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堅調に推移する関西圏物流賃貸市場の今後の行方

Eコマースの普及・拡大に伴い、物流施設に対する需給が逼迫することで賃料水準が上昇傾向にあった関西圏物流賃貸市場。この活況はいつまで続くのか。2020年第1四半期の状況を振り返ると、幾つかの不確定要素もありながら、当該市場は引き続き堅調に推移すると予測される。

2020年 07月 03日
“新型コロナ”以前を振り返る

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2020年第1四半期末時点の関西圏物流賃貸市場(関西地方で2000年以降に竣工した延床面積50,000㎡以上の賃貸物流施設が調査対象)全体の賃料水準は月額坪あたり3,867円、前年比1.0%上昇した。空室率は新規大量供給の影響で20%超を記録した2018年第1四半期から継続して低下しており2.9%。引き続き堅調に推移している。EC関連の大口需要の他、地場の物流会社が増床を重ね、わずか1年で賃借床を1.5倍-2倍程度に増強する動きが見られるなど、需要は順調に拡大傾向が続いている。

関西圏の物流賃貸市場は、大きくは大阪湾沿岸部にあたる「ベイエリア」と大阪府・北摂エリアを中心とする「内陸エリア」とで形成されている。それに加え、近年、新たに賃貸市場が形成された「神戸内陸エリア」がその存在感を強めている。関西圏物流賃貸市場の黎明期には、大阪湾沿岸部に集積していた重厚長大企業が生産機能を海外へ移転させたことに伴い、もともと存在していた工場・生産設備等が物流拠点へと次々と建て替えられていった。

一方、内陸エリアについては、まとまった土地を大手家電・大手製薬メーカーや、地元の製造業等が保有し生産活動を継続しており、ベイエリアに比べて物流施設の新規供給は限定的であった。しかし、新名神高速道路の開発の進捗と足並みを揃える様に、2015年頃から徐々に新規開発が増え始め、サブマーケットとして大きく成長することになる。

各エリアの特徴としては、「ベイエリア」は基幹物流インフラである港湾関連施設を使用する、輸出入貨物に関連する需要が多く、「内陸エリア」は名神高速道路・新名神高速道路等の高速交通網の利用に至便であることから、国内へのトラック輸送を中心とする貨物に関連する需要が高く、上手くテナントの棲み分けがなされているといえる。
 

2020年第1四半期 関西圏物流賃貸市場の新規供給量と空室率

新規大量供給で2015年から空室率上昇

2015年から2017年にかけて空室率が著しく上昇したのは新規供給が重なり、新規需要が供給を大幅に下回った影響だ。なかでも2017年の新規供給量は過去最高の1,020,000㎡を記録した。特に湾岸エリアでは、2016年6月竣工「アイミッションズパーク堺」を皮切りに、2016年11月竣工「レッドウッド南港ディストリビューションセンター1」、さらに2017年4月竣工「ロジポート堺西」など、延床面積100,000㎡を超える大規模物流施設が次々と供給されたことで、空室率が一気に上昇した。半面、同時期に内陸エリアで竣工した新規供給物件は、当該エリアでの新規供給が極めて限定的であった影響もあり、満床で竣工を迎えている。

両エリアの賃料水準を比較すると、土地の価格差という動かしがたい要因に加え、内陸エリアには競合物件がそもそも少ないという事情はあるものの、内陸エリアとベイエリアの賃料水準は月額坪あたり平均300円-500円ほど差があり、内陸エリアが大幅に高い水準を維持している。

一方、直近の新規供給物件は順調にテナントが決定している。例えば、2019年3月に竣工した「SBS大阪南港物流センター」は空室が見られず、2019年5月竣工「メープルツリー神戸物流センター」は前述の「神戸内陸エリア」に新たに供給されたが、すでに満床稼働となった。また、2020年1月に竣工した「枚方Ⅱロジスティクスセンター」は順調に成約が進んでおり、早々に満床稼働となるだろう。

また、来年度に竣工を予定している物件の引き合いも好調だ。筆者の調査では2021年度に竣工予定の「内陸エリア」の物件のうち複数物件では既に入居テナントが決定、あるいは決まりつつあり、市場関係者の多くが「竣工前の満床」を予想している。このように、来年度に竣工する新規開発物件で順調に床が消化されていることから、今後数年は内陸エリアで「モノ不足」感は解消されず、今後、内陸エリアのテナント需要がベイエリアに滲み出し、関西圏の物流賃貸市場全体を底上げしてゆくであろう。

今後も堅調を維持

以上が本稿執筆時(2020年4月末)の状況であり、多くの市場関係者が関西圏物流賃貸市場は、引き続き堅調に推移すると見ている。

その要因はいくつかあるが、最大の理由はEコマースのさらなる需要増だろう。感染拡大を防ぐための外出自粛要請を受けてのEコマース利用者の増加によって、物流施設のさらなる床需要が喚起されることが予想される。

また、関西圏の既存の物流施設は比較的、築年が経過したものが多く、建物の耐震性や遵法性を意識する荷主が増えていることから潜在的な移転需要を継続的に見込むことができる。この場合、オーナーが建物を建て替えるケースも考えられるが、資本的体力がなければ売却を検討する可能性が高いと考えるのが通常であろう。

この受け皿として機能してきた投資家の顔ぶれであるが、これまでは外資系が中心であり、市場に参入する投資家数は他のアセットタイプに比べて少なかった。現在は、国内の総合不動産デベロッパーのみならず、商社や、住宅系・オフィスビル系の投資家など、国内外からあらゆる種類の投資家が参入し、積極的に開発用地を探索している。

加えて、今回のような世界的な「非常事態」や各国の輸出規制を受けて、日本企業が生産活動を日本国内に回帰させる可能性も考えられる。その場合、サプライチェーン全体を再構築することになり、工場と共に倉庫需要も増加すると予想する市場関係者も少なくない。

人手不足が賃貸需要拡大のネックに

一方、物流賃貸市場における懸念材料としては、例えば、配送ドライバーの人手不足などが挙げられる。Eコマースの利用者は増加の一途を辿るが、人手不足とされる配送ドライバーを確保できなければ貨物全体の取扱量が増えず、賃貸市場も拡大していかない。

そして物流施設で働く労働力をいかに確保するかも喫緊の課題となっている。物流業界全体では、倉庫内作業をロボット等の活用により自動化に切り替える向きもあるが、まだ費用対効果がはっきりと見えないとの意見もあり、進展していないのが実情である。ただ、既に一部のメーカー・物流会社が自動化システムを導入し始めており、その行方次第では業界全体での自動化の流れが一気に進む可能性も考えられる。

(著者:JLL日本 関西支社 マーケッツ事業部 シニアディレクター 菅野 智孝)

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