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世界的な金利上昇局面における国内不動産投資市場の今後

コロナ後の実体経済の持ち直しと共に上昇を続ける長期金利が、不動産投資に極めて大きな影響をもたらしている。世界的に利回りが上昇するなか、日本の優位性が浮き彫りになっている。

2022年 09月 28日
金利上昇が不動産投資に多大な影響

新型コロナウイルス感染拡大局面を経て、多くの国において「コロナ前」の生活に戻りつつある中、金利の上昇局面が際立つようになってきている。アメリカでは新型コロナウイルスが引き続き大きな懸念材料となっていた2021年と比較して実に75ベーシスポイントも上昇している。コロナ後の実体経済の持ち直しとともに上昇を続ける長期金利だが、不動産投資の側面からも極めて大きな影響をもたらすようになっている。

CoC利回りが下落

図1:世界各国の政策金利の変化(2021年 vs 2022年第1四半期) 出所:JLL

急激な金利上昇に伴う借入コストの増大で、多くのマーケットでCoC利回りがインプレイス利回りを下回るという逆転現象が起きている

長期金利が上昇すればその分、不動産ファイナンスの借り入れコストが上昇する。ほとんどの国で借入コストが増加した分、いわゆる「キャッシュオンキャッシュ(CoC)」の利回りが下落することになる。これまで新型コロナウイルス感染拡大局面で傷んだ経済を刺激する意味で金利は低く抑えられていたため、こうしたCoC利回りは極めて高い水準で推移していたが、昨今の急激な金利上昇に伴う借入コストの増大で、多くのマーケットでCoC利回りがインプレイス利回りを下回るという逆転現象が起きている。

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アジア各都市の状況を見てみると、特に韓国(ソウル)ではオフィスのインプレイス利回りが4.1%であるのに対し、借入コストが5.4%まで伸びているため、保守的な借入割合(LTV)にとどめたとしてもCoC利回りが2.2%にまで下落している。つまり物件取得に対して借入をすることで、実際の利回りが下落するという事態にまで発展しているのである。こうした状況はアジアの主要マーケットで共通してみられる事象である。

図2:アジア主要都市におけるCoC利回り(2022年第2四半期現在) 出所:JLL

浮き彫りになる日本の優位性

翻って日本国内を見てみると、大半のアジア主要マーケットはもとより、世界の主要市場と比べてもCoC利回りは極めて高い水準で引き続き推移している。これは日本銀行が現在のマイナス金利政策を当面引き継ぐことを明らかにしていることから、借入コストが世界でも例を見ない低さに抑えられているためである。例えば東京都心5区でインプレイス利回り2.3%のAグレードオフィスを取得する際、50-60%を借入でまかなった場合でのCoC利回りは5%に近い水準を継続しており、世界的に利回りが上昇していくなかで日本の優位性が際立つようになっている。

海外投資家に絶好の投資機会となっている日本

さらに現在、円安の状況下にあることもこうした日本の特異性をさらに際立たせる一要因であることに議論の余地はないだろう。現在は少し落ち着いてきたものの、引き続き1ドル136-137円台(2022年8月時点)で推移しており、2021年初頭と比べて実に3割以上円安になっている。

若干乱暴な言い方にはなるが、現在の為替状況は外貨建てのファンドであれば同じ物件が2021年初頭に比べ3割安く買えることになり、海外投資家においては絶好の物件取得のチャンスであることは疑いの余地はない。ドル円の為替ヘッジリターンを比較しても、2021年10月に0.7%だったが、2022年7月には実に3.8%にまで上昇しており、為替の面からみても日本の不動産市場は極めて優位性があるといえる。

図3:ドル円 為替ヘッジ後のリターン変化 出所:Refinitiv (based upon 1-yr. FX forward)

このように低金利政策によって借入コストを最小限に抑えられること、また為替のヘッジが効くことで日本市場は世界において価格面で極めて大きな競争力があるといえる。こうした投資家にとって極めて魅力的な状況は、日本市場への海外投資家の新規参入を促すこととなり、実際に多くのニューフェイスが続々と国内不動産投資を行うようになっている。

唯一の課題は「出物が少ない」こと

競争相手が増えることで物件取得競争はさらに激化し、結果としてインプレイス利回りのさらなる低下が見られるようになっている。特に、より安定的なセクターとして認知されている物流施設と賃貸住宅において利回りの低下が顕著で、大きな取引があるたびに過去最低利回りを更新するという状況が引き続きみられている。

世界の状況をみるにつけ「日本のマイナス金融政策もそろそろ出口を迎えるのではないか」という見方をする投資家も徐々に出始めている。一方で日本の金利が巻き戻す兆候は現時点においてはみることができず、一部懸念する投資家がいる一方で、それを上回る数の新しい投資家が虎視眈々と日本市場への参入を目論んでいることも事実である。ひとつの投資案件に引き続き多くの投資家から取得希望が出されている状況が今後も続くことから、中期的には国内不動産投資市場は引き続き活発化することが予想される。

一方で課題はそうした買いニーズに十分応えられるだけの投資機会が潤沢に備わっていないことである。2022年第1四半期の総取引高は1兆4,000億円余りと、昨年同期比で約24%下落している。為替レートの変化で買い側はだいぶ「得をする」状況である一方、現在保有している投資家にとってはマイナスに作用するため、特に海外投資家による売却案件が極めて少ない状況である。加えて昨年まで多くみられていた一般事業会社の遊休資産の売却などがひと段落したこともあり、全体的にいわゆる「出物が少ない」状況となっている。

今後は旺盛な買いニーズに対して十分な投資機会を提供できるかが、国内不動産投資市場の今後を左右するものと考えられる。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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