BTS型施設、需要拡大も一筋縄ではいかないリスクあり
テナントの特殊な要望に合わせた専用施設を開発するBTS(Build To Suit)型施設のニーズが高まっているのだ。ロードサイド型店舗や物流施設に多くみられるが、研究開発施設や企業の営業拠点、地方都市の大型オフィスまで、その需要は多岐にわたる。
テナント好みの建物を提供
土地保有者が開発に伴う費用を負担し、テナントが希望する仕様で建物を建設する。そのままテナントが長期間賃借するのがBTSだ。入居期間は10年以上と長く、その間テナントが支払う賃料で土地保有者は開発費を回収するのが大前提となる。建物はテナントの自主管理が多く、その場合、土地保有者は一時的に開発費を負担するものの建物管理の煩わしさがなく、長期安定した収益が見込める。JLL日本 マーケッツ事業部 山田剛によると「平屋建てであったり、天井高を10mにしたり、無柱空間にしたり、法令の範囲内であればテナントの必要要件に合わせた施設を提供してもらえるフレキシブルさがBTS最大の特長」と説明する。賃貸において、研究開発施設のような特殊性の高い用途の建物は非常に限られており、自ら土地を取得し、建物を建設することも選択肢として考える必要がある。しかし、希望する立地において希望する価格で土地を購入できない、あるいは不動産を取得するための長期借入を敬遠する企業等が賃借(BTS含む)を選択するケースが多いという。ただし、BTSは定期借家契約が基本となり、契約変更時にはなんらかのペナルティが発生するので注意が必要だ。
低金利がBTS増加に拍車
一方、JLL日本 マーケッツ事業部 小久保誠は「資金調達しやすい低金利もBTSが増える1つの要因」だと指摘する。土地保有者が資金調達しにくい状況ならばテナントから建設協力金を借り受けて賃貸建物を建設することになり、賃料と建設協力金(+利息)の返済額を相殺していたが、現在のような低金利下では土地保有者が金融機関の融資を受けて開発することが多い。小久保によると「かつては地主かリース会社ぐらいしかBTSに対応しておらず『知る人ぞ知る』存在だったが、資金調達が容易な現在、大手デベロッパーや物流系デベロッパーがBTSを提案するようになり、認知度が急速に高まっているように見受けられる」という。
賃料をどのように決めるかはオーナーの考えも踏まえてケースバイケースだが、基本的に土地保有者が投じた開発費を賃貸借期間で回収する。これに加えて土地保有者が想定する開発者利益などを積算して賃料が決定される。小久保は「賃貸借契約満了後にテナントが退去する場合、次の借り手が見つけられそうもない特殊な仕様の建物なら解体が前提。賃料に解体費用分を上乗せされる」と付け加えた。
建築費高騰で賃料も想定以上
テナントが希望する「一点物」の施設を求めてBTSに対するニーズは拡大しているが、実際に成約に至るケースは意外に少ないという。その理由について山田は「テナントが想定する予算と現実が大きく乖離している」ことが原因だと指摘する。
前述した通り、BTSは土地保有者が開発資金を拠出し、テナントが賃料を支払うことで投資回収することになるが、この賃料はマーケットの相場よりも高くなるケースが大半だ。一方、多くのテナントは賃料相場が形成されている既存施設を基に予算を組むため、BTSと既存施設の賃料相場を比較することになる。しかし、BTSは床荷重や天井高、柱間隔の変更を伴う特殊仕様ゆえに一般的な建物よりも建築費はかかる。山田は「そもそも建築費が高止まりしている現在、同じ仕様なら新築の建物のほうが建築費は高くつく。おのずと賃料も高く設定されることになるが、クライアントの多くは近隣の賃料相場と同等の賃料でBTS型施設が借りられると誤解しており、希望する建物仕様から算出した現実的な予算組みが必要」と注意を促している。
BTSは開発用地が見つからないと正確な建物の仕様が決められない。事前の予算組みの段階で希望する仕様の決定とコストの算出に時間をかけないと、最終的な条件が確定するまでには相当の時間を要する。山田は「計画から建物の竣工までおおよそ3年程度は必要。好条件のBTS用地を何年も探し続けて『漂流する』テナントは決して少なくない」と指摘。最終的に妥協して既存施設に入居するテナントもいるが、使い方によっては効率性が悪く、改装費を含めるとコストが高い物件を借りることにもなりうる。
トラブルの原因は開発費
BTSは設計施工でゼネコンへ依頼するケースも多いが、当初の見積もりを大幅に超過した条件となる可能性があることも想定しておくべきだろう。テナントは「こんなはずではない」と言いながらも選択肢がなく、やむを得ず契約することになることが多い。山田は「肌感覚だがBTSの過半数は条件設定で多かれ少なかれ問題が生じる」との認識だ。
1つの対策としては一連の計画を監理するプロジェクトマネジャーを起用する方法がある。JLLの場合、クライアント側に立ち、コスト、品質および工程をモニタリングしながら開発プロジェクトを取りまとめる開発・プロジェクト事業部が監理を行うため、こうした心配とは無縁だが、どちらにせよコスト超過というリスクを顕在化させないような対策を事前に考えておく必要がありそうだ。