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【JLLも導入】オフィスアートが従業員エンゲージメントに寄与する理由

従業員や来訪客とのコミュニケーション活性化をはじめ、知的好奇心が刺激されるなど、オフィスにアートを導入する企業が増えつつあるようです。「オフィスアート」はオフィス回帰を促すための施策としても注目されています。オフィスアートに詳しい専門家に導入メリット、注目される理由などを聞きました。

2025年 01月 29日

近年、オフィスに「アート(絵画やオブジェなどの芸術作品)」を導入する企業が増えているそうです。

アートを身近に触れることで感性が刺激され、新規ビジネスのアイデアが生まれたかと思えば、アートを媒介にコミュニケーションが活性化。さらに、近年ではオフィスワーカーとアーティストが一緒に作品作りを行う「共創アート」の人気が急上昇、社内の一体感や帰属意識の醸成にも寄与しているとか。

様々な導入メリットが得られるオフィスアート。2022年11月に統合移転したJLLの東京本社オフィスもゲストエリアに複数のアート作品を展示しており、社員やお客様に快適かつ刺激的な空間を提供しています。

本稿では、JLL東京本社オフィスを彩るアート作品のキュレーションを担当したThe Chain Museum(以下、TCM) プロジェクトマネージャー 針生 未希さんにオフィスアートについて伺いました。

なお、JLL東京本社オフィスではオフィスツアーを開催していますので、ご興味ありましたらお気軽に下記よりお問い合わせください。

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TCMとは:

「気付きのトリガーを、芸術にも生活にも。」というミッションを掲げ、これまで、気付きのトリガーを世界中に伝播させるために、アーティストと鑑賞者の新しい関係性が生まれる場をつくる「ArtSticker事業」、アートとのより多様な関わり方を提案するために、自らが運営する「Gallery事業」、そして、生活の中にアートを散りばめるために、ホテルや商業施設、オフィスなどの空間プロデュースを行う「Coordination事業」を展開。
目次

オフィスにアートを導入することで快適かつ感度の高いオフィスづくりを進め、オフィスに“出社したくなる”動機付けにしたいと考える企業が増えている

オフィスアートが注目される理由

2024年11月、戸田建設の本社ビル「TODA BUILDING」が華やかな開業を迎えました。京橋発の芸術・文化拠点として建物低層部に芸術文化エリアを開設した同施設では、ギャラリーや創作・交流スペース、ミュージアムなどを整備。自由にパブリックアートが鑑賞できるなど、東京の新名所としてオフィスワーカーのみならず、来街者も大きな期待を寄せています。

不動産デベロッパーが大規模再開発や街づくりの一環としてアートを取り入れるケースは少なくありませんでした。例えば、森ビルが手掛けた「六本木ヒルズ」や「麻布台ヒルズ」、三菱地所が街づくりに注力する丸の内・大手町エリアといったところが有名どころといえるでしょう。JLLが本社を構える「東京ガーデンテラス紀尾井町」もパブリックアートの鑑賞スポットとして知られています。

一方、再開発のような大掛かりなプロジェクトのみならず、オフィス内にアートを導入(展示)する企業も増えており、いわゆる「オフィスアート」に対する注目度がにわかに高まりつつあるようです。

しかしながら、なぜオフィスアートが注目されるのでしょうか? 数多くの企業にオフィスアート導入を支援している針生さんは、次のように説明してくれました。

「コロナ禍でオフィスに出社する回数が減ったことで、社員同士のコミュニケーションが低下するなど、様々な課題がでてきました。そこで、オフィスにアートを導入することで快適かつ感度の高いオフィスづくりを進め、オフィスに“出社したくなる”動機付けにしたいと考える企業が増えているためです」

元々、オフィスにアートを導入していたのは欧米グローバル企業が中心とされてきました。幼少期から美術教育に熱心かつ大規模なアート市場を有するなど、アートに対するリテラシーが高く、身近に触れることで創造性が刺激され、イノベーション創発や新規ビジネスの創出に一定の効果があるとの考えが定着しているためだそうです。

一方、かつての日本企業は「オフィス=働く場」との保守的な考え方が根強く、業務に関わるもの以外はオフィスに導入しないというストイックな一面がありました。しかし、経済産業省が推奨する健康経営への対応や、コロナ以降にウェルビーイングなオフィスに対するニーズの高まりなどを受け、積極的にオフィス改革に乗り出す企業が増加。そうした流れの一つとして、オフィスアートを導入する機運が高まってきたといえます。

「オフィスアートを導入するきっかけとして最も多いのはオフィス移転のタイミング。意匠性のあるインテリアなどを導入するだけでなく、見る人の考え方などによって様々な解釈が可能な現代アートを導入することで多様なコミュニケーションが生まれることが狙いであり、新オフィスのコンセプトをアートで体現しようと考えるクライアントも非常に多いです」(針生さん)
 

オフィスアートの効果

アート導入後に良い変化があったと回答した割合では「ストレスの減少」が84%、「コミュニケーションの増加」が82%、「組織ブランディング力の向上」が79%

では、オフィスにアートを導入することでどのような効果が得られるのでしょうか? 針生さんは主な導入メリットとして次の3点を挙げます。

  1. 従業員エンゲージメントの向上

  2. クリエイティビティの活性

  3. ブランディング効果
1. 従業員エンゲージメントの向上

「アートを導入することでオフィスのイメージをポジティブにし、オフィスに愛着が湧くことで従業員のモチベーション向上にも寄与します。また、魅力的なオフィスになることで採用面でもプラスの効果を期待できます」(針生さん)

従業員エンゲージメントとは、従業員が会社や仕事に対して愛着や誇りを持ち、自らのスキルを自発的に磨き、会社に貢献しようとする心理状態を指します。少子高齢化時代において優秀な人材をいかに採用するか、雇用を長期継続できるかが、今後の事業成長にとって重要視されています。そのため、企業は従業員エンゲージメントを向上させるべく、快適かつ働きやすいオフィスを整備することに注力しており、オフィスアートを導入するケースが増えています。

2. クリエイティビティの活性

「オフィスアートは対話やインスピレーションのきっかけとなり、社員の創造性を刺激し、イノベーション創出にもつながります」(針生さん)

新しい付加価値を提供し、社会に大きな変化をもたらすイノベーションをいかに創出するかが、企業にとっての命題ともなっています。“働く場”であるオフィスにおいて従業員同士のコラボレーションを促す仕掛けづくりを行い、イノベーション創発を促す。こうしたコンセプトのオフィス戦略を実践する上で、オフィスアートは欠かせなくなっています。

3. ブランディング効果

「アートをオフィスに設置することで、自社の独創性や目的意識を社内外に対して表現することができます」(針生さん)

社内外に一貫したメッセージを発信し、企業の存在意義を指し示す「ブランディング」の向上に注力する企業も少なくありません。一方、パーパスなどを掲げブランディング向上に取り組んでいます。オフィスアートは社内に対するインナーブランディング、社外に対するアウターブランディングのどちらにも効果を発揮しやすく、視覚的な訴求力があるため、より高いブランディング効果が見込めます。

アートの導入効果を示唆する経産省の実証実験

経済産業省「ヴィジュアルアートによる組織活性化調査実証事業 報告書」では、アート導入後に良い変化があったと回答した割合では「ストレスの減少」が84%、「コミュニケーションの増加」が82%、「組織ブランディング力の向上」が79%となり、上記に挙げた3つの効果が得られることを示唆しています。

また、針生さんによると「海外の調査では職場にアートがある従業員と、ない従業員を比較した調査では『職場でアートに触れることで創造的なアイデアが生まれた』との回答が、アートがある従業員のほうが圧倒的に高いとの研究結果がある」といいます。
 

オフィスアートの導入形態

アートには絵画や彫刻、銅像などの伝統的な作品から、近年では映像や音楽などを踏まえたインスタレーション(空間芸術)、アーティストと共同で作品作りを行う共創アートまで、多種多様な作品が存在します。そのため、オフィスアートにも様々な導入形態があり、下記のようなものが挙げられます。

ウォールアート

オフィスアートといえば、このウォールアートを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。一般的にオフィスの壁には壁紙やタイルなどを貼ることが多いですが、壁の一部、もしくは壁一面にイラストやグラフィックなどの迫力のある大型作品によってオフィス空間を演出できるのがウォールアートの最大の魅力といえます。また、企業のパーパスや経営哲学などを想起させるオリジナル作品を作り上げることができ、ブランディング効果が高い点も特徴といえます。一方で、作品完成後に移動したり、修正するのが難しく、原状回復も視野に入れておく必要があります。メンテナンスが必要になるなど、柔軟性に乏しいことが導入後のデメリットともいえそうです。

インスタレーション

絵画や彫刻のような個別作品ではなく、空間全体を一つの芸術作品として捉える手法です。映像や音楽を主体としたものも多く、アーティストの世界観や非日常性など、臨場感を体験できることから、オフィスの他、商業施設やホテルなどへ導入されることも多いといいます。空間全体を作品に見立てるため、天井から吊るす大型の立体作品なども多いですが、針生さんは「意外にも移動や付け替えが容易なので導入しやすい」と説明します。

共創アート

クライアントの従業員等とアーティストが協力して展示作品を制作する手法で、TCMに対して共創アートに関する問い合わせが増加しているといいます。

共創アートが注目を集める理由として、コロナ禍で喪失した従業員同士の一体感や帰属意識を醸成する目的があるとのこと。

「オフィスアートを従業員がオフィスに出社するためのコンテンツに位置付けているケースも少なくありません。協創アートは自分が制作に携わった作品がオフィスを彩るなど、従業員と企業が一体感を醸成する効果があり、オフィス出社を促すというニーズがあります」(針生さん)

作品購入

絵画や彫刻など、屋内展示に向いた作品などを購入し、オフィス内に設置するという一般的なオフィスアートといえます。従前は会議室や応接室、ゲストエリアなどの来客向けに絵画やオブジェを設置することが多く、アートをこよなく愛する経営者・創業者が自らのコレクションをオフィスに展示しているケースも散見されます。

自らアート作品を選定し、こだわりの空間に仕上げることが魅力ともいえます。その半面、空間コンセプトなどとの親和性のあるアート作品を探し出すのが難しく、アートに対する知識や審美眼が必要になるケースも。加えて、レンタル・サブスクに比べて購入コストが高いことも検討すべきでしょう。

レンタル・サブスクリプション

展示するアート作品をレンタルやサブスク(定額料金制)で調達する手法です。作品購入に比べて初期費用が安価に抑えられ他、一定期間(契約期間)が経過すると導入した作品を入れ替えることができるので、様々なアート作品を展示することができます。ただ、導入を検討する際は作品の破損などに対応する保険の加入状況について事前に確認すべきでしょう。
 

オフィスアート導入事例【JLL東京オフィス】

見た目だけではなく、企業文化やパーパスなどの“背後”にある文脈やストーリーを意識して作品選定をすることが、オフィスアートの効果を最大限に発揮するための重要なポイント

JLLでは2022年11月、東京本社オフィスの統合移転を実施しました。新オフィスは「自然と人が集まりコミュニケーションが生まれる『公園』」という空間コンセプトを有し、石材や木材、植栽などの“和”の要素を取り入れました。オフィスアートはTCMが提供するサブスクリプション・サービスを利用し、空間コンセプトやデザインと親和性のある“水”をテーマにした作品を選定・設置してもらいました。

新鮮な刺激を提供し続けられるよう、半年に1度展示作品を入れ替えており、入れ替え時には従業員の投票によってオフィスアートのコンセプトを決定するなど、社内イベントとしても好評を博しています。従業員個々の意見が反映されることで帰属意識の醸成にも寄与しています。

展示作品の近くに掲示しているQRコードから作者のプロフィールや他の作品などの情報を発信しています。アートに対する関心を高めてもらう他、アートをきっかけにコミュニケーションが生まれやすくなる仕掛けを設けました。

オフィスアートやマッサージルームを導入するなど、従業員のウェルビーイングに配慮したオフィスづくりを実践したことで、国際的な環境認証制度「WELL認証」において最高ランクの「プラチナ」を取得しています。

オフィスのコンセプトや使われ方に見合った作品選びが重要

オフィスアートを導入することで従業員エンゲージメントが向上し、ひいては生産性向上やイノベーションの創発、離職防止など、様々なメリットが期待できることをご理解いただけたかと思います。

一方、注意すべき点は導入コストをはじめ、賃貸物件における原状回復、アート導入後のメンテナンス、そして時間と共にアートに対する新鮮さが失われ“風景化”する可能性も捨てきれません。導入前にはこれらの課題について検討すべきでしょう。

そして、オフィスアートを導入する場合、どのような作品を選定するかが重要です。オフィスデザインや家具・什器の意匠性に合わせてアート作品を選定するのも1つの考え方がですが、見た目だけではなく、企業文化やパーパスなどの“背後”にある文脈やストーリーを意識して作品選定をすることが、オフィスアートの効果を最大限に発揮するための重要なポイントになります。

そうしたなか、TCMでは厳正な審査を通過したアーティストが手掛けた2,500点超(2024年12月時点)の作品が提供可能。絵画や写真といった平面作品や彫刻、インスタレーションなど、オフィスのコンセプトに合わせた様々なアート作品の選定から設置まで一貫して支援してくれます。作品の破損などに対応する保険にも加入しています。こうしたアートの専門家の支援を受けることが、オフィスアートの効果を最大限に発揮するための最善策ともいえそうです。

オフィスアートの見学やオフィス戦略の立案はJLLへご相談を

JLLは国内外問わず数多くの企業のオフィス移転プロジェクトを支援してきました。オフィスコンセプトの策定から移転先の選定、プログラミング(要件整理)、設計デザイン、プロジェクトマネジメント、移転後のオフィス運営までワンストップで支援しています。

今回紹介したJLL東京オフィスの移転プロジェクトを自ら手掛けており、オフィス移転やオフィスアートの導入などにご興味のある方は下記関連情報をご覧ください。

※オフィス見学ツアーは移転・オフィス改革/リノベーションなどをご検討されているお客様に優先して参加いただいております。競合他社、不動産関連ベンダー、個人事業主、学生のお客様はお断りさせていただく場合もございます。

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