グローバル不動産アウトルック 2025年
2025年の5つの予測
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※Global Real Estate Outlook 2025(2024年12月発行)の翻訳版となります
2025年は商業用不動産セクターにとって極めて重要な年になりそうだ。パフォーマンスは地域や市場、資産タイプによっても異なるが、全体として不動産サイクルは好転したとJLLは考えている。
JLLが発表した「Global Real Estate Sentiment Survey」 は、この好転を示唆しています。2024年11月末時点で、ほぼ3年ぶりに最も楽観的な回答が得られた。回答者の大多数は今後6カ月間で「状況がさらに改善すると考えている」ことを示した。
とはいえ、2025年が楽観視できるわけではない。投資マインドに冷や水を浴びせるような不確実性が顕在化する可能性があり、経済・規制・財政、そして貿易政策は今後も変化していくだろう。JLLはこうした変化を注意深く見守っていく所存だ。ほとんどの市場で金利は低下傾向を続けるだろうが、その変化のスピードと規模に関わる予想は非常に流動的であり、引き続き不安定さが高まる兆候が見られるとJLLは予想している。様々な事象が想定を凌駕し、金利決定者の判断を変える可能性がある。そして、これは世界中で勃発している地政学的紛争だけでなく、潜在的な紛争リスクについても当てはまる。
2025年は投資機会の拡大が想定されるが、成功するためには、不動産業界関係者は長期的なトレンドに加えて、市場、セクター、個別物件といった各レベルでの変化の兆候を把握する必要がある。この回復傾向はすべての不動産を浮揚させるわけではない。インデックスに注目するだけでなく、適切な不動産を選ぶことが重要だ。
1. 2025年には、高需要資産の供給不足が市場全体で悪化する見通し
新規供給の減少は、北米と欧州のほぼすべての商業用不動産セクターに影響を及ぼすだろう。建設費や資金調達コストの高騰と人材不足の制約が続く中、新規開発プロジェクトは減少している。
米国ほど竣工物件数の減少が著しい国は他にない。米国の新規オフィスビルはピーク時から73%減少(ボストン、シカゴ、ニューヨークなどの都市で最も顕著)、産業用資産は56%減少するとJLLは予測している。欧州では、新規オフィスビルの竣工数が30%減少し、ロンドン、マドリード、ワルシャワなどの都市では特に優良スペースをめぐる競争が激化すると予想される。ドイツと英国では、新規産業用スペースが同程度かそれ以上に減少すると予想される。例外はアジア太平洋地域であり、新規開発と需要は好調を維持する。産業用 スペースの供給のみがピークレベルから若干減少するだろう。
データセンターも世界中の多くの市場で深刻な供給不足に見舞われており、極めて高い需要が、堅調に伸びている供給量を上回っている。2025年の竣工物件数は、3つの地域すべてにおいて2021-2024年のピークを上回ると予想されており、米国のアトランタ、ポートランド、フェニックス、欧州のマドリード、ミラノ、スカンジナビア、中東地域、アジア太平洋地域のマレーシア、ムンバイ、ソウルなどの市場で最大級の増加率が見込まれている。しかし、それでも供給不足は続くだろう。AIの爆発的な普及によって拡大するデータセンター需要は、こうした供給増でさえ、市場が必要とする供給量のほんの一部に過ぎない。
欧州と米国にとって、新規供給の広範な減速は幾つかの影響がある。第一に、一部の物件タイプでは空室率が高いにもかかわらず、事業拡大に伴い増床・移転を考えているテナント企業にとって利用可能な高品質のスペースの選択肢が著しく不足するだろう。これにより、賃貸借契約満了時の更新率が上昇し、これまで以上にポートフォリオ管理が重要になる。この独特な市場サイクルにおいて、テナントは事前に計画を立て、選択肢とコストを賢く判断し、創造性を発揮し、バックアッププランを用意する必要があります。
第二に、好立地にある最高品質のスペースをめぐる競争が激化することで、再開発や既存ビルの改修が喚起され、新たな企業集積地の台頭、Bグレードビルに対する需要が高まるでしょう。パリの中心業務地区(CBD)の空室率はわずか2.8%、ロンドンの新規供給物件の空室率は1.5%であることからもわかるように、欧州のCBDにおける供給制限により、テナントは交通の便がよく、CBDに隣接するサブマーケットに目を向けるようになっている。また、米国では入居率が増加した既存ビルのうち、改修済物件が30%以上を占め、わずか2年前と比べて50%以上増加している。
投資家に示唆するのは、需要と供給の動向を詳細に理解することの重要性である。金利と資金調達コストが最低水準(2021年)に戻る可能性は低いため、保有ビルのパフォーマンスは資産、市場、セクターといった選択肢と、収益成長を促進するための積極的な施設管理によって左右されるだろう。
2. 投資家の場合、先行者利益(早期参入者利益)は2025年にピークを迎える可能性
JLLの調査によると、商業用不動産投資は長期にわたり収益面で優れた実績を残しており、投資ポートフォリオ全体に安定性と多様化をもたらしている。前回の景気サイクルでは、世界金融危機(GFC、リーマンショック)の直後、すなわち2009-2011年の5年間に行われた投資において最高収益が達成された。実際、商業用不動産(CRE含む)資産は 1998年以降、5年ごとに他のほとんどの資産クラスを上回るパフォーマンスを示しており、世界金融危機のときでさえ、5年間保有した投資家は総合的にプラスのリターンを得ている。
前回の景気サイクルの終盤に訪れた混乱を乗り越え、再び景気回復に向かう中、2025年に資本を投入する投資家は、サイクルが成熟するにつれて収益が減少する環境下において先行者利益を得られる可能性が高くなる。2025年は新規供給が鈍化するにつれて供給不足が深刻化し、より多くの投資家が市場に再参入するにつれて、質の高い既存物件をめぐる取得競争が激化するだろう。
新たな流動性サイクルの兆候はすでに垣間見えている。より多くの資本が集まり、投資機会に対する入札が活況を呈するなど、機関投資家は不動産に対する新たな意欲を持って市場に戻りつつある。JLLは2024年の見通しについて、市場が足場を固めようとする中での“攻め”と“守り”のバランスの難しさを指摘した。しかし、足もとでは失敗に対する恐怖よりも、投資機会を逃す恐怖の方が勝りつつある。
そして、不動産投資市場への影響はより明確になってきている。2025年は取引活動の増加と市場環境の安定化により、ビッド・アスク・スプレッドは引き続き縮小するだろう。政策金利の低下は、借入コストのさらなる安定化を促し、資金調達の再拡大を後押しします。住宅、物流、特定のオルタナティブ不動産など、好調なセクターでは利回りの圧縮が続くだろう。
データ消費が劇的に増加しており、欧州とアジア太平洋地域ではデータセンターの需要が増大。世界最大のデータセンター市場である米国でもデータセンターの需要は引き続き堅調に推移するとJLLは予想している。今後5年間で集合住宅などのコアリビング投資に世界全体で1兆4000億米ドルが投資される見通しだ。米国、英国、ドイツ、日本では投資熱が高まっている他、一部の新興市場でも投資への信頼感が高まっている。ニアショアリング(アウトソーシングの近隣国への回帰)は、特に米国で物流・産業部門での勢いを加速させると予測され、テナント需要の増加に伴い、最も需要の高い場所にある最高品質のオフィス資産がリードし、3地域すべてでオフィス部門の投資家にとって魅力的な機会が生まれるだろう。
3. ポートフォリオ要件に対する企業の信頼が高まることで意思決定が加速する見込み
数年にわたりオフィス面積の縮小が続いていたが、ポートフォリオの拡大が再び現実味を帯びてきている。
著名グローバル企業の最近の発表によると、オフィス勤務を義務付ける傾向が見られ、中にはリモートワークを廃止し、出勤状況を記録するシステムを導入する事例も散見される。JLLでは企業のオフィス出勤方針は平均週4日へとシフトし続けると予測しており、これまで以上にオフィススペースが必要になるだろう。JLLの調査において「オフィスでの勤務のみを推進する人」と「オフィス勤務とリモートを両方を推進する人(ハイブリッド推進者)」の両方を含む回答者の57%が、2025-2030年にかけて最も重要な期待事項として「事業オフィス拡大」を挙げた。
ただし、短期的にはポートフォリオの適正規模化(ライトサイジング)と、目的に合ったスペースに改装することに重点が置かれるだろう。少なくとも現時点では、多くの企業がハイブリッド勤務とオフィス勤務を切り分けることについて一定程度の確信を持っており、不動産に関する意思決定を下そうとするだろう。 したがって、しばらくすると、より多くの企業不動産(CRE)責任者たちは新たなワークプレイス戦略の実行を開始すると予想する。これは、移転や既存スペースのリニューアルによって、人材採用やビジネスの期待に適切に応えることを意味している。新たなスペースを求めている企業にとって、2025 年に下す決定は、今後数年間で想定されるオフィス拡張に対応できる柔軟性を組み込む必要があるだろう。
賃貸市場に出回る新規スペースが減少するに伴い、立地性やスペックの劣る既存ビルに空室が集中するにつれて、最品質のスペースをめぐる競争は激化し続けるだろう。企業は、自社に必要なオフィス用面積を明確にし、事業戦略を遂行するためにも積極的に確保する必要がある。これは、オフィス設計、従業員エンゲージメント、ホスピタリティサービスに対する支出を増やすことを意味する。中心業務地区(CBD)、職住遊が混在する活気ある複合用途地域、優れた持続可能性や環境性能を誇る建物、そして人材の誘致と長期雇用に寄与する「出社したくなるオフィス」の需要が最も高くなるだろう。
4. 複数の要因が収束し、陳腐化のリスクを軽減するための活動を促進
賃借スペースに関する需要の変化、都市開発の規制の変化、サステナビリティ要件の厳格化などを背景に、不動産分野全体にわたって陳腐化する可能性のある資産規模に注目が集まっている。建物の築年数や設計、立地、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった項目は、不動産オーナーが戦略的な決定を下す際に考慮すべき重要な要素になっている。
JLLの推定によると、世界の主要66市場における3億2,200万-4億2,500万㎡の及ぶ既存オフィス用面積を維持するためには、今後5年間で多額の設備投資(9,330億-1兆2,000億米ドル)が必要になる可能性がある。ただし、座礁資産化するリスクはすべての建物に均等に当てはまるわけではない:予測される陳腐化リスクの44%は構造的な問題で空室率が高止まりしている米国で発生する可能性が高く、さらに34%はオフィス市場の一部物件で「質への逃避(Flight to quality)」が進むことにより、依然として相当量の空室が残る欧州で発生する可能性がある。
付加価値を創造するために物件のポテンシャルを最大限に引き出すには、オーナー・テナントによる協力的な関与と、陳腐化によってどのような影響があるのかを考慮した計画が必要になる。これは、2025年から新たなサステナビリティ関連法が施行され、2030-2035年にかけてネットゼロ目標が近づいている国・都市では特に深刻な課題になるだろう。
「質への逃避」などを背景に最高品質のスペースへのオフィス移転が続くことで、2025-2026年には不動産オーナーにとってテナントの入れ替えや改修の機会が生まれ始めるだろう。同時に、住宅や宿泊施設が不足しており、行政当局は当該物件の開発を加速させ、土地利用政策を改正しなければならなくなり、これによって老朽化したオフィス資産を住宅やホテル用途に転用することが可能になるだろう。このプロセスは2025年に加速すると予想されているが、物理的、資本的、規制などの様々な課題を乗り越える必要があり、実現までには今後数年間かかると予想される。
5. コスト圧力とエネルギー安全保障への取り組みが、脱炭素化の取り組みを加速させる見込み
脱炭素化に向けた取り組みは、不動産運用において卓越した成果を出す方法として、不動産戦略に対して広範に組み込まれるようになっている。これは、建物内のエネルギー使用の最適化とCO2排出量削減を目的とした設備投資であり、運用コストの削減、エネルギーの確保、規制遵守、人材獲得の促進など、様々な成果に繋がる。この展開により、脱炭素化の概念は、単なるESG(環境・社会・ガバナンス)の考慮事項から、運用管理とリスク管理の重要な要素、さらには事業戦略的かつ経済的なメリットへと変化するだろう。
AI技術、EV、建物の電化などにより、電力需要は2025年に過去20年間で最速ペースで増加すると予測されており(IEAによる予測)、電力コストと供給の安全性に対する懸念が高まっている。エネルギー使用はオフィスビルにおける最大の運営コストであり、一般的な運営コストの約3分の1を占める。軽-中度の改修によって10-40%のエネルギー節約が可能になる。オフィスビルの場合、軽度の改修により1㎡あたり約4-5米ドルのエネルギーコストを節約できる。一方、同じ建物の機械・電気・配管(MEP)設備の改修では、1㎡あたり約17米ドルの節約が可能だ。AIを搭載した省エネテクノロジーを活用して運営パフォーマンスを継続的に最適化していけば、さらなるコスト削減を実現できるだろう。
不動産セクター間で運用面・使用面におけるエネルギー強度やエネルギー価格が異なり、市場間でも違いがあることを考慮すると、資産タイプによってコスト削減額が異なる。医療機関や研究所(R&Dセンター)、データセンターなどのオルタナティブセクターは通常、オフィスよりも2-5倍のエネルギーを使用しているとされ、さらなるコスト削減を実現できる。たとえば、MEP(機械・電気・配管)機器の節約額は、データ センターの場合は1㎡あたり約118米ドル、研究所や医療機関の場合は1㎡あたり約50米ドルになる。
2025年における企業の優先事項は、包括的なエネルギー管理と省エネの実現可能性を調査し、最も高い潜在的利益をもたらす改修ポイントを特定・実行に移すことだ。これらは、施設運営コストの削減というCFOが重視する目標と、ネットゼロに向けたサステナビリティ施策の実践という経営層全体の目標、双方の実現に大きく貢献するだろう。
回復、リスク、レジリエンスが2025年の主要テーマとなる
2025年の特徴は「需要の増大」、「流動性の向上」、そして「断固とした企業行動」であるとJLLは考えている。そして、回復サイクルの次の段階が目前に迫っている。一方、全体的な見通しは明るいものの、金融・政策の不確実性、サプライチェーンの混乱、不動産の陳腐化、エネルギーコストとセキュリティに関する懸念など、重大なリスクが依然として払拭されていない。これらの潜在的な課題を考慮すると、有事に対する敏捷性とレジリエンス(耐性)は成功にとって引き続き重要になる。投資家とテナントの両市場参加者が市場の機会を享受するために“守り”から“攻め”へとシフトする中で、予期せぬ事態に迅速に対応できる者が最も大きな成功を収めるだろう。
パフォーマンスは地理的要因や物件タイプによって異なり、場合によってはサブマーケットやサブセクターでも大きな違いが見て取れる。しかし、多くの主要市場で最適なスペースや立地条件が改善すれば、投資家やデベロッパーに大きな機会がもたらされるだろう(2025年にファンダメンタルズが改善すると予想される具体的な分野については下記を参照)。こうした状況下においてテナント企業にはより積極的な計画が求められる可能性があるが、「質への逃避」とポートフォリオ最適化というトレンドは今後も続くことが予想される。非常に繊細な市場動向を紐解き、先行者利益を享受できる者が次の不動産サイクルを牽引し、新たな価値を生み出すことができるだろう。