日系不動産会社の海外進出が加速 - JLLのアウトバウンド投資専門チームが最新動向や市場参入時の注意点などを解説
少子高齢化に伴う国内市場の縮小などを背景に、日系不動産会社の海外進出が加速している。先進国の他、豊富なインフラ需要を抱えるアジア圏など、様々な選択肢があるが、特に人気を博しているのが米国だという。JLLのアウトバウンド投資専門チームがアウトバウンド投資の現状、市場参入時の注意点などを解説する。
本稿は、世界80カ国で事業展開するグローバルネットワークを駆使してアウトバウンド投資を支援してきたJLL日本 アウトバウンド投資専門チームが日系不動産会社の海外進出について解説します。なお、JLLの支援事例や提供サービスに興味がありましたら、下記の関連情報をご覧ください。
目次
日系不動産会社の海外進出が加速
少子高齢化に伴う日本経済の縮小などを背景に、日系不動産会社の海外進出が加速
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日系不動産会社の海外進出動向
経済のグローバル化が進展する一方、少子高齢化に伴う日本経済の縮小などを背景に、日系不動産会社の海外進出が加速している。
例えば、事業用不動産業界の最大手である三井不動産は2018年に米国マンハッタンにおける最大規模の複合開発「ハドソンヤード」に参画するなど、2020年度末時点のグループ資産のうち海外が占める割合は20%だったが、2023年度末時点で28.5%まで伸張。2024年4月に発表した長期経営方針「& INNOVATION 2030」において注力する事業領域の1つとして「海外事業の深化と進化」を掲げている。
三菱地所も海外事業に注力している。2024年5月に発表した「長期経営計画 2030」によると、2019年度の海外総資産7,130億円から、直近3カ年(2021-2023年)平均で総資産1.3兆円に拡大。2030年の目標としていた総資産「1.5兆円程度」を前倒しで達成する見込みとしている。投資先を英国、米国、オーストラリアなどの先進国にシフトし、なかでも米国では物流施設や賃貸住宅、データセンターなど全米で開発実績を積み上げている。
その他、海外事業を展開している日系不動産会社の動向について下記にまとめた。事業用不動産を取り扱う大手は軒並み海外に進出していることがわかる。
企業名 | 海外不動産事業に関する動向 |
三菱地所 | 2024年3月末時点の海外事業の営業収益は約1,700億円。営業収益の11.5%を占める。ベトナム、インド、豪州、英国、米国などで住宅、物流、オフィスなどを開発。 |
三井不動産 | 海外資産残高は2017-2023年度までの6年間で2.7倍(1.0兆円→2.7兆円)に成長。うち、米国が1.89兆円と約70%を占めるが、英国、アジア圏でも多角的に事業を展開。商品・エリアを厳選し「回転型」主体で新規投資を加速。 |
森トラスト | 米国ボストンにおいてライフサイエンスラボ&オフィスの共同開発事業をはじめ、米国ニューヨーク・マンハッタンでのオフィスビルの大規模リノベーション事業に参画。 |
野村不動産 | 2023年3月期から海外事業をアセット横断で集計を開始した海外部門の売上高は、連結合計で0.6%にとどまるものの、米国、英国、フィリピン、ベトナム、タイ等で投資開発・マンション分譲事業を展開。2023年以降の9年間で海外投資5,500億円を計画。事業利益に占める海外部門の割合で15%以上を目指す。 |
東急不動産 | 東南アジア8カ国と米国で開発プロジェクトに参画。米国では大型オフィス開発やバリューアッド戦略に基づく集合住宅事業、パラオではリゾートヴィラなど、地域特性を加味した多様なアセット展開を行う。 |
東京建物 | 米国、豪州、タイ、シンガポール、インドネシアなどで分譲・賃貸の住宅開発を行う。2025年1月公表の中期経営計画では、海外事業への1,100億円規模での投資を行い、2030年に事業利益に占める海外事業の比率について10%への拡大を目指す。 |
ヒューリック | 海外事業を経常利益ベースで100億円の事業規模に成長させる目標を2024年2月に公表。同年10月時点で400億円規模の案件を確定・具体化させており、事例としてはマルチファミリー型の住宅が公表されている。2027年までの海外投資枠を1,500億円とし、人口・経済成長国の米国、シンガポール、ベトナム、インドを対象に住宅・産業系アセットへのバランス投資を志向。 |
住友不動産 | インド・ムンバイで2棟計、延床面積で8万坪規模のオフィスビルの開発を進める。2023年に取得したワーリー地区の用地では、延床30万坪を超える超高層複合開発を計画する。 |
主な日系不動産会社の海外進出状況 出所:各社の決算資料、プレスリリースなどの発表資料をもとにJLL作成
日系不動産会社の海外進出の歴史
日系不動産会社の海外進出は1970年代を黎明期とし、いわゆるバブル景気に沸いた1980年代の円高を背景に海外進出が活性化。米ニューヨークの超高層ビルを日系不動産会社が取得したニュースは今なお色褪せない。しかし、バブル崩壊によって国内景気が急激に悪化。海外からの撤退が相次いだ。
その後、2010年代に入り、国内大手不動産会社が海外事業に注力し始め、欧米などの先進国のみならず、成長著しいアジア諸国など、投資対象となるエリアの多角化が進み、現在に至る。
日系不動産会社が海外進出する理由
少子高齢化に伴う国内市場の縮小や国内消費の低迷が予想されるなか、海外市場へ参入する新たな事業基盤を獲得し事業成長を目指すのは、日本企業にとっての命題となりつつある。
不動産業界においても同様の背景があり、国土交通省は成長著しい海外市場における良質なインフラ需要を取り込み、自国の経済成長を促そうとインフラ輸出の強化に取り組んできた。国内市場が成熟し、少子高齢化によって不動産需要の将来的な減退が危惧されるなか、日系不動産会社は新たな収益基盤の獲得という“攻め”と、不動産ポートフォリオを多様化することでリスクを分散する“守り”を両立させるために海外進出に注力している。
また、JLL日本のアウトバウンド投資専門チームの担当者として日系不動産会社の海外進出を多数支援してきたJLL日本 キャピタルマーケット事業部 シニアディレクター 長谷川 尚益によると「日本の不動産投資市場に対して海外投資家の参入が増えたことによる国内市場の競争激化、各国における海外投資家の投資アクティビティが減速したことも要因」になっているという。
日系不動産会社に人気の海外進出先
日本からの海外投資はコロナ禍を受けて一時的に縮小したものの、コロナ収束後に再び投資活動が増加傾向に転じている
日本からの海外投資はコロナ禍を受けて一時的に縮小したものの、コロナ収束後に再び投資活動が増加傾向に転じている。主な投資先は米国や英国、オーストラリアなどの先進国をはじめ、旺盛なインフラ需要を抱えるアジア各国などが挙げられる。
一番人気は今も昔も米国
長谷川によると「従前から日系企業が好む投資対象国であった米国は現在も日本全体のアウトバウンド投資の5-6割を占めるとされ、日系不動産各社も海外投資予算の多くを割いているのが現状」だという。
いわば、日系不動産会社の海外進出の“登竜門”といえるのが米国なのだが、その背景について長谷川は「ドル資産の安定性、マーケット規模・透明性に秀でているにも関わらず成長が続くマーケットと目されているため」との見解だ。
米国では直近2-3年、マルチファミリー(賃貸集合住宅)や物流セクターにおいて一部エリアで供給過剰によって賃料が弱含んだことに加え、2022年以降に急激な金利上昇に見舞われたことで不動産キャップレートが急上昇。物件価値が下がり、不動産投資において厳しい局面が続いていた。しかし、現状物件価値はボトムアウトを迎えつつあり、今後回復局面へ転じることが予想される。
また、米国での不動産投資実務経験が豊富なJLL日本 キャピタルマーケット事業部 シニアディレクター 把野 秋広は「米国におけるエクイティ調達環境…特に日系不動産投資家が好む開発案件はいまだ弱含みしていることもあり、投資しやすい環境といえる。現地デベロッパーによる日系不動産投資家に対する注目度も非常に高く、優良な現地デベロッパーと協業できる好機を迎えている」と指摘。JLLでは日系企業に対して単発の開発案件の紹介だけでなく、複数の開発プロジェクトに包括的に参画できる投資プログラムを用意するなど、日系不動産会社と現地デベロッパー双方のニーズに合致した取り組みを行っている。
東南アジアからインドや豪州へ関心度が広がっている
一方、米国以外の投資対象となるのは英国やアジア圏である。しかし、アジア圏においては国ごとに事情が異なる。近年は投資対象から中国を除外する投資家も増えており、過去に日系不動産会社のアウトバウンド投資の恩恵を受けていた東南アジアも金利上昇や国内景気・住宅市場の減速などを背景に一時の勢いは感じられない。その半面、足元では投資対象地域が多様化しており、米国と同様に透明度の高い成熟市場であるオーストラリアをはじめ、中国・東南アジアに代わって成長が著しいインドに対する関心度が急速に高まっているのが現状だ。
投資機会
日系不動産会社の海外投資動向
今まで海外投資に対して積極的ではなかった大手不動産会社や鉄道・船舶などのインフラ系不動産会社も新たに海外投資戦略を打ち出しており、日系企業による海外不動産投資は更なる拡大が予想されている
現在は円安環境下であり、日本からの海外投資は為替の観点から見ても不利な状況であることは否めないが、長谷川によると「日系不動産会社は投資先に対して継続的に投資活動を行うことで投資資金を循環させることを意識している」という。
「そのため、毎年新たに1-2億米ドル程度を投資枠とするケースが多く、円安の影響をあえて挙げるとすれば、1案件あたりの投資額が2,000-3,000万米ドル程度に減少したことだろう」(長谷川)
一方、1案件あたりの投資額が減少したことによって、必要となるLP(有限責任パートナー)出資金額が2,000-3,000万米ドルを上回る場合は複数の日系投資家が同じ案件に共同投資を行う傾向も見られるようになってきたという。
そして、新たに海外進出を目指す日系不動産会社は一般的に当該市場での投資経験を有する日系企業(商社・大手デベロッパーなど)が主導する案件に参画することが多いのだが、投資実績を積み重ねていくことで現地デベロッパーと直接共同企業体(ジョイントベンチャー)を組成するケースも増えつつある。
長谷川は「近年では大和ハウス工業や住友林業、積水ハウスを筆頭に、日系ハウスメーカーも海外で不動産会社の企業買収(M&A)などを積極的に行うなど、新たな海外進出の動きも見られるようになり、JLLもM&Aスキームによる日系企業の海外進出を支援している」と説明する。今まで海外投資に対して積極的ではなかった大手不動産会社や鉄道・船舶などのインフラ系不動産会社も新たに海外投資戦略を打ち出しており、日系企業による海外不動産投資は更なる拡大が予想されている。
海外進出に向けた課題
最大の課題となるのは、日本とは大きく異なる現地の市場特性をいかに把握するかであろう。不動産投資に関する法制度・会計・商習慣など、各国の制度的な基礎情報を収集し、整理していく必要がある。特に新興国は法制度が不透明であり、状況が大きく変化する可能性がある。投資対象となる各国の制度のみを比較検討するだけでなく、実際の投資実態を把握することも求められる。
こうした情報収集に加え、現地パートナーとの連携も必須となる。お互いの能力を補完し合える適切な現地パートナーをいかに見つけられるかが、海外進出の成否の鍵を握っているといって過言ではない。
把野は「商習慣の違いやコミュニケーションの齟齬といった課題を理解し、適応していくことがアウトバウンド投資を成功に導く上で非常に重要。アウトバウンド投資やクロスボーダービジネスに精通したJLLのようなアウトバウンド投資の専門家を起用するメリットは大きい」と力を込める。
JLL日本のアウトバウンド投資専門チームが海外進出を成功に導く
JLLは世界80カ国で事業展開し、そのグローバルネットワークを活用し、アウトバウンド投資やグローバルサプライチェーン構築など、日系企業・投資家の海外進出を支援してきました。
また、JLL日本にはアウトバウンド専門チームが存在し、日系不動産投資家に対する深い知見とネットワーク、さらに米国への投資に対する豊富な支援実績と実務経験を有している他、米国以外にも欧州やオーストラリア、アジア圏など、投資対象エリアを幅広くカバーしています。個別案件の紹介にとどまらず、現地パートナーの紹介、デット・エクイティ調達、マーケットレポート作成、各種現地データの調査・提供、そして実務・商習慣のアドバイスなど、現地チームと連携し、包括的な支援体制を提供しています。
海外進出を検討・興味のある日系不動産投資家は事前の情報収集、さらにJLL日本がこれまで支援してきた具体例などに興味がありましたら、お気軽にご相談ください。
連絡先 長谷川 尚益/把野 秋広
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