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本社移転を成功させた資生堂ジャパンのオフィス戦略とは?

働き方改革を念頭に、オフィス改革に注力する企業が増えているが、それらすべてが成功しているわけではない。内装デザインのみを追求し使い勝手が悪くなったなど、新規オフィスを開設してから初めて問題に気付くケースも少なくない。ではオフィス戦略を成功に導くためには何が必要か。2020年度日経ニューオフィス賞を受賞した資生堂ジャパンの新本社オフィス移転プロジェクトから成功の鍵を紐解いた。

2020年 11月 09日

人材へ投資、オフィス改革に着手

1872年に創業、2019年度の連結売上高1兆円を超え、日本が世界に誇るグローバルカンパニーとして認知される化粧品大手の資生堂。「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、2014年には中長期経営戦略「VISION2020」を発表。重要戦略の1つ「PEOPLE FIRST」に掲げた「人材に投資する」を実践するべくオフィス改革に着手した。

資生堂は新たな働き方を模索する中、まずは理想とするワークスタイルについて検討を重ねる。そのワークスタイルを実現するために、JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部のSWS(ストラテジックワークプレイスソリューション)チームが支援し、グループ全社に通底するオフィスのコンセプト「創造力の交差点」を策定した。 

限られた業務時間の中で最大の価値・成果を生み出すための「働き方改革」と、化粧品を取り扱うビューティーカンパニーにふさわしく、ブランドを表現し、従業員がブランドを感じられるオフィスづくりを志向する。導き出した答えが、自主性を醸成し、コミュニケーションやイノベーション創出に効果が高いABW(Activity Based Working)型オフィス だった。

グループ全体のオフィスコンセプトが確立された後、まずは地方営業所を舞台にオフィスリニューアルを実施。その過程で得られた知見を蓄積し、資生堂ジャパンの移転プロジェクトへ活かしていった。

経営層・従業員へオフィスの課題をヒアリング

ABW型オフィスがベースとなるものの、利用する組織や立地などの諸条件によって求められる機能は大きく異なる。そのため、資生堂ジャパンにとって最適なオフィス環境を構築するためにプログラミング(要求条件整理)を実施。経営層へのビジョンセッションにより移転プロジェクトのゴールを導き出す一方、実際にオフィスで働く従業員へのアンケートやインタビュー調査、オフィス現況調査によって移転前の状況を理解し、そのギャップを明確にすることで課題をまとめ上げた。

その結果、資生堂ジャパンは汐留本社を含めて都内に複数の営業拠点が点在していたため、コミュニケーションがタイムリーに取りにくいことや自社ブランドへの理解不足などの課題を内包していたことが判明。さらなる事業成長のための環境づくりが求められた。 

解決策として営業拠点の統合を検討。移転プロジェクトを指揮した資生堂 ファシリティマネジメント部 部長 下野 勝之氏は「都内の営業拠点には約2,000人が就業しており、従前の汐留本社では収容しきれないことから、移転先を探すことになった」と説明する。2017年より様々な立地戦略等の調査を開始し、最終的に浜松町への統合移転を決定したのである。

4つのビジネスビジョンを取り入れた新本社オフィス 

「SJ-STATION」と命名された新本社オフィスは「ブランド価値向上」、「離合集散」、「ストックからフローへ」、「機能的なオフィス」といった4つのビジネスビジョンを取り入れている。マーケター、商品開発、営業、店頭販売を担うビューティーコンサルタント、バックオフィスまで一体感をもって営業活動に取り組み、「自らマーケットを生み出す」意識を社内で共有できる執務環境にこだわった。 

執務フロアは、ブランドビジネスを意識しつつコミュニケーションが活性化されるレイアウトとした。事業本部単位のフロア配置に合わせてフロア単位でのデザインコンセプトを統一した他、各フロアにフレキシブルに利用できるオープンエリアやミーティングスペースを多く開設し、それらを通路で結ぶ。周辺には多種多様な執務席を配した。これにより必要な時に簡単にコミュニケーションが取れ、集中したい時に集団から離れられる「離合集散」を体現した。 

また、下野氏が「美を売る化粧品会社にふさわしいオフィスを作ることが命題だった」と述べるように、社員全員がブランドビジネスを意識できるように化粧品ブランドを象徴するブランドブースを設けている。加えて、一部フロアに内階段を設けることで回遊性を高め、一体感の醸成を企図した。

他方、オフィス内にデジタルサイネージや大型モニターを多数設置し、タイムリーな情報が入手できる場を実現した他、社員の学びの場として自社・他社製品や関連資料等を保管・展示するプロダクトライブラリー、商品を陳列した際のパッケージデザインを検討するテストエリア、社員が高い美意識を持ち、自身も美しくある場としてアートやトレンド品の展示スペース・ブランドエリア、そして社員同士が繋がり、交わるコミュニケーションの場として2つのカフェテリアなども整備している。

働く環境を従業員自らが選択でき、情報共有が円滑に行われるオフィス環境を整備したが、下野氏は「実現するのに苦労したのが『ストックからフローへ』だった」と振り返る。化粧品ビジネスには販促物や顧客向けのリーフレットが必須となり「モノに溢れているビジネス」(下野氏)であり、個々の従業員がそれらを所有・保管することでオフィスにおける効率性やフレキシビリティが失われていた。

そこで資生堂は販促物や倉庫、車両、書類などの「ゼロ活動」を展開。業務内容などによって働く場所を主体的に選べるABW型オフィスを導入した他、オフィス内には製品や資料などを一括管理・保管し、誰もが利用できるプロダクトライブラリー等を設けることで、従業員のシェアマインドを育む。

固定席や保管庫を極力排したことで「身軽」となったオフィスは「ヒト・モノ・情報が留まっている(ストック)」状態から「ビジネスの舞台で常に動いている(フロー)」状態へと移行した。オフィスは化粧品を売るだけではなく、従業員に「新しいマーケット」を生み出していくという意識改革を促す装置として位置づけられている。

従業員の不安を解消するチェンジマネジメント

一方、実際にオフィスで働く従業員にとっては慣れ親しんだオフィスとは全く異なる環境で働くことになり、心理的な不安が生まれ、拒絶されることも少なくない

そこで、資生堂人事部とファシリティマネジメント部はJLL日本 SWSチームと協働して「チェンジマネジメント」を推進した。「エヴァンジェリスト」と呼ばれるチェンジの推進者(従業員)を各部署から任命し、新しいオフィスの意義や本質を発信させ、従業員に納得して働いてもらうために様々な仕掛けを施した。

JLLは入居前までに従業員向けに様々なワークショップを実施し、新オフィスに関心を持つように働きかけた。入居後には数回にわたってアンケート調査を実施し従業員の満足度を評価する。関心度が低い部署に対して個別にフォローした。

新オフィスのコンセプトづくりを担当したJLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 溝上 裕二は「入居前・後の満足度を6段階で従業員の方々に評価してもらった結果、非常に良い結果が出た。今回の移転プロジェクトの最大の成功要因は資生堂の従業員が自ら変わろうとする意識が高く、チェンジマネジメントがしっかりと機能するように、クライアントが尽力されたことが大きい」と振り返る。

2020年度日経ニューオフィス賞を受賞

労働生産性が先進国の中でも著しく低いとされる日本。人手不足の中、優秀な人材を雇用し、長期安定的に働いてもらう「働き方改革」を推進するためには、従業員が意欲的に働くことができる執務環境を提供する必要がある。資生堂ジャパンの「SJ-STATION」は2020年度日経ニューオフィス賞 ニューオフィス推進賞を受賞するなど、「働き方改革」を念頭においたオフィス改革のモデルケースともいえるだろう。

今後JLLは資生堂のプロジェクトチームと協働で、汐留グローバル本社のオフィスリニューアルを推進していく。溝上は「今回の移転プロジェクトで得られた様々な学びを糧に、JLLの各専門チームと連携して、今以上に素晴らしいオフィス環境を提供していきたい」と抱負を語っている。

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