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これからの戦略的なオフィスデザインとその事例

オフィス価値の再考により、企業が取り入れるオフィスデザインやその事例も日々変化している。ニューノーマルな働き方の実現により、従業員の安全や衛生対策を最優先にするからこそ、オフィスの再設計が必要となり、従来からの課題であった働き方を変えるための要素も盛り込んだオフィスデザインが重要視されている。変化に適応した戦略的なオフィスデザインと事例を紹介する。

2020年 10月 09日

オフィスデザイントレンドの移り変わり

従業員が求めるオフィスデザインは、その時代の社会情勢が影響するからこそ、企業はトレンドを察知し、俊敏に適応していくことが求められる。働く場の在り方が問われ始めた働き方改革関連法の施行のタイミングでオフィスデザインも従来と異なるトレンドへと変化し始めた。例えば、従業員のエンゲージメントや生産性向上の目的から、シェアオフィスやABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)のオフィスデザインを取り入れる企業が見られるようになったことが挙げられる。その後、コロナの影響によるニューノーマルの働き方への移行により、安全衛生やウェルビーイング、リアルとデジタルを統合したハイブリッドなオフィスデザインへとトレンドが移り変わっているように見受けられる。

JLLが実施した、従業員の成功と業績向上のためのワークプレイスの設計に関する調査レポートでは、オフィスでの革新的なスペースやテクノロジーが提供されている従業員の満足度が向上していること、高いパフォーマーほど充実したオフィスファシリティを利用可能であることが示されている。今後求められるオフィスデザインは、従業員のウェルビーイングやパフォーマンスを向上していくため、多様な観点を考慮した要素を取り入れることが重要となってくるだろう。

 

JLLリサーチ「ヒューマン・パフォーマンスの解読」から抜粋

働く場所はヒトの体験を軸に作り上げられるケースが増えており、今後のオフィスデザインに取り入れるべきポイントとしてリアルコミュニケーションは重要な要素となる

オフィスデザインに取り入れるべき新しいポイントとは?

新しい行動を考慮したオフィスデザインやレイアウト

ニューノーマルにおけるオフィスの在り方が大きく様変わりし、それに伴い働く人々の行動もアップデートされた。これからの時代に求められるオフィスデザインは、従業員が安全で安心して衛生的に仕事を行える場所であること、また共用スペースでの集会を制限、オフィススペースの利用者数の明確な確認・管理等 が挙げられ、今後これらの新しい行動を考慮したオフィスデザインやレイアウトが積極的に採用されていくだろう。

ソーシャルディスタンスを遵守したオフィス戦略

アップデートされた働き方に適応したオフィスデザインにソーシャルディスタンス戦略は欠かせない。安全性を考慮し、対面型の会議を極力避けるため、ビデオ会議やその他のバーチャル会議などテクノロジーの活用やソーシャルディスタンスが維持できるよう、物理的スペースの再考によるオフィスの再設計など、ヒトとの距離についての考え方が変化したからこそ、オフィスデザインやレイアウトも柔軟に適応していく必要がある。

「リアルな場」としてヒトとのつながりを感じるようなオフィス

一方、在宅勤務や外部貸し共用オフィス等を活用したソーシャルディスタンスを意識したワークプレイス戦略を実践する企業が増える中、コワーキングのような多様な個性が集まり、リアルなコミュニケーションが生まれる場所の価値も再認識されるようになった。テクノロジーの活用により生産性は向上したが、デジタル上では雑談など偶発的なコミュニケーションは生まれにくい。JLLが実施したオフィス戦略のニューノーマルに関するアンケート調査では、「今後のオフィスの役割は?」という質問に対し、「Face To Faceのコミュニケーション」や「Face To Faceによるイノベーション・コラボレーション創発」が上位3位以内にランクインした。働く場所はヒトの体験を軸に作り上げられるケースが増えており、今後のオフィスデザインに取り入れるべきポイントとしてリアルコミュニケーションは重要な要素となるだろう。

ニューノーマルにおけるワークプレイスのリエントリーガイドブックを見る
 

オフィスデザインに欠かせない戦略的なコンセプトの策定

オフィスデザインが優れていても、企業から従業員等のステークホルダーへのメッセージとなる戦略的なコンセプトが明確でないと長期的な視点での効果は十分に発揮されないと考える。コロナ禍で再定義された働く場の価値は、目に見えるオフィスデザイン等のテクニカル面と、その土台である目には見えない企業理念や想いをのせたオフィスコンセプト、両方の要素を持つことが重要視され始めている。現場で起きている課題を明確にし、企業特性を活かしたアプローチで解決の要素を導き出しコンセプトへ取り入れ、組織全体を繋ぐオフィスへ戦略的に落とし込む。こうしたプロセスが一例として挙げられる。アフターコロナを見据えた経営戦略の見直し等、様々な試行錯誤が行われている中で、オフィスデザインは企業のメッセージを代弁してくれるような存在に変化しているのではないだろうか。
 

最新オフィスデザインの事例

刷新したコンセプトを軸にオフィスデザインで従業員と企業の対等な関係を構築

「働く」だけでなく、オフィスにいる意味を拡張し、提供していくことが、従業員に選ばれるオフィスデザインに欠かせない要素となる

コロナ禍での従業員の働き方の変化を察知し、オフィスデザインの刷新や移転に踏み切る企業も少なくない。コンセプトの刷新とオフィスの拡張移転で優秀な人材獲得を図る企業の事例では、従業員と企業の対等な関係を築くため「相互選択関係」を軸と置き、自分の居場所と感じられるような街をイメージしたデザインコンセプトを策定。社内にABW型のスペースを設置するだけでなく、社内外のステークホルダーが交流できるタッチポイントも多く設けられた。「働く」だけでなく、オフィスにいる意味を拡張し、提供していくことが、従業員に選ばれるオフィスデザインに欠かせない要素となるのではないだろうか。
 

「リアルコミュニティ」を重視したカスタマイズオフィス事例

多数のスタートアップが入居する外部貸し共有オフィスのC社 は、スタートアップマインドのある人やチームの働き方がこれからの社会のスタンダードになると感じ、多様な領域のヒトが自然に流動する空間や柔軟なプランを提供している。スタートアップにヒアリングを行い、施設のプランニングを進め「スタートアップが望む働く場」を体現したオフィス環境となっている。オフィスデザインの具体例として挙げられる「カスタマイズオフィス」は、個室ではなく天井近くの間仕切り壁が開放された半個室で、跳ね上げ式の窓を開くとフリーアドレス席と一体感が生まれるようなデザインになっている。カスタマイズオフィスの個室入り口には各社のロゴ入りの暖簾が下げられ、会社のオリジナリティを出すことができる。このようなアイデアもスタートアップからのヒアリングを通して生み出されたのだ。今後オフィスデザインを再考する企業にとって「リアルなコミュニティ」は欠かせないポイントとなるだろう。
 

「帰ってきたくなるオフィス」をコンセプトにしたオフィスデザイン事例

IT等のテクノロジーを駆使してクライアントの課題を解決するコンサルティングファームのN社は、一般的なコンサルファームの理路整然やロジック優先の冷徹なイメージとは全く異なる「人の温かみ」を重視してサービスを提供する異色の存在。そのコンセプトがオフィス戦略としても活用されているのだ。東京都内に位置しながらも南国のビーチを彷彿させるオフィスデザインは、居心地の良さを醸し出している。本格的なバーカウンターや天井板を撤去した開放的なオープンスペース、室内のいたるところに展示されたサーフボードなど「コンサルファームの一般的なイメージとは異なる温かみが感じられる西海岸風」のデザインとなっている。

従業員の満足度を高めるオフィス戦略により従業員の離職率は2年平均で12%前後を維持(一般的にコンサル業界の離職率は1年平均で20-30%といわれている)。モチベーションを喚起するオフィスの役割も大きいが、会社のカルチャーにフィットした人材を採用していることも成果に繋がっているそうだ。

オフィスが果たす役割は、時代やヒトのニーズによって変化する。ニューノーマルな働き方により従業員がオフィスに求める要素も変容する中、ヒトとのつながりを感じられるコミュニケーションは変わらず必要とされ続けている。働き方を変え、改善していく上で、物質的な要素ももちろん欠かせないが、同時にヒトの本質的で精神的な観点での要素もオフィスデザインには必要不可欠となり、今後その重要性はさらに増していくであろう。

 

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