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人の温かみを重視するオフィスデザイン:ノースサンドの「帰ってきたくなるオフィス」とは?

通勤ラッシュでストレスを抱えながら都心のオフィスに通勤するのではなく、サテライトオフィスやテレワーク制度を活用して柔軟な働き方を実践する企業が増えつつあるが、果たして本当に従業員の満足度を獲得しているのだろうか。気鋭のコンサルファーム・ノースサンドは西海岸風のオフィスデザインで「従業員が帰ってきたくなるオフィス」を体現する。

2020年 07月 06日

ノースサンド本社オフィスのオープンスペース

「働く」以上の価値を提供するノースサンド本社のオフィスデザイン

人の温かみを重視するコンサルファームのオフィス戦略

ヒューマン・エクスペリエンス(JLLが提唱する「人の体験」を大切に考えるワークプレイス環境を充実させることで、従業員は「Well-being」を体感し、生産性を自発的に高めていくことができるという考え方)を体現したオフィスデザインが注目されている。

生産性向上を目指し、オフィス改革に注力する企業が増えているが、働くことを前提とした従来型のオフィスとは一線を画す斬新なオフィス戦略を実践しているのが株式会社ノースサンドだ。IT等のテクノロジーを駆使してクライアントの課題を解決する気鋭のコンサルティングファームは2015年7月に創業、2020年4月1日時点の従業員数は120名を数える。

一般的なコンサルファームは理路整然、ロジック優先で、ともすると「冷徹」なイメージを想起させるが、同社は「人の温かみ」を重視してコンサルサービスを提供する異色の存在。中でも従業員のモチベーションが圧倒的に高く、某企業が提供するモチベーションサーベイ(従業員のモチベーションを総合的に判断し偏差値として評価する)では偏差値81を叩き出し、4,000社中上位5社に名を連ねるほどだ。

西海岸風のオフィスデザイン

東京・銀座の中央通り沿いに位置する「ヒューリック銀座ビル」4階フロア、約223坪の広さを誇るノースサンドのオフィスは、さながら南国のビーチを彷彿させるデザインで、オフィスらしからぬ居心地の良さを醸し出す。

オフィスに入ると目に飛び込むのは本格的なバーカウンター。天井板を撤去した開放的かつ広々としたオープンスペースへと続き、その一角にはIoTで制御する従量課金制のビールサーバーが鎮座。室内のいたるところにサーフボードが展示され、通路の両脇に本物の白砂を配した「ビーチロード」には同社の子会社であるローレンロス・ジャパン株式会社が展開するハワイ関連グッズまで展示している。

オフィスはオープンスペースと執務スペース、ミーティングスペースで構成されている。執務スペースはコンサルタント用のフリーアドレス席とバックオフィス部門の固定席に分かれているのが特徴だ。前述した「ビーチロード」を抜けるとミーティングスペースがあり、3つの会議室の他、採用面接等を行う個室を設けた。青と白のグラデーションになった室内のデザインは海と青空をイメージしている。また、会議室の名称は「DORYOKU」や「KIZUNA」等、同社が大切にしている8つの企業理念から取ったものだ。

理知的なイメージのコンサルティングファームの印象を覆し、ITベンチャーのような居心地の良さを重視したオフィスデザインはどのようにして考えられたのか。ノースサンド 人事部 広報グループ 東谷 昂氏は「オフィスデザインは完全に当社代表の趣味」と冗談めかすが、真のコンセプトは「社員が帰ってきたくなるオフィス」だ。

アメニティを充実させ、オフィスへ出勤するモチベーションとする施策はアカツキのオフィス戦略と同様だが、アカツキの場合は「オフィス=働く場」というのが前提だ。しかし、ノースサンドは考え方が異なるようだ。

オフィス内に本物の砂を配した「ビーチロード」をしつらえた

オープンスペースに設置されているIoT制御のビールサーバー

「人の温かみ」が感じられるオフィス

創業以来、3度の移転を重ね、現在のオフィスを開設したのは2019年5月。すべて銀座界隈に居を構える。移転前のオフィスは「パッションカラーを軸としたハワイ風」だったが、新オフィスは「コンサルファームの一般的なイメージとは異なる温かみが感じられる西海岸風」のデザインとした。

移転前のオフィスと比較すると、その広さは2.5倍。事業拡大による人員増への対応という側面はあるものの、東谷氏は「クライアント先に常駐して働くコンサルタント(従業員)が戻ってきてコミュニケーションを深化させられるオフィスを作ることが狙い」という。その象徴が前述したオープンスペースの存在だ。

150人超を収容できるオープンスペースの使い方は多彩だ。毎月1回、創業当初から全社員集会とノースサンドパーティーと呼ばれる定期イベントを実施する他、就活や採用イベント、同社従業員の結婚式の二次会まで開催したことがある。パーティーには従業員の家族や友人、知り合いも参加可能。昨年は新卒入社した若手が両親や恋人を招待したというが、「大切な人を連れてくるに値する会社」だと従業員自らが認識している証拠だろう。

コンサルタントは基本的にクライアントのオフィスへ常駐しており、同じ組織に所属していながらも社員同士が面識のないケースが多い。ほとんどのコンサルファームでは進行中のプロジェクトにコンサルタントが新たに参画する場合、同じ会社の社員であったとしてもそこで初めて顔を合わせるということがほとんどだ。しかしチームでプロジェクトに取り組む際に、最初から信頼関係があるメンバーでチームを構築したほうがより早く高いパフォーマンスを発揮することが可能だ。それらの実体験から、ノースサンドではコンサルファームでありながらも社内の一体感を重要視し、それを醸成するためのオフィス戦略を推進するようになったそうだ。

ノースサンド 取締役 執行役員 人事担当 佐々木 耕平氏は「社内イベントはオフィスに帰ってきたコンサルタントに楽しんでもらうことだけを考えており、常に面白くなるアイディアを練っている」と述べる。従業員がオフィスに「帰還」し、一堂に会することのメリットは想像以上に大きいのだ。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィスリーシング 柴田 才は「『オフィス=働く場』という常識が定着する中、従業員のコミュニケーションをここまで重視しているオフィス戦略は珍しい」との見解を示す。

開放的なフリーアドレス席

青と白のグラデーションになった会議室のデザインは海と青空をイメージしている

コンサルファームとしては群を抜く低離職率

同社の離職率は2年平均で12%前後。東谷氏によると「一般的にコンサル業界の離職率は1年平均で20-30%といわれている中、同業と比較すると圧倒的に低い」そうだ。モチベーションを喚起するための仕掛けとしてオフィスは重要な役割を担っているが、それだけでは長期雇用は維持できないという。低離職率の最大の要因は「人材採用」に対するこだわりだという。イベントやパーティーといった「にぎやかな場」や「人と人がつながる場」を好まない人材は同社の企業文化に適応できない可能性が高い。そのため採用時にはカルチャーフィットする人材に絞って採用しているという。

「コンサルタントの年収は同年代の平均給与よりも高く、その分採用コストも大きい。当社のことを好きになってもらい長期間雇用が継続したほうがオフィス改革に投じたコストよりもはるかに大きな価値が得られる」(佐々木氏)

従業員の満足度を高めるオフィス戦略

サテライトオフィスやコワーキングスペースといった柔軟に働ける「フレキシブルスペース」が整備され、テレワーク制度も定着しつつある中、通勤ラッシュにストレスを感じながら本社オフィスに通勤することのメリットは薄れていくかもしれない。

その一方で、柴田は「「本社オフィスだけではなくシェアオフィスやコワーキングスペースなどを活用することで働き方の多様化・フレキシブル(柔軟)化を実践しようとする企業が増えている一方、ノースサンドのようにオフィスをより重視する企業もおり、オフィスの在り方が二極化してきている」との見解を示す。

コロナを機により明確になった「人と人のつながり」の重要性

新型コロナウイルスは人と人の関係性を「分断」した。今後のオフィスの在り方にも影響が及ぶことが予想されているが、ノースサンドはオフィス戦略を方向転換させることなく、今まで以上に「人と人のつながりが大事」であることを再確認することになったという。そして、広大なイベントスペースがあることで、ソーシャルディスタンスを保ちながらも人が集える場としてオフィスが機能し、全社員集会等の大規模イベントは対面とリモートのハイブリッド型に進化を遂げている。

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