も招く結果となろう。旺盛な需要を背景に賃料の上昇は続いているものの、急激な賃料上昇にテナントがついて来られるかは未知数な部分も多く、こちらも難しい判断が迫られる可能性がある。

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商業施設

長引くコロナ禍に人々が慣れ、また弱毒化も進んでいるとされることで徐々に街に人が戻り始めている印象がある。それに伴い売り上げが持ち直してきた商業施設。なかでも好調なのはスーパーマーケットである。日本スーパーマーケット協会の調査で、2021年通年の売上比で毎月15-20%増を記録しており、新型コロナウイルス感染拡大以降、「近所のスーパーで買い物をする」という消費行動が「新しい生活様式」として広く受け入れられたといえよう。また郊外型のショッピングモールにも徐々に買い物客が戻ってきており、商業におけるコロナからの回復はいわゆる「ネイバーフッド型」商業施設から始まっていると考えられる。投資家はこうした動きをいち早くつかんでおり、最近ではネイバーフッド型商業施設へ投資を再開する動きも見られるようになってきている。こうした需要の高まりは郊外の住宅地周辺の鉄道駅などの人出とも連動しており、今後もしばらく続くものと考えられる。

郊外型と比べて若干回復が遅れていた都心商業だが、ここへきて高価格帯の貴金属などの売れ行きが回復してきているとされる。一方で主要な都心部の商業地周辺の鉄道駅の歩行者数は引き続きコロナ前の水準には至っておらず、来店客も引き続き限定的と考えられる。弱毒化しているといわれるが、人々のマインドセットはいまだ警戒モードが続いており、都心商業の復活には行政による規制解除・一部緩和が求められよう。

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賃貸住宅

昨年以降、物流とともに不動産投資市場を支えた立役者が賃貸住宅だった。衣食住のひとつを支える重要なインフラであることはもとより、高い稼働率からもたらされる安定したキャッシュフローは、とりわけ国内外のコア系投資家にとって極めて魅力的な投資先として認知されている。「オール賃貸」の集合住宅がみられるのは日本を置いて他になく、その意味からも特に海外投資家からの投資意欲は他のセクターと比べても極めて高いものがある。新規供給が極めて限定的である半面、需要が極めて高い都心部を中心に、首都圏や関西圏では2018年以来賃料が緩やかに上昇カーブを描いており、安定したキャッシュフローを享受しながら一定のアップサイドも見込めるという、極めて優良な投資先として認知が進んでいる。

そうした国内外からの人気は物件の枯渇化や価格の高騰を招いており、都心部に所在する一部の築浅物件においては、Bグレードビルを下回る利回りになるなど、高値での取引が続いている。またリモートワークが進んだなかで、立地や間取りに対する嗜好に変化がみられる。立地面では特に都心と郊外の間にあるエリア、東京でいえば23区郊外など、間取りでは1DK、1LDKなどの部屋数の少ない物件が相対的にリーシングに苦戦しているようだ。

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投資家はこうした需要の変化にも目を光らせて投資を進めることが今年は求められる。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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