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【JLLイベントレポート】データセンター不動産投資戦略:AI・クラウド時代における高成長市場の現状・課題と今後の展望

生成AIを筆頭に多様なデジタルサービスが次々と開発され、膨大なデータを保存・処理するデータセンターの需要が急激に高まっている。データセンター市場確立への期待が高まる中、2024年7月、JLL日本はデータセンターに特化した大規模イベントを開催。今後の市場展望について白熱した議論が繰り広げられた。

2024年 08月 20日
JLL日本、データセンターに特化したセミナーイベントを開催

JLL日本は2024年7月、新たな不動産投資セクターとして期待が高まるデータセンターに特化したセミナーイベント「データセンター不動産投資戦略:AI・クラウド時代における高成長市場の現状・課題と今後の展望」を都内にて開催した。今年発足したJLL日本のデータセンター専門アドバイザリーチームをはじめ、データセンターに精通した多くのゲストが登壇した。

本稿では講演内容(一部)をレポートし、データセンター市場における最新動向・トレンドをお伝えする。

目次
日本のデータセンターマーケット:新しい波と新しい開発要件

AIはクラウド、都市型に続くデータセンターのサードウェーブであり、従来のデータセンターが不要になるわけではない

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JLL日本 キャピタルマーケット事業部 データセンタービジネス推進室長 浅木 文規による講演は日本のデータセンター市場に焦点を当てる。

日本のデータセンター市場の成長に大きな期待が寄せられる中、AIの登場によって立地や要件に対して変化の波が押し寄せているという。注目すべきは、DC開発のエリアが従来注目されてきた地域以外へ広がり始めたことだ。

現状、首都圏・近畿圏に9割以上のデータセンターが集積していると言われているが、データセンターの地方分散を支援する政府の意向などを追い風に、2023年から地方都市へのデータセンター開発計画が次々と明らかになっている。北海道石狩市や苫小牧市、九州、広島県、和歌山県でも大規模な開発計画が発表。これらはAI向けデータセンターと目されている。

AI向けのデータセンターは学習フェーズ、チューニングフェーズ、推論フェーズに分けられ、それぞれのフェーズに合わせ、データセンターに求められる要件(電力消費量、通信品質)が異なる。AIの登場でデータセンターの利用用途が拡大し、さらなる投資機会が生まれている。

データセンター市場を取り巻く環境は急速に変化しており、それゆえ「データセンター用不動産の急速な陳腐化」を危惧する向きもあるが、浅木は「AIによる需要は、クラウドや都市型データセンターに続く第三の波=サードウェーブであり、従来のデータセンターが不要になるわけではない。使用用途によって要件に違いがあることを十分理解することで、それぞれが異なるリスク特性を持った魅力的な投資先となる」と述べた。また、データセンターは、変化が速く考慮すべき要件が多岐に亘る投資先であることについても言及し、「電力等のインフラや建築業界など、様々な業界が連携することが投資を成功に導くカギになる」との見解を示した。
 

グローバルおよびアジア地域のデータセンターマーケット:急成長するDC市場について投資家がいま知るべきトレンドとインサイト

日本はデジタルインフラ・ハブとして米国西海岸とアジア太平洋地域を結ぶ重要なデータセンター集積地として世界的に注目されている

グローバル・アジア太平洋地域のデータセンター市場の最新動向を解説したのが、JLL APAC データセンター リサーチディレクターを務めるグレン・ダンカン。データセンターの需要拡大を牽引するグローバルトレンドについて言及し、データセンターハブとして日本の重要性を強調した。

データセンター市場の成長を牽引する5つのグローバルトレンド

  1. デジタル経済を牽引するモバイル・IoT・アプリケーション

  2. パブリッククラウドの拡大

  3. エッジデータセンター市場の進化

  4. AIと機械学習の衝撃

  5. データセンターハブとしての日本の重要性

こうしたグローバルトレンドにおいて、ダンカンは地域データセンターハブとして日本が果たす役割が非常に重要との見解を示した。

「オフィスや物流施設といった物理的に独立した不動産アセットと一線を画すのがデータセンターの最大の特徴だ。デジタル経済の屋台骨を支える存在であり、地上・海底ケーブル、衛星通信などを介して世界各地のデータセンターが繋がり、グローバルなデジタルインフラ・ハブを形成する。地理的にその一角を担うのが日本であり、デジタルインフラ・ハブとして米国西海岸とアジア太平洋地域を結ぶ重要なデータセンター集積地として世界的に注目されている」

国別のデータセンター・キャパシティと人口100万人あたりのGDPを比較分析すると、日本の潜在的なデータセンター市場規模はGDP比で3倍にまで拡大すると考えられる

JLL APAC キャピタルマーケット トランザクション エグゼクティブディレクターであるボブ・タンはグローバル・アジア太平洋地域におけるデータセンター投資状況について解説した。

JLLの調査によると、データセンターやライフサイエンス不動産などのオルタナティブセクターへの投資額は2019年を機に大幅に伸びており、過去10年間(2013-2023年)の年平均成長率は25.6%と、ライフサイエンス不動産(29.3%)に次いで2位となった。成長の要因の1つに「データセンターに対する市場理解が深まった」ことが挙げられる。

国別のデータセンター・キャパシティと人口100万人あたりのGDPを比較 出所: Structure Research, JLL Research

日本のデータセンター市場の成長予測を裏付けるのは、アジア太平洋地域における国別のデータセンター・キャパシティデータだ。日本は中国に次ぐ2位となり、2023年で1,000MW強、2028年に倍増が見込まれる。国別のデータセンター・キャパシティと人口100万人あたりのGDPを比較分析すると、日本のデータセンター市場規模はGDP比で3倍にまで拡大すると考えられる。

事例で知るデータセンター開発~基礎知識とケーススタディ

いかに迅速かつ安価に電力を引き込めるかがデータセンター開発の成否を握る

JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部の講演では、ジェネラルマネージャー 池亀 知幸、部長 清水 立、プロジェクトマネージャー 段 虹の3名が登壇した。

データセンターを開発する際、最も重視すべきは電力需給環境とされ、千葉県印西市が国内屈指のデータセンター集積地となった理由の1つでもある。大量の電力を消費するデータセンターは特別高圧・超高圧による給電が必要になる。いかに迅速かつ安価に電力を引き込めるかがデータセンター開発の成否を握るという。

一方、処理情報量とデータ密度が高いAIの登場により、データセンターの消費電力量は今後も増加が見込まれる。データセンターのエネルギー効率を表す指標である「PUE」において改正省エネ法で目標設定された「2030年までにPUE1.4以下」を達成するためには、サーバーラックが保管されたデータホール内をいかに効率的に冷却するかが鍵となる。従前の空調冷却とは一線を画す「間接蒸発冷却式空調機」や「二相式ダイレクトチップ冷却」など最先端の省エネ技術に大きな期待が寄せられている。

JLL日本が手掛けたデータセンター開発事例

JLLでは2001年からデータセンター開発を多角的にサポートしており、特に施設開発における事業・施設計画の策定といった上流フェーズの支援において数多くの実績を積み上げており、既存オフィスビルをハイパースケールデータセンターへ用途変更した事例も紹介した。

「建設業界の人手不足は凄まじく、データセンター開発において各施工会社へ分離発注を行わざるを得なくなっている。JLL日本は建設業の許可を受け、事業企画・施設企画からフィットアウトまで、データセンター開発を一気通貫で支援していきたい」(池亀)

JLLのデータセンターイベントでは上記のセミナーの他、インベスターパネルディスカッション(登壇者:PAGインベストメント・マネジメント マネージングディレクター 林 義直氏、ブラックストーン・グループ・ジャパン 代表取締役 シニア・マネージング・ディレクター 橘田 大輔氏、三井不動産 ロジスティクス本部 ロジスティクス事業部 統括 相川 敬子氏)、データセンターオペレーターパネルディスカッション(登壇者:AirTrunk Japan Operating 日本代表 松下 典弘氏、MCデジタル・リアルティ 代表取締役社長 畠山 孝成氏、Princeton Digital Group Co-founder and Chief Operating Officer Varoon Raghavan氏)、データセンター投資に関する法的実務セミナー(登壇者:森・濱田松本法律事務所 弁護士 パートナー 蓮本 哲氏)など、データセンターの市場動向・最新トレンドを解説する多彩なプログラムを提供した。

連絡先 浅木 文規

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 データセンタービジネス推進室長

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