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人口動態と首都圏における賃貸住宅投資

2021年、東京都の人口が史上初めて転出超過となったことで賃貸住宅に対する需要減が危惧されたものの、2022年になると再び転入超過となった。J-REIT等が保有する賃貸住宅の空室率の推移から首都圏における今後の賃貸住宅市場を予測する。

2023年 02月 15日
東京の人口、わずか1年で転入超過へ戻る

総務省から住民基本台帳における人口移動報告が過日発表され、2021年に史上初めて東京都から人口が減少するという「転出超過」となったものの、2022年の東京都全体の人口の動きは転入が43万9,800人余り、転出が40万1,700人前後で、転入が転出を上回る状況にわずか1年で戻った格好だ。

こうした人口の動きは賃貸住宅の需要にも大きく影響を及ぼすことは間違いない。現に2021年のJ-REIT等が保有する首都圏賃貸住宅の空室率は2020年からじわじわと上昇し始め、2021年前半には東京都心3区の空室率が一時5%を記録する状況になっている(図1)。これは上記の人口移動で東京都が転出超過になったことが大きく関係しているといえよう。

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図1:コア不動産ファンド(J-REITおよび非上場不動産ファンド)が保有する賃貸住宅の空室率推移(2012年1月-2022年8月) 出所:不動産証券化協会のデータをもとにJLL作成(2022年5月以降の数値は速報値であり、今後変更される可能性があります)

リモートワークの普及で2021年は東京の人口が転出超過に

コロナ禍において、それまで普通だと思われていた生活様式が一変したといえよう。そのなかに働き方の急激な変化が挙げられる。最初の緊急事態宣言が発出された2020年初旬、街から人が消えたことは記憶に新しい。人々は通勤を見合わせ、自宅などで働くリモートワーク中心の生活となった。それによって都心部の住宅では部屋数が少ない故、仕事をする環境としては好ましくない状況であったといえる。夫婦共働きでリモート会議が同時刻に始まる際、どちらか1人が家の外から、あるいは浴室などから会議に参加せざるを得ないという状況に陥り、働く環境としては劣悪といえよう。

こうした層を中心に、より広い間取りの物件を求めて東京周辺の神奈川、千葉、埼玉へと移転していった結果が、先の調査にあった2021年の転出超過に現れたといえよう。

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2022年、都心3区の賃貸住宅で空室率1%改善

2021年1月をピークに徐々に賃貸住宅の空室率が改善へと向かっており、都心3区では1年半で1%の空室率改善がみられている

翻って2022年、コロナが弱毒化するにつれて企業は従業員をオフィスへ戻す方針へと舵をきった。その際、もはや自宅からのリモートワークは日常ではなくなり、夫婦共働きの場合でもそれぞれが出社日を調整することで、それほど間取りの広くない部屋でもリモート会議に対応できるように変化していった。

その結果、一旦都心を離れ、郊外へ引っ越したワーカーはオフィスワークが復活することで長時間の通勤などが徐々に負担となるようになり、都心部へと再び居を戻すケースが出てきている。その流れは先の空室率にもはっきりと表れており、実は2021年1月をピークに徐々に賃貸住宅の空室率が改善へと向かっており、都心3区では1年半で1%の空室率改善がみられている。
 

人口増を背景に首都圏の賃貸住宅は安定した投資先であり続ける

東京を中心とした首都圏(一都三県)では居住人口が増加しているのである。人口が増加することで賃貸をはじめとした住宅の需要が増加し、空室率が首都圏全体で改善している

では都心部へ戻る層が増えると首都圏郊外部の人口は転出超過となるのだろうか。これは否である。総務省の同調査では神奈川、千葉、埼玉の東京に隣接する三県でも2022年には転入超過が確認されている。つまり東京を中心とした首都圏(一都三県)では居住人口が増加しているのである。人口が増加することで賃貸をはじめとした住宅の需要が増加し、空室率が首都圏全体で改善している。

賃貸住宅の投資において、過去10年間の全投資額のおよそ72%は一都三県で占められているのは、人口が減少するというシナリオが全く想像できなかったためでもある。東京都は1年間の転出超過を経て再び転入超過に転じていることから、今後とも首都圏に所在する賃貸住宅は増え続ける人口による底堅い需要を背景に、極めて安定した投資先であり続けるといえよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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