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オフィスで猫や犬と一緒に働く企業が増加?ペットフレンドリーオフィスを実現するための注意点

欧米ではオフィスにペットを受け入れる企業が増えているそうです。心が癒され、コミュニケーションも活性化するなど、良いこと尽くめとのこと。しかし、世界的に「ペット可」の賃貸オフィスは皆無というのが現実…果たしてペットフレンドリーなオフィスは実現可能なのでしょうか?数少ない日本での成功事例を考察しました。

2024年 04月 26日

本稿はJLLグローバルが発表した記事「Why more companies are opening office doors to dogs」を抄訳したものに、日本の状況などを加筆しました。

コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされたオフィスワーカーが孤独感を埋めるべく犬や猫といったペットを飼育するようになりましたが、オフィス回帰が進むなかで、オフィスにペット(特に犬)を連れていきたい従業員のニーズに応え、ペットをオフィスに受け入れる欧米企業が目立ってきたとのことです。一方、日本では犬ではなく猫をオフィスで飼育するケースが見られますが、欧米企業に比べてそのムーブメントはまだまだ少数派といえそうです。

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コロナ禍でのペット飼育ブームがオフィスへ波及

在宅勤務からオフィス勤務への揺り戻しのなかで、自宅に子犬だけを放置しておくわけにはいかず、オフィスでペットを受け入れる体制づくりが求められるようになったのです

米国ではペットと“同伴出勤”できる企業が増えているそうです。具体的にはSalesforceやUber、Googleといった誰もが知るグローバル企業が飼い犬などのペットをオフィスに迎え入れているといいます。

背景にあるのは、コロナ禍で勃興した空前のペットブームといわれています。

オフィスにペットを受け入れる機運はコロナ以前から見られていましたが、ごく一部の企業に限られていました。しかし、コロナ禍によってオフィスが閉鎖され、在宅勤務を余儀なくされたワーカーが閉塞感や孤独感を解消するために子犬を飼育するようになりました…いわゆる「Lockdown puppies(ロックダウンの子犬)」です。

しかし、ポストコロナを迎える現在、在宅勤務からオフィス勤務への揺り戻しのなかで、自宅に子犬だけを放置しておくわけにはいかず、オフィスでペットを受け入れる体制づくりが求められるようになったのです。

JLLがグローバルで実施したアンケート調査(英語版のみ)によると、従業員は1週間のうち平均3.1日をオフィスで過ごしていることがわかりました。ポストコロナ時代、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワーク制は、オフィス回帰を推進するための取り組みとして多くの企業が採用しており、そうした流れのなかで顕在化していった「オフィスでペットと働きたい」というワーカーの期待に応えています。

欧米では犬が人気

米国動物虐待防止協会(ASPCA:The American Society for the Prevention of Cruelty to Animals)の調査によると、米国ではコロナ禍において犬や猫の飼育を始める世帯が急増していることが明らかになりました。実に5世帯に1世帯にあたり、2019年の米国国勢調査に基づく米国の約2,300万世帯に相当するといいます。

一方、欧州委員会でもEU機関の施設内における犬の同伴政策についての議論を開始したと一部メディアが報じています。JLL ピープル・エクスペリエンス マネージングディレクターを務めるエマ・ヘンドリーは「職場環境の魅力向上、オフィス回帰を促す施策として、ペットをオフィスに受け入れるかどうかを真剣に議論するべき時期に来ています」と力を込めます。

 “ペットに優しい”ということは、企業にとって従業員との関係性を深め、1週間当たりのオフィス出社日数を増やす絶好の機会となる可能性があるのです」(ヘンドリー)

企業と従業員双方にメリットがある

画像提供:PIXTA

机の下に犬が寝そべっていたり、デスクトップの上で猫がくつろいでいる姿を見て、同僚たちとペットの話題で盛り上がり、他部署の従業員との新たなコミュニケーションを生み出す可能性があります

オフィスがペットを受け入れてくれるのであれば、飼い主(従業員)は安心して働くことができるでしょう。

ペットを自宅に“ひとりきり”にしておくことに不安を抱き、遠隔カメラでペットの様子を逐一確認したくなる欲求や精神的負担の解消、ペットシッターを雇用するためのコスト負担も回避できます。

そして、オフィスにペットを受け入れるメリットは飼い主のみが享受するだけではありません。ハーバード・ビジネス・レビュー、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、シンガポール国立大学による共同研究において、ペットがより快適で社交的な職場環境を作り出すことに貢献しているなど、 企業にとって福利厚生を補強するメリットが見込めるとの研究結果が出ています。

「机の下に犬が寝そべっていたり、デスクトップの上で猫がくつろいでいる姿を見て、同僚たちとペットの話題で盛り上がり、これまで接点のなかった他部署の従業員との新たなコミュニケーションを生み出す可能性がありますし、なによりペットと過ごすことで癒しを得て、ストレスレベルが改善されることが証明されています」(ヘンドリー)
 

すべての従業員がペット好きなわけではない

しかし、すべての従業員がオフィス内を闊歩するペットを“愛らしい”と感じるわけではありません。何より、テナント企業にとっては「ペットとの同居」が認められている賃貸用オフィスビルが市場にほぼ存在しないため、多くの企業ではオフィスへのペット同伴出勤を全面禁止にしているのが実情です。

「もちろん、好き嫌いのみならず『ペットによって集中力が阻害される』といった至極まっとうな意見もあります。ペット好きではない同僚、特に動物アレルギーを持つ同僚に配慮しなくてはならないでしょう」(ヘンドリー)

中小企業のほうがペット受け入れを進めやすい

「ペットフレンドリー」を実践しているのは、やはり大手企業が目立ちます。大手企業は福利厚生の一環でペットフレンドリーなオフィス環境を整備できるコスト負担力がありますが、ヘンドリーは「いわゆる中小企業のほうがオフィスに飼い犬を迎え入れやすい」との見解を示しています。

例えば、スタートアップ界隈では創業メンバーがオフィスで飼育している犬や猫を企業のマスコットキャラクターとして広報活動に組み込んでいる事例がみられますが、大手企業に比べて、中小・スタートアップ企業のほうが株主などのステークホルダーが限られているので、迅速に意思決定することができるため、大手企業よりも実現可能性が高いといえるのです。

とはいえ、重要なのは、事業規模や従業員数に関係なく、ワクチン接種の証明書を提示するなど、オフィスにペットを受け入れるためのポリシーを正しく設定することではないでしょうか。

「ペットをオフィスに受け入れている欧米企業の多くは従業員に許可を与える前に、受け入れ体制を評価するための“試用期間”を設けており、『スリー・ストライクでアウト』といったルールを設定した企業の話も耳にしたことがあります。一方、欧州のある大手企業ではプロの動物トレーナーにペットの行動を事前評価してもらい、一定水準を満たさないと“オフィス出社”が許可されません」(ヘンドリー)

ハイブリッドワークではペットの出社数を管理すべき

ハイブリッドワーク制度が普及拡大する中、例えば出社人数の過密感を回避するため、出社予約システムを導入する欧米企業が増えているといい、当然、“出勤”するペットの数も念頭に置いておく必要があります。

ヘンドリーは「多くのペットが出勤し、オフィスが大混乱しないためには、出社予約システムにペットを組み込む必要性が今後増えてくるのでは」と予想します。

ポストコロナを迎え、在宅勤務の拡大に一区切りがついたと思われますが、ペットの飼育ブームはいまだピークに達する兆しが見えず、企業はこの「ペット出勤問題」に今後も対応し続けなくてはいけないようです。

「コロナ禍は終息に向かっていますが、多くの飼い主(従業員)はペットと共に過ごせる環境が一生続くものだと期待しています。したがって、より多くの企業がオフィス戦略にペットに関する様々な方針を追加する必要がありそうです」(ヘンドリー)

オフィスで猫を飼育する日本の中小・ベンチャー企業

画像提供:PIXTA

ここまでは欧米企業の状況について紐解いていきました。欧米では特に犬をオフィスに受け入れるケースが多いように見受けられます。一方、日本企業の状況はどうでしょうか?

大手企業では、富士通が川崎市のオフィスビルに開設した犬と一緒に勤務できる「Dog Office」や、「カルカン」などのペットフードで知られるマース ジャパンのペットフレンドリーオフィスなどが有名なところです。

一方、インターネットで検索するとペットとオフィスで働くことができる中小・ベンチャー企業がいくつか見つかりましたが、猫を飼育する様子が目立ちます。

コーポレートサイトやSNSではオフィスで猫と“働いている”様子が紹介され、ウェブニュースも相当数が取り上げています。飼育している猫を“社員”扱いしたマスコットキャラクター戦略を展開したり、飼育猫に関する社内制度を充実させ、業務時間内にもかかわらずオフィスで猫を放し飼いにしている様子を発信したり、人材採用サイトで「猫と働くことができる」ことを売りにしているケースも見られます。

こうした情報をまとめると、オフィスで猫と働くメリットは主に以下の理由が挙げられます。

  • オフィス内を気ままに闊歩する猫の姿を見るだけで心が和む

  • 猫の話題を通じて、従業員同士のコミュニケーションが円滑になる

  • 業務上のトラブルや意見の対立によってオフィス内が殺伐とした雰囲気になっても、猫のおかげで空気が緩む

  • 「猫と働ける会社」というブランディングで企業認知度を高めることで人材採用に活かせる
賃貸オフィスでのペット受け入れは容易ではない

このようにペットと共にオフィスで働くことに様々なメリットがありそうですが、日本では大きな課題が存在します。それは館内規則などで「ペット可」の賃貸オフィスが皆無なことでしょう。

自社保有のオフィスならばペットを飼うのは自由ですが、賃貸オフィスだと話は別もの。ビルオーナー・管理会社にとってビル管理上、ペット(猫)はありがたくない存在のようで、下記のようなリスクを想定されています。
 

  • タイルカーペットや壁面などを引っ掻く

  • 他のテナントに対する衛生・騒音問題

  • 共用部で他テナントと遭遇することによる風評悪化

  • 猫アレルギー(猫嫌い)の入居者が退去していく可能性
     
オフィスで猫の飼育が可能になった事例は少ないながらも存在する

画像提供:PIXTA

では、前述したベンチャー企業のようにオフィスで猫の飼育が可能になった事例が存在するのはなぜなのでしょうか?

オフィスで猫を飼育している日本のベンチャー企業を取材したことがある某雑誌記者は「コロナ以前の話」と前置きしますが、「ビルオーナーが猫好きで、エレベーターなどの動線が他のテナントと異なるといった条件が揃っており、なおかつ管理会社が想定するリスク要因をすべて解消したため」と説明してくれました。特に「リスク要因を解消する」ことは「オフィスで猫を飼育」したいテナントにとっては参考になるのではないでしょうか?

主なリスク要因として挙げられるのが「他のテナントに迷惑をかける」ことです。入居希望者からオーナーサイドへその対応策を提示する必要があるでしょう。

例えば、エレベーターや1階エントランスといった共用部に猫が立ち入れないように、専有部内に開設した飼育スペースのみで飼育することを提案したり、共用部を移動する際は専用ゲージやキャリーバックに入れて移動したり、猫の飼育数を定め、毛色や体格、呼び名など、飼育する猫のデータをまとめた報告書を提出し、管理しやすいように配慮するなどの対応策が考えられます。

ただし、注意したいのはこうした対応策を提案してもビルオーナーや管理会社から許可を得るのは相当に難しいことと、飼育スペースの造作工事に多額の費用がかかったり、「ペットを受け入れる」という条件によって賃料負担が増すなど、移転前に想定していた予算をオーバーする可能性も十分に考えられることです。

特に、常時オフィスで猫を飼育する場合は、キャットタワーや飼育スペース内で無人警備システムが反応しないように工夫する必要がありますし、夏場に常時空調を稼働させる必要もあるでしょう。そもそもゴールデンウィークや夏季休暇などの長期休暇時にペットの世話をどうするかも課題の1つといえます。

こうした条件を鑑みても「オフィスでペットを飼う」ことに相応のメリットが得られるのかを慎重に検討したいところです。

ペットフレンドリーフロアを備えた賃貸オフィスが登場

一方、「ペットと一緒に働ける」ことを打ち出したセットアップオフィスが2023年9月に竣工し、話題を呼びました。

当該オフィスはペットと共に過ごせる専用フロア「ペットフレンドリーフロア」を整備しています。地下駐車場からエレベーター直結でペット同伴出勤を可能にし、ペットが苦手な在館者のために導線にも配慮した他、散歩などに対応した共用の足洗い場、移動用バギーを完備。また、ペットの足腰への負担を軽減しながら安全に走り回れる床材なども使用しています。

少子高齢化によって人材採用競争が激化する日本において、従業員目線に立った「働き方改革」は必要不可欠です。そのなかで「オフィスでペットと一緒に働く」ことの訴求力は思いの外大きいのかもしれません。

ペットフレンドリーなオフィスは増えていくのでしょうか、今後に注目していきたいと思います。

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