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日本の賃貸集合住宅市場に海外投資家が注目する理由

マンションやアパート等、賃貸向けの集合住宅といえば数ある不動産投資アセットの中で、個人投資家でも手が届きやすい存在としておなじみだが、近年は巨額の運用資金を擁する海外投資家が食指を動かす注目銘柄となっている。新型コロナウイルス感染拡大の影響を感じさせない人気の秘密を紐解いた。

2021年 01月 22日

アジア太平洋地域の投資市場を牽引する日本の賃貸集合住宅

JLLが発表した賃貸集合住宅市場に関するレポートでは、アジア太平洋地域の賃貸集合住宅への投資は2020年上半期で67億米ドル。2019年通期に行われた同セクターへの投資額に近づく等、新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態にも関わらず、好調を維持する不動産投資セクターとして注目されている。

その牽引役となっているのが日本市場だ。アジア太平洋地域の不動産投資市場に詳しいJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二によると「アジア太平洋地域において日本以外の投資市場では賃貸を目的にした集合住宅は外国人向けが大半で、そもそも供給数が少ないのが現状。主要な投資セクターとして確立しているのは日本ぐらい」という。半面、日本市場はアジア太平洋地域の賃貸集合住宅ストックの95%超を有し、米国に次ぐ世界2位の市場規模を誇る。

JLL日本 リサーチ事業部が発表したレポート「ジャパン キャピタル フロー2020年第3四半期」でも日本の賃貸集合住宅市場の活況ぶりが見て取れる。2020年第3四半期末時点の全セクター投資割合では賃貸集合住宅はこれまで10%台を推移していたが、22%に拡大しているのだ。

中でも海外投資家の存在感が際立つ。2020年2月にブラックストーンが中国の保険会社である安邦保険集団から200棟に及ぶ賃貸集合住宅ポートフォリオを買い戻した他、2020年8月、ドイツのアリアンツ・リアル・エステートが日本の賃貸集合住宅18棟に投資するなど、海外投資家の旺盛な投資活動に支えられ、2020年上半期の同セクターに対する投資額は前年同期比で約3倍に膨らんだ。内藤は「直近1年以内に日本の賃貸集合住宅を取得した顔ぶれを見ると、海外投資家が上位を独占した」と説明する。

賃貸集合住宅とは?

「賃貸集合住宅」についてJLLでは50戸以上の個別住宅で構成され、個別賃貸を目的にした住宅不動産と定義しており、個人投資家が多数参入するワンルームマンション区分投資や小規模アパート投資とは一線を画す。「レジデンシャル」と呼ばれる1棟数億円-100億円超の1棟投資を指す。

日本では賃貸集合住宅は不動産投資セクターの中でオフィスと並ぶコアセクターとして長い歴史を誇り、物件数・物件規模など、多彩な投資先を有する。一方、日本以外のアジア太平洋地域内の主要不動産市場では近年注目され始めた新興セクターであり、賃貸集合住宅は学生寮や高齢者向け住宅と共に「リビング・セクター」と呼ばれるオルタナティブ(代替え)な投資先に含まれているのが現状だ。

アジア太平洋地域の賃貸集合住宅市場に関するレポートを見る

 

日本の賃貸集合住宅が人気を博す3つの理由

新型コロナの収束が見通せない中、なぜ日本の賃貸集合住宅への投資活動が活発なのか。内藤は「以前から賃貸集合住宅への投資は活況を呈していたが、コロナ禍でさらに人気が高まった。3つの理由が考えられる」と説明する。

1. 景気に左右されない安定感

JLLがアジア太平洋地域の投資家に向けて実施したアンケート調査では、56%が「2021年末までに日本への投資拡大を計画している」と回答しており、調査対象となった他国と比較しても「増やす」割合が最も多かったのが日本だった。政治リスクの低さ、世界3位の経済規模、コロナ禍という世界的な緊急事態でも確実なリターンを享受できる日本市場を安全な「セーフヘイブン(逃避先)」として海外投資家が注目している。

内藤は「コロナ危機による外出自粛や訪日客の激減などの影響を受けたホテルやリテール、リモートワークの定着によって将来的な需要が読めないオフィスへの投資を控える一方、緊急事態でも居住ニーズが失われない賃貸集合住宅は安定した収益性が見込める投資先として人気が高い」と指摘する。

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2. 投資セクターとしての成熟度

日本の賃貸集合住宅市場は多数の投資可能物件を抱え、投資価格も数億円-100億円超まで裾野が広い。個人投資家から一般事業会社、富裕層、上場REIT、外資ファンド、機関投資家など、様々な属性の投資家が参入できる成熟市場だ。また物件管理会社も全国各地に存在し、保有期間中の施設運営を安心して任せられる点も投資家に支持されている。

3. ドライパウダー(待機資金)の受け皿

新型コロナ感染拡大で世界的に不動産投資に対するリスクが高まる中、安定したリターンを志向するコア系資金がドライパウダーとして積み上がり、新型コロナの影響が比較的軽微な日本が投資先として浮上した。その中でも賃貸集合住宅はコロナ禍でも稼働率・賃料水準共に安定しており、ダウンサイドリスクを嫌うコア系資金の受け皿となったことが賃貸集合住宅の人気を支える一因になった。

「Eコマースの台頭で賃貸集合住宅よりも投資額が伸びている物流不動産は1棟あたりの投資額が100億円を超え、参入できる投資家は限られている。そのため、低リスクでありながら選択肢の多い賃貸集合住宅が脚光を浴びたともいえる」(内藤)

都心の賃貸集合住宅の需要は低下しない

緊急事態宣言が発出されて以降、東京都からの人口流出が増えている中、居住ニーズの低下による賃貸集合住宅への影響もありえそうだが、内藤は「その可能性は極めて低い」との見解だ。

「コロナ禍で多くのオフィスワーカーがリモートワークを経験したが、クライアントや同僚と気軽に対面でコミュニケーションが取れる距離感が重要であることが認識された。都心部から地方都市へ本社機能を移転するようなドラスティックな動きがない限り、都市圏の居住ニーズはなくならない」(内藤)

東京都心3区(千代田区、中央区、港区)の賃貸集合住宅の新規供給割合は23区内でみると3-4%程度に留まる。供給が非常に少ない一方で、コロナ下でも居住希望者は多数存在する。内藤は「需給が逼迫し、賃料のアップサイドを見込む投資家は少なくない」と指摘する。

さらに、これまで投資対象に対する選別が比較的画一的であったが、ウィズコロナ・アフターコロナ時代に向かって、居住ニーズはさらに多様化することが予想され、投資適格物件がこれまで以上に拡大していくのではないだろうか。

コロナ危機に直面したことで賃貸集合住宅市場のリスク耐性が再評価された形だ。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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