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海外投資家が2023年に注目している4つの不動産セクター

インフレ、金利上昇、地政学的リスクなど、世界経済への逆風が強まる2023年。アジア太平洋地域の不動産投資市場にも大きな影響を及ぼし、2023年の不動産取引額が対前年比で縮小すると予測される。そうした状況下にありながらも海外投資家が注目する4つのセクターが存在する。その1つが日本の賃貸集合住宅だ。

2023年 03月 08日

有望な4つの不動産投資セクター

世界経済の成長が鈍化傾向にあり、不動産投資家は慎重を期し、この逆境を乗り切る可能性が最も高い投資先を模索している。

JLLアジア太平洋地域 チーフ リサーチ オフィサー ロディ・アランは「マクロ経済への逆風は短期のうちに収束するだろう。投資機会を逃さないため、投資家は遠くない未来を見据えて投資体制を整える時機と考えるべき」と指摘している。

そうしたなか、不透明感が漂う不動産投資市場の中、有望な投資先とみなされている不動産投資セクターも存在する。アジア太平洋地域で多くの投資家が注目しているのが次の4つの不動産投資セクターだ。
 

1. 日本:賃貸集合住宅

コロナ禍を受けて上昇が続いていた価格水準がやや横ばいに転じており、利益確定による賃貸集合住宅の売却案件が増加するのでは

投資家の支持を得ている人気セクターの1つは、円安と超低金利に支えられた日本市場だ。中でも、賃貸集合住宅セクターは経済環境に左右されない安定した賃料収益と稼働率を誇り、コロナ禍以降、多くの海外投資家が食指を伸ばす投資先として認知度を高めてきた。そして、直近の取引事例は日本の賃貸集合住宅市場に対する投資意欲の旺盛さを改めて浮き彫りにしている。

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米国の不動産投資・開発会社のHinesは2022月12月、今後3-5年以内に日本で10億米ドルのポートフォリオを形成する投資計画の一環として11棟の賃貸集合住宅を取得した。また、一部報道によると、シンガポールの不動産投資会社であるTE Capital Partnersが東京にある16の賃貸集合住宅物件に1億米ドルを投じたという。

日本の不動産投資市場に詳しいJLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト 谷口 学は「世界的に賃貸集合住宅が多く取引されているが、2022年における日本のセクター別投資額割合でみても、賃貸集合住宅は相対的に低水準にある。そのため2023年はグローバル投資家による日本の賃貸集合住宅への投資が増える余地は大きい。コロナ禍を受けて上昇が続いていた価格水準がやや横ばいに転じており、利益確定による賃貸集合住宅の売却案件が増加するのでは」と期待をにじませる。

JLL日本の記事「人口動態と首都圏における賃貸住宅投資」によると、増え続ける人口による底堅い需要を背景に、首都圏に所在する賃貸住宅は極めて安定した投資先であり続けるとしており、海外投資家からの人気も極めて高い状況だ。

日本の賃貸集合住宅に海外投資家が注目する理由とは?

2. 中国:賃貸集合住宅

JLLの調査によると、上海では9億3,800万米ドル相当の賃貸集合住宅を含む15棟のポートフォリオ取引があり、賃貸集合住宅セクターへの投資額は対前年比で265%増を記録

需要の急激な低下が起こりにくく、安定した利回りを得られる賃貸集合住宅の人気は日本に限った話ではない。中国の賃貸集合住宅セクターに対する投資家の関心も高まっており、特に若い世代をターゲットにした物件が人気を博している。

JLL中国 リサーチディレクター シェリル・シェンは「地元の国有企業は賃貸集合住宅の開発プロジェクトを加速度的に推進しているが、外国人投資家は賃貸集合住宅に用途変更するための既存物件を取得するために地元の投資家・不動産会社と連携する機会を求めている」と説明する。

2022年9月、グローバルなオルタナティブ資産運用会社であるBrookfieldは中国のデベロッパーのGuangzhou R&F PropertiesとKWG Groupから上海・楊浦区のサービスアパートメントを1億8,000万米ドル(12億6,000 万人民元)で取得した。

2023年には賃貸集合住宅の上場REITの運用が始まったことで「賃貸住宅への投資で出口戦略が描きやすくなり、投資活動が活発になっている」(シェン)という。JLLの調査によると、上海では9億3,800万米ドル(65億人民元)相当の賃貸集合住宅を含む15棟のポートフォリオ取引があり、賃貸集合住宅セクターへの投資額は対前年比で265%増を記録した。

3. 中国:物流施設

上海では3PL、eコマース事業者、小売業者などが引き続き物流施設の需要を牽引している一方、電気自動車メーカーなどが新たな牽引役として、物流施設の需要増加を促している

新規供給増やマクロ経済の悪化など、逆風が強まっているにもかかわらず、物流施設の需要は2022年12月にゼロコロナ政策が緩和されてからも全体的に堅調に推移すると予想される。

JLLアジア太平洋地域 リサーチディレクター ピーター・ゲバラは「物流施設はロックダウンによって大きな影響を受けるが、移動制限が緩和されることによってテナントの業務効率・生産性は確実に向上するだろう。国境再開はサプライチェーンの停滞を解消するのみならず、各市場への資本流入を呼び込むことに寄与する」と指摘する。

現状、サプライチェーンに需要が戻るなど、回復の兆しが見えつつある。上海では3PL、eコマース事業者、小売業者などが引き続き物流施設の需要を牽引している一方、電気自動車メーカーなどが新たな牽引役として、物流施設の需要増加を促している

4. オーストラリア:物流施設

オーストラリアの物流施設市場は2023 年に賃料の伸び率ではアジア太平洋地域内でトップになる

2022年第3四半期末時点における オーストラリアの物流施設市場の賃料水準は前年同期比で6.5%上昇した地域が存在し、2023年も引き続き物流施設セクターは堅調に推移するとの見通しだ。ゲバラは「新規供給増のため、空室圧力が高まっているにもかかわらず、床需要は依然として強く、空室率はアジア太平洋地域の物流施設市場全体の平均を下回っている」と説明する。

こうした市況下、ゲバラは「オーストラリアの物流施設市場は2023 年に賃料の伸び率ではアジア太平洋地域内でトップになる」と予想する。シドニーやメルボルンなどの主要な物流施設市場での供給不足と、インフレ圧力を織り込み済みの施設オーナーによる強気のリーシング戦略によって賃料が上昇する可能性が高い。

アジア太平洋地域における2023年の不動産投資市場の行方はどうなるのか。詳細は下記レポートをご覧ください。

アジア太平洋地域における不動産投資市場の2023年版レポートを読む

連絡先 谷口 学

JLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト

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