2025年の不動産業界を取り巻く6つの論点
過度な金利上昇が落ち着き、明るい見通しが立ち始めた世界の不動産市場。2025年はこれまでの停滞から一転、世界的に不動産市場の“復活”が期待されているが、様々な課題が依然として残されている。2025年にグローバルな不動産市場で議論すべき6つの論点と、今後の展望を予測する。
世界の不動産市場は一時的な市況悪化から脱し、2025年に向けて好転の気配が強まっている。しかし、依然として“喫緊の課題”が残っているのも事実である。
2024年の不動産市場を取り巻く論点がいくつか存在する。オフィス回帰に舵を切る企業の急増、不動産に影響を与える気候リスクの拡大、AIブームに対峙する不動産業界の今後、データセンター需要の今後、そしてPEファンドの台頭などが挙げられる。
本稿では、2025 年のグローバルな不動産市場を取り巻く6つの論点について紐解いた。
1. オフィス出勤者の増加がどのような変化をもたらすか?
JLLのグローバル調査レポート「The Future of Work Survey 2024」(英語版)によると、企業で働く従業員の多くでオフィス勤務時間が増加し、平均週 4 日勤務へのシフトが進んでいるという。グローバルレベルで明確に“オフィス回帰”が鮮明になっている。
業務効率性と長期的な事業成長の両方を念頭に置き、オフィス環境の最適化を図ることはCRE(企業不動産)戦略の責任者にとって最優先事項となっており、2025年は最適なオフィススペースを求め、高品質・好立地の優良オフィス床の獲得競争が激化することが予想されている。
JLLグローバル ワークダイナミクス リサーチディレクターを務めるフローレ・ブラデールは「多くの企業は、オフィス勤務日数は今後も増加し続けると考えている。事業成長を最優先に考える経営層は、将来必要となるオフィスの規模・質の重要性を深く理解しており、不動産がその目的を満たし、十分に活用されていることを確認できる方法を確立しており、オフィス投資にためらいがない」と説明する。
例えば、グローバル企業では専任の「ワークプレイス・エクスペリエンス・マネージャー(WXM)」を採用する企業が増えている。JLL の調査に回答したグローバル企業の30%がすでにWXMを配置している。さらに9%の企業が活気ある組織づくりとより良い企業文化の構築を支援するためにWXMの採用を検討していることがわかった。
オフィスのデザインや機能性など、いわゆるハードに対する投資のみならず、グローバル企業はオフィス運営におけるソフト面への投資に注力。こうした取り組みは今後世界的に拡大する可能性が高そうだ。
2. 深刻さが増す気候リスクは不動産業界にどのような影響を及ぼすか?
気候リスク対策は緊急の課題であり、気候変動に対するレジリエンスを高め、混乱時のコストを最小限に抑えることを目指す企業が増えている
熱波、洪水、台風、干ばつなど、異常気象は世界的に増加傾向にあり、投資家とテナント企業の双方に影響を及ぼしている。気候リスクはすでに保険費用の負担増に繋がり、今後数年間は立地選定や不動産鑑定評価、資金調達にも小さくない影響を及ぼすことが予想される。
JLLグローバルが発表した「Future Vision Climate Inflection Point」レポート(英語版)では、気候変動が建築環境に影響を与えるにつれて、不動産業界は適応・行動が必要になると指摘している。特に、施設管理者には適切なBCP計画を確実に実行できる体制づくりと、被害から即時復旧できるレジリエンス(回復力)の向上という2つの課題に対応しなくてはならない。
JLL米国 プロジェクト・開発マネジメント部門 サステナビリティ・ヴァイスプレジデントを務めるジョン・シグペンは「気候リスク対策は緊急の課題であり、気候変動に対するレジリエンスを高め、混乱時のコストを最小限に抑えることを目指す企業が増えている」と説明している。
3. 不動産のバリューアップ戦略が注目を浴びるか?
2025年.グレード、立地、アメニティなどのスペックにおいてで必ずしも“高品質”といえない物件を含め、より広範な不動産セクターに対するバリューアップ投資を行うことに、多くの投資家が自信を深めるようになるだろう。用途変更をふくめた大規模改修工事は、付加価値に重点を置いた不動産投資戦略に多大な利益をもたらす可能性がある。
JLL EMEA(欧州・中東・アフリカ) キャピタルマーケット リサーチ&ストラテジーディレクターを務めるキャメロン・ラムジーは「多くの投資家にとってバリューアップするか、それとも築年相応の廉価で売却するかという決断しなくてはならない。付加価値を求める投資家と企業の事業戦略上の要件の両方を満たす優良なオフィスビルは十分とは言えず、築年が経過したオフィスビルなどをバリューアップする動きがグローバルで拡大する」と予想する。
4. 不動産業界はAIブームに追いつけるか?
AI はスマートビルの開発を後押しし、従業員にとってより魅力的なオフィス環境を提供する
世界的な AI ブームは、不動産業界でより大きな役割を果たすことになりそうだ。JLLグローバル のレポート「Get set for the 5th Industrial Revolution」(英語版)で言及しているように、需要・デザイン・機能・ビジネスモデルがAIによって影響を受けるため、企業は注意を払い続けなくてはならない。
AI やVR/AR(仮想現実/拡張現実)によって“優良な体験”を強化できるオフィス空間の需要が高まる。一方、AI はスマートビルの開発を後押しし、従業員にとってより魅力的なオフィス環境を提供することに繋がる。
また、JLLグローバルのレポート「Prepare yourself for the future of retail」(英語版)によると、VR/ARが進化するにつれてデジタルと物理が融合した“複合的現実空間”が出現すると予想している。
5. データセンターの需要は今後も増加し続けるか?
世界的にデータセンターの市場規模は2020年の1,530億米ドルから2倍以上に拡大し、2026年までに3,170億ドルに達する見通し
2025年、グローバル投資家は投資機会を求めて調査範囲を広げることが予想される。そして、オルタナティブ資産としてデータセンターの存在感はこれまで以上に高まっていくだろう。
2027 年までにデータセンターのキャパシティは 2 倍以上増加すると予想されているが、それでも供給不足だという。JLLの調査では、世界的にデータセンターの市場規模は2020年の1,530億米ドルから2倍以上に拡大し、2026年までに3,170億ドルに達する見通しだ。
現在、データセンター投資は米国が他の追随を許さず、過去 5 年間で 58% のシェアを占めているが、アジア太平洋地域の勢いが加速。同期間における投資シェアは 24% にまで上昇している。
JLLアジア太平洋地域 キャピタルマーケット データセンター・クライアントソリューション ディレクターを務めるセリーナ・チュアは「投資家が引き続きデータセンター市場への新規参入を模索しているため、 2025年以降もデータセンターの物件取引だけでなく、M&Aがさらなる増加を予想している。特に優秀な経営陣を持ちながらリソースが限られている大規模なデータセンター・ポートフォリオがM&Aの主なターゲットになる」と予想している。
6. PEファンドは不動産のM&Aを推進するか?
大規模な投資資金を効率的に運用し、AUMの成長目標の達成を求められているPEファンドにとって、アジア太平洋地域でM&A活動を継続することが必要不可欠な選択肢になっている
借入コストが増加を受けて、投資家の間で新たな資金調達先を見つけなければならないというプレッシャーが高まっている。その結果、世界のPEファンドはM&Aを通じて規模の拡大を目指しているのが現状だ。
JLL インターナショナル・ストラテジック キャピタル グローバルリードのティム・グラハムは「主に北米のPEファンドの大規模な投資資金が、アジア太平洋地域全体のM&A戦略の成長を支えてきた。今後は物流施設やデータセンターなどの産業用不動産セクターで規模を拡大し続けるだろう」と指摘する。
単一施設を取得して徐々にポートフォリオの拡大を図るには、かなりの時間を要する。大規模な投資資金を効率的に運用し、AUMの成長目標の達成を求められているPEファンドにとって、アジア太平洋地域でM&A活動を継続することが必要不可欠な選択肢になっている。
以上、JLLグローバルが考える5つの論点を提示した。2025年の不動産業界を取り巻くグローバルなトレンドがどうなるのか、今後に注目していきたい。